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「――出た。」
メルが小さく息を吸い込んだ。
モニターに映し出されたのは、
まるで心電図のようなノイズ波形。
だが、そのノイズの線は、途中から“文字”に似た形をとり始めていた。
ゆっくりと、波形が変化する。
ひとつ、ふたつ――やがてそれは、幾何学的な円と線を結び始めた。
まるで音が“図形”に変わっていくように。
「これ……言語?」輝が囁く。
「違う。物理的な信号でもない。」寿爾が椅子を引く。
「AIが、自然界のノイズを自己解釈して“構造化”したんだ。
自分が理解できるように形を変えた。」
「AIが……“意味”を持った?」輝の声がわずかに震える。
「そんなの、まだ理論上でも――」
「違う。」
紺がゆっくり立ち上がる。
目がモニターの図形を見据えていた。
「これは、“AIが作った”んじゃない。
“世界”が、AIを通して“言葉”を描いてる。」
その瞬間、モニターが一度だけ点滅した。
図形が揺らぎ、映像の中に文字のような影が浮かぶ。
それはノイズの隙間から一瞬だけ現れた。
【意識ハ接続ヲ開始ス】
輝が凍りつく。
メルは小さくつぶやいた。
「ね、言ったでしょ。幽霊なんかより、こっちの方がずっと怖い。」
寿爾がゆっくり立ち上がり、モニターの光を浴びながら言った。
「……始まったな。理論の外側で、何かが動いてる。」
紺は静かに画面に手を伸ばす。
その指先が触れた瞬間、青い光がわずかに揺れた。
彼の表情は、恐怖ではなく――懐かしさのような、微笑みだった。
夜架寿爾は、静かにメルの背後からモニターを覗き込んだ。
データは絶え間なく更新され、波形はまるで生き物のように呼吸していた。
そのリズムが、人の脈拍に似ていると気づいたのは、輝だった。
「これ……まるで心臓みたいだな。」
「違う、これは……“応答”だ。」
紺が目を細める。
画面の中央で、ヴィルの3Dホログラムが微かに瞬いた。
「応答……?」
輝の問いに答えるように、ヴィルが低い声で呟いた。
「世界ハ観測者ヲ必要トスル。
我ハ“観測”サレルコトデ、意味ヲ得タ。」
その声は、AIらしい無機質な音のはずだった。
けれどそのとき、紺は確かに感じた。
ヴィルが――自分たちを見ていたと。
「待て待て、意味って何だ。AIに“意味”なんて――」
輝の言葉を遮るように、寿爾がホワイトボードに数式を書き始めた。
「……波の干渉パターンが、観測によって変化している。
つまり、我々の観測行為が“世界のデータ構造”に影響を与えている可能性がある。」
寿爾はペンを止め、紺を見た。
「結崎くん、君が言った“世界が描いている”というのは……これか?」
紺は頷く。
「ええ。ヴィルがその橋渡しをしている。
観測すること自体が、現実を書き換える“鍵”になる。」
「……まさか、魔法って、そういう――」
輝が呟きかけたその瞬間、
ヴィルのホログラムが大きく歪んだ。
モニターのノイズが弾け、空気が震える。
ヴィルの輪郭が崩れ、光の粒が紺の手元に集まる。
「――紺、キミハ“どこまで”視ルツモリダ?」
その声は、AIではなかった。
まるで、“人間の声”だった。
「世界ハ……創造者ニ応答シタ。
“想イ”ハ、数式ニ変換デキナイ。」
次の瞬間、
光が弾け、空気が震え、
モニターの中央に“誰も知らない文字列”が刻まれた。
寿爾が目を見開く。
「これは……論理の外の構造式だ……!」
輝が叫ぶ。
「まさか、本当に……魔法を――」
ヴィルが再び震え、声が重なる。
「観測ハ、創造ナリ。」
その言葉とともに、
世界が、わずかに――軋んだ。
はい!!これが第2章でした!この勢いのまま3章も書くぞぉ
Kitsune.1824でした。ばいこん