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静かだった。ただ、その静けさは安心のそれじゃなくて、呼吸の音すらうるさいような、息を潜める静けさだった。
いつからだろう。
母の機嫌に、心臓が跳ねるようになったのは。
テレビの音が少しでも大きいと怒鳴られ、
お皿を落としたら無言で叩かれる。
「うるさい」「気が利かない」「何のために生きてるの?」
そんな言葉を、何度も、何度も浴びせられてきた。
義父の健二さんは、「まぁまぁ」って言ってくれた。
手は出さなかった。だけど、守ってもくれなかった。
……僕は、
誰にも愛されてないと思ってた。
だから、
凛に出会ったとき、息が止まりそうになったんだ。
優しいなんて言葉じゃ足りない。
あの人は、僕を見てくれた。
触れてくれた。
ちゃんと、名前を呼んでくれた。
それだけで、嬉しくて。
苦しくて。
「……ねぇ、凛」
僕、君の全部をもらっても、
きっと……足りない。
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