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とうとうこの日が来てしまった。

着慣れないタキシードに違和感を覚えながら、徐々に人だかりになっていく広間の扉の前で狼狽えている。落ち着かない心は加速し、俺の手は何度もネクタイを弛めては締めるを繰り返していた。

杉元「イポプテ」

いきなり名前を呼ばれたので口から心臓が出そうだった。

有古「す、杉元…」

1呼吸置いて振り返ると、声の主は杉元だった。彼の隣には、綺麗なドレスを身にまとったアシリパが付いている。

リパ「似合ってるじゃないか!イポプテ」

有古「あ…ありがとう」

杉元「…まだ相手来ないのか?」

有古「っ、まぁ…来てくれるか、わからない」

杉元「?どういうこと?」

有古「俺から誘ったんだ。交流会の前の日に。……OKは貰えたが、実は俺となんて踊りたくないんじゃないかって…………ウッ!?」

杉元「アシリパさん!!??」

弱気な素振りを見せるイポプテが、アシリパさんに腹を殴られた。放心状態の有古は、状況が理解できないという様子だ。まあ当然だが。

リパ「そんなに弱気になっていたら、相手を不安にさせるだろ!!お前がリードせずに、誰がやると思う!?」

アシリパさんの確信づいた言葉に、有古ははっとしていた。少し間を置いてから、そうだよな、と返事をする。プリプリしているアシリパさんと、相変わらず困ったままの有古を他所に、後方の人がザワついているのを感じた。

杉元「アシリパさん、あれ…」

リパ「どうした?杉元」

皆が後ろを振り返る。後方の人だかりが、割れるように道を開けていく。どうやら人を通すようだ。それも女の子。自分たちの近くまで道が出来たところで、やっとその子の正体がわかった。

杉/リパ「イヴァンナ/さん!」

イヴァンナさんがこちらに気付き、軽く手を振ってくれた。息を飲むほどに美しかった。誰と踊るのか気になって、周囲を見渡してみる。すると、イヴァンナさんを見て顔を赤くする有古を見た。

杉元「もしかして…」

リパ「イポプテやるな…」

アシリパさんと小声で耳打ちをする。

イ「遅れてごめんね。誘ってくれてありがとう」

_____

彼女は群衆を割るように歩いてきた。

きっちり結い上げられた髪に、淡いブルーの綺麗なドレス。それに負けないほど整った顔。その全てが「美しい」という言葉だけでは形容できないほど、彼女に目を奪われた。彼女はまるで、一夜の魔法にかけられたシンデレラのようだった。男から女までみんな彼女に釘付けだ。

イ「遅れてごめんね。誘ってくれてありがとう」

別に遅刻をしてきた訳では無いが、その礼儀正しい振る舞いにまたひとつ彼女を好きになる。

有古「…いや、待ってない。…来てくれるとは思わなかった」

俺の言葉が理解できないというように、眉じりを下げながら笑って答えた。

イ「当然行くよ!それに、私も誘ってくれるなんて思わなかった!もし誰も誘ってくれなかったらこのドレスも着れなかったし…ほんとにありがとう」

彼女から発せられる言葉一つ一つが、鈴の音のように、小鳥の囀りのように感ぜられた。

有古「その……よく、似合ってる…ドレス……」

素敵だと伝えるだけなのに緊張して目を見られない。

イ「ありがとう!有古くんこそ素敵だよ」

俺の顔をのぞき込むように、彼女は言う。その悪戯な表情さえ、俺を夢中にさせた。

パーティが始まるまで5分を切った。ドクドクと鳴り響く心臓音が、彼女にまで聞こえてしまいそうで怖かった。

_____

リパ「イヴァンナ!すごく綺麗だな!!」

イ「ふふっ、ありがとう。アシリパこそ、そのドレスよく似合ってる」

リパ「ああ、ありがとう!これは杉元と選んだんだ!」

イ「ええ!?そうなの…!?」

頬に手を当てて、イヴァンナは私と杉元を交互に見た。

杉元「ちょっとアシリパさん…!恥ずかしいって……」

リパ「何を言ってるんだ杉元!お前もよく似合ってて良いじゃないか!」

イ「うんうん、杉元くんも素敵!」

杉元「よせやぁい……」

そういう杉元も満更でもなさそうだった。

リパ「イポプテ、大丈夫か?笑」

対するイポプテは、緊張でそれどころでは無さそうだ。

有古「っ、あぁ」

イ「大丈夫、練習思い出してやってみよ?失敗しちゃっても、いい思い出になるし!」

杉元「そうだぞイポプテ、楽しむことに意味がある!」

リパ「杉元の言う通りだ!心から楽しまなくちゃ損だ!」

有古「ああ、わかってる…」

_____

俺が緊張している理由は、ダンスが上手く踊れるかどうかじゃない。…いや、もちろんそれも不安だが……

好意を寄せる彼女と2人で踊ることに緊張しているのだ。

彼女と2人でダンス。心も体も距離が縮まる。それも今までにないほどに。彼女を近くに感じれば感じるほど、不安と焦燥に駆られて気が気ではいられない。声を掛けられるだけで気が動転して、冷静に判断できない。こんなに心をかき乱されるのは、初めての事だった。

そして、ついにその時が始まる。

貴女の瞳に幸せが映りますように

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