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積み上げた物は想像以上にすぐ崩れる


「ベストセッター賞、及川徹!」

及川「はい‼︎」

中学3年、あの強豪北川第一でベストセッター賞を取った。

自分がとても誇らしくて、今ならなんでもできると思っていた

アイツガイナケレバ


背後に2人の天才が現れた、鬼の左手を持つ奴、天性の才を思っている奴紛れもなくそいつらは世に言う【天才】だった、追いつかれない様、走り込み、自主練、全てに時間を費やして本物の天才と見分けがつかない様にした、だが、やっぱり俺は天才ではないみたいだ。

積み上げた物はあっさり崩されてしまい、また1から積み上げて積み上げての繰り返し、そんなのもう飽きた。

「あぁ、もうやめたいな…」

そうだ、バレーさえ捨ててしまえばこんなことを繰り返さずに済むし悩まずに済む、あの劈くうるさい笛の音も、点差が開いていくあの得点表も、全部全部捨ててしまえ。

「ねぇ、岩ちゃん….」

『一緒に逃げない….?』

岩泉「…はぁ…?」

岩泉「なんで今更….」

及川「もう、バレーさえやめて仕舞えばこんなめんどくさい事しなくて済むんだよ」

及川「だから、俺と一緒に逃げよう!」

岩泉「お前….正気か?」

及川「ん〜?いつも真面目だよ?」

及川の目は光がなく、本当にバレーを捨てる目をしていた。

黒よりも闇が深い様な、吸い込まれる様に真っ黒な目をしていた

岩泉「…悪いが、俺は続ける…」

及川「….そっか」

及川「じゃあ俺だけ、」

ガラガラガラッ….

バタンッ….

岩泉(あいつの目、今まで見た事ない目してたな….多分あれ、本気だ)

及川(なんで?岩ちゃん、やめたらあの牛若から逃げられるんだよ?みんななんで俺の味方じゃないの?)

及川「….」

及川「ビルか….」

あの時、なぜ足がビルに向かっていたのか、なぜビルの屋上を目指したのか、自分自身でも訳がわからない

及川「…!あれ?なんで俺こんな所にいるんだ…??」

ヒュオッ….

及川「うわ!風強!」

トッ….

及川「あっ….」

ガシッ‼︎

岩泉「お前!何してんだ‼︎」

及川「え….岩ちゃん、なんでここに…」

岩泉「なんでって、相棒があんな目してたら誰でも心配するだろ‼︎」

及川「…!!」

及川「俺は!バレーをやめ」

岩泉「やめるとは言わせねぇよ‼︎」

及川「…なんでだよ‼︎」

岩泉「お前は!バレーをしてるときが一番楽しそうだ‼︎今は確かにやめたくなるかもしれんが、その積み上げて来た物はなくならない‼︎」

及川「そんなの‼︎積み上げた来た物なんか簡単に壊されるんだ‼︎それが….もう、怖いんだよ…..」

及川「岩ちゃんだって!!あの牛若にスパイク何番止められた⁉︎あの牛若に何番点取られた⁉︎俺は!勝つために努力するのが無駄になるかと思うと怖くなるんだ!!」

岩泉「そんなの‼︎お前が臆病なだけだ!!」

岩泉「俺が知ってる及川徹は‼︎勝つために努力をして‼︎味方を信じて‼︎クソ生意気でクソウザい最高の相棒だ‼︎」

岩泉「そんなに臆病な及川徹はいない‼︎」

及川「….!!」

ポロポロッ

及川「グスッ….ごめん、俺、自分を見失ってた、グスッ….」

係員「‼︎」

係員「君たち!!ここで何してるの!早く帰りなさい‼︎」

岩泉「あっ、はい!」


岩泉「…なぁ」

及川「なぁに」

岩泉「高校の話なんだけど、」

岩泉「青城、行かねぇか」

及川「いいよ、岩ちゃんに俺はついてく」

岩泉「じゃあ決まりな、」

岩泉「青城で、あの牛若ぶっ倒して最高の青春送ろうぜ」

及川「あぁ、やってやろう‼︎」


時は過ぎ高校3年生、俺たちは予定通り青葉城西高校に進学した。

最高のチームを築きあげたと思い、今ならあの牛若にも崩されない様な鋼鉄の塔を作ったつもりだった、が

春高バレー宮城代表決定戦準決勝、俺たちはあの烏野に負けた。

その烏野には、あの、【影山飛雄】がいた

やはり俺は天才ではなく凡人で、本物の天才には敵わなかった、自分より下だと思っていたのに、いつのまにかあの劈くホイッスルが鳴っていた。

こんなに強い塔を作ったのに、誰にも崩されないと思っていたのに、本当はすぐに崩れてしまう藁に過ぎなかった、今の飛雄は俺よりも高い所に居て見下ろされていた、前崩したはずなのに本当は崩れておらず多少ズレただけだった、俺とは全く違う、俺も何かの天才と言われてみたい人生だった。

及川「また負けちゃった、もうチャンスはないのか….」

及川「じゃあまた、アルゼンチンに行くまでに」

『もう一度、じっくり、丁寧に積み上げて絶対に崩れない様な塔を作ろう』


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