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「ねえ、星蘭。お前ってさ、本当のところ好きな奴とかいんの?」
放課後の帰り道。自動販売機の横で炭酸飲料を飲みながら、蹴翔が何気ない風を装って聞いてきた。いつもの「人をいじるためのネタ探し」のような、いじわるな目がこちらを向いている。星蘭は缶を両手で包み、ふっと視線を落とした。いつもならここで「実は隣のクラスのイケメンと付き合ってる」だの「アメリカに留学中の許嫁がいる」だの、即座に嘘のトッピングを盛り付けるところだ。けれど、今日の星蘭は少し違った。
(たまには、こいつの『曲がったこと好き』の斜め上を行ってやろうかな)
星蘭は演技のスイッチを完全にオフにした。嘘を一切混ぜない、まっすぐな声で話し出す。
「……いるよ。ちゃんと、本当に好きな人」
「へえ? どんな奴? またどうせ、架空の白馬の王子様だろ」
「違う。実在するよ。……名前が全部で、八文字」
蹴翔はニヤニヤしながら
「ほう、八文字ね。文字数縛りのヒントかよ」
と、まだゲーム感覚で聞いている。星蘭は蹴翔の目をじっと見つめた。
「その人の名字、お から始まるの」
「おおはし しゅうと(大橋 蹴翔)」。文字数は全部で八文字。名字の最初の一文字は「お」。星蘭は生まれて初めて、何一つ嘘をつかずに、目の前の男の子の特徴を口にした。心臓が少しだけ、いつもより速くトクンと跳ねる。蹴翔は顎に手を当てて、うーんと考え込んだ。
「八文字……『お』から始まる名字……」
星蘭は、蹴翔がいつ「え、それって俺じゃん」と気づいて慌てるか、あるいはニヤけるか、彼の表情の変化をじっくり観察しようと身構えた。やがて、蹴翔がポンと手を叩いた。
「わかった! 6年3組の、岡田 隼人(おかだ はやと)だろ!」
「……は?」
星蘭は思わず素の声を漏らした。
「ほら、文字数数えてみろよ。『お・か・だ・は・や・と』……あ、6文字か。じゃあ、1組の織田 勇太郎(おだ ゆうたろう)だ! 『お・だ・ゆ・う・た・ろ・う』……7文字。くそ、あと一文字足りねえな。じゃあ誰だ? 塾の奴か?」
自分の名前がすぐそこに転がっているというのに、蹴翔は全く別の男子の名前を大真面目に並べ立てている。人の心の裏をかくのは得意なクセに、自分に向けられた真っ直ぐな矢印には、驚くほど鈍感だった。しばらく一人で「お」のつく男子の名前をブツブツ呟いていた蹴翔だったが、やがて、フッといつものいじわるな笑みに戻って星蘭を指差した。
「あー、はいはい! 降参、降参! また騙そうとしたな?」
「……え?」
「星蘭、お前いま、めちゃくちゃ真面目な顔して『おから始まる八文字の男』なんて、それっぽい条件をその場でデッチ上げただろ。俺が必死にクラスの名簿を思い出して悩む姿を見て、心の中で大爆笑してたんだろ!」
蹴翔は「危ねえ、引っかかるところだったわ」と言わんばかりに、ドヤ顔で胸を張った。
「お前が嘘つかないわけないもんな。『本当のところ好きな人』なんて言っちゃってさ、相変わらず演技派すぎてビビるわ!」
星蘭は、あきれるのを通り越して、なんだか笑えてきてしまった。せっかく100%の本音を言ったのに、日頃の行いのせいで「高度な嘘」だと勝手に深読みして、勝手に納得している。
「あはは……。うん、大正解。やっぱり蹴翔には敵わないや」
星蘭はすぐにいつもの『いたずらっぽい小悪魔』の笑顔を貼り付けた。
「だろ? お前の嘘のパターンはもうお見通しなんだよ」
自慢げに歩き出す蹴翔の背中を見つめながら、星蘭は小さくため息をつく。
(私の名前は「ほしらのせら」で、7文字。……いつか、あいつが自力で気づく日は来るのかな)
「ほら、早く来いよ星蘭! 遅れると駄菓子屋閉まっちゃうぞ!」
「待ってよ、お兄ちゃん!」
星蘭はすぐに『生き別れた妹』のスイッチを入れ、鈍感な「お」から始まる男の子の後を追いかけて走った。
コメント
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みぅだよ🖤🥀 第2話、めっちゃ好き……「本当のこと」を言ったのに“高度な嘘”って処理されちゃうの、胸がキュッとした。星蘭が一生懸命まっすぐに気持ちを伝えようとしてるのに、蹴翔が完全にスルーして違う男子の名前並べるのが、なんか切なくてちょっと笑えた(笑)。最後に「お兄ちゃん」って妹スイッチ入れ直すとこも、星蘭の強がりと健気さが滲んでてすごく好き。続き、めちゃくちゃ気になるよ🌙👣