テラーノベル
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「――ねえ、知ってる? 来週からウチの学校、制服になるんだって」
放課後の教室。夕日が差し込む窓際で、星蘭は悲しげに眉を下げ、いかにも「重大発表を聞いてショックを受けた美少女」の顔を作って見せた。その瞳には、今にもこぼれ落ちそうな涙さえ浮かんでいる。通りかかった真面目な学級委員の女子が
「えっ!? 本当!?」
と目を見開いた。星蘭はそっとため息をつき、声を震わせる。
「うん……教頭先生が職員室で話してるの、偶然聞いちゃって。しかも、すっごくダサい緑色のブレザーらしいよ……」
「そんな……! 嘘でしょ……!?」
本気で絶望し始めた学級委員の姿を見て、星蘭の胸の内で歪んだ達成感がパチパチとはじけた。
(あは、引っかかった。相変わらず単純で可愛いなぁ)
心の中で大爆笑しながら、そろそろネタばらしをしてさらにいじってあげよう――そう思った瞬間、背後から影が伸びた。
「そうそう、俺もそれ聞いた」
ひょっこりと顔を出したのは、クラスきってのトラブルメーカー、蹴翔だった。彼は深刻極まりない顔つきで胸に手を当て、深くうなずいて見せる。
「緑のブレザーだけじゃないぜ。男子のズボンは、全面ピッチリしたタイツになるらしい。校長先生の趣味なんだってさ……。俺、もう学校来れないかもしれない」
(ぶっ……!)
星蘭は危うく吹き出しそうになるのを、プロ根性(自称)で必死にこらえた。緑のブレザーまでは現実味があるが、男子全員タイツはあまりにも『曲がった』嘘だ。しかし蹴翔の表情は、まるで世界の終わりを告げる予言者のように完璧だった。
「ええっ!? タイツ!? 校長先生ってそんな人だったの……!?」
完全にパニックになった学級委員は、
「お母さんに相談してくる!」
とランドセルを掴んで教室を飛び出していった。静まり返る教室。二人は同時に、フッと張り詰めていた演技の表情を解いた。
「ちょっと蹴翔。タイツはやりすぎでしょ、すぐ嘘ってバレちゃうじゃん」
星蘭はジト目で睨みながらも、口元をニヤつかせた。
「いいじゃん、面白いんだから。あいつ、今頃ガチで泣きながら親に電話してるぜ?」
蹴翔は悪びれる様子もなく、ケタケタと意地の悪い笑みを浮かべる。曲がったこと、つまり他人の常識や平穏をぐにゃりと歪める瞬間が、彼は大好きなのだ。
「まぁ、いいけど。お陰で私の可愛い嘘が台無し」
「何が可愛い嘘だよ。星蘭の涙目、相変わらずクオリティ高すぎてウケるわ。騙しの天才かよ」
「褒めても何も出ないよ? あ、そうだ。じゃあさ――」
星蘭はパッと表情を切り替え、今度は『可憐で無垢な少女』の笑顔を蹴翔に向けた。
「私、実は蹴翔のこと、4年生の時からずーっと好きなんだよね」
トクン、と教室内の一瞬の静寂。普通の男子なら顔を真っ赤にしてフリーズするようなシチュエーション。しかし、蹴翔は1秒と経たずに、今度は『大人の余裕を気取るトレンディドラマの俳優』のようなキザな笑顔を作って、星蘭の机に両手を突いた。
「奇遇だな、星蘭。実は俺も、星蘭が俺以外の男と話してるだけで、夜も眠れないくらい嫉妬してたんだ。……じゃあ、今から結婚式のプロポーズの練習、する?」
「あはは! 演技がキモい! 1ミリも照れないじゃん!」
「お前こそ! 告白の割に目が全然笑ってねえんだよ!」
二人はお腹を抱えて笑い合った。お互いに嘘つきで、演技派で、人をいじるのが三度の飯より好き。だからこそ、相手のどんな言葉も本気にはしないし、1コマ先の演技で切り返す。
「ねえ、そろそろ帰ろ。今日は駄菓子屋のババアに『実は僕たち、生き別れの兄妹なんです』って設定で買い物行かない?」
「いいね、採用。じゃあ私、生き別れて心を閉ざした妹やるから、蹴翔はそれを必死に支える熱血な兄ね」
「うわ、ハードル高。でも受けて立つわ」
どちらからともなくランドセルを背負い、夕暮れの廊下を歩き出す。
「あ、そうだ蹴翔」
星蘭が歩きながら、ふと思い出したように言った。
「今日の日直、私と蹴翔だったじゃん。黒板消すの忘れてた」
「あ? マジで? ……まぁいっか。明日、先生に『放課後、謎の怪盗が現れて黒板を真っ白に汚していきました』って報告しとこ」
「それ採用。私、怯える目撃者の演技の練習しとくね」
どこまでも曲がった、だけど二人にとってはまっすぐに楽しい放課後が、赤く染まった坂道へと続いていった。
コメント
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らるあると様 第1話、楽しく読ませていただきました! 星蘭と蹴翔の嘘と演技の掛け合いがテンポ良くて、思わず声に出して笑いそうになりました。特に「男子全員タイツ」で学級委員を追い詰める流れと、直後の告白の応酬がぴったりで、二人の関係性が一瞬で伝わってきますね。 「生き別れの兄妹」で駄菓子屋に行くというオチも最高です。この嘘だらけの世界にどんどん引き込まれそう。続きが気になります!