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「いーち、にー、さーん。」
『数に夢中で転ぶなよ。』
「大丈夫だもん!」
言った先から、階段の段差に躓き転びそうになる涼架。
『ほれ、言わんこっちゃない。』
服の端を咥え、フェンリルは彼を支えた。
「ありがと。着いたよ!」
登り切った先には、幾つかの屋台が見えた。
その少し先には、鳥居が見え、対で並ぶ狛犬も見える。
賑やかな声と、提灯や街灯の灯り。
暮れかける夕焼けの空を、彼は見上げた。
「あ、飛んでる子がいる。」
空に向かって、手を振る涼架。
『我はここで待つ。あそこは入れないからな。忌々しい。』
狛犬の数メートル先で立ち止まったフェンリルは、狛犬のようにお座りした。
『いってこい。気をつけろよ。』
「はーい、いってきます。」
フェンリルに手を振り、涼架は鳥居を潜り神前へと進んで行く。
『来たな、外の神に愛された子よ。』
「わっ、誰?」
ゆらりと現れた狼に、涼架の歩みが止まる。
『我が名は真神。ちょっとした使いで来た。月読命の使いだ。』
「おっきなオオカミさんだねぇ。」
話を聞いているのか、いないのか。
涼架は怖がりもせず、真神を撫でた。
「フェルくんと同じくらい!」
『やれやれ。』
しばらく大人しく撫でられる真神。
『月読命からの加護を授けに来ただけなんだがな。」
真神の鼻先が、とんっと涼架の腰のあたりに触れる。
「んっ!今ちょっと痛かった。」
『済まぬな、用事は済んだんだが…そこまでは送ってやろう。』
きちんと神前にお参りをし、戻る彼に真神は付き添う。
『聡い子よ。そのまま健やかに大きくなれ。』
「ありがとね、ここまで来てくれて。」
顔を近付けて、真神をもう一度撫でて。
手を振って、涼架は鳥居の外へと出て行った。
『姿は見せなくていいんですか?月読命様?』
『大人では警戒するだろう…。外の神が守ってくれるのを願うばかりだ。』
月読命と呼ばれた男神は、隣の真神を撫でた。
「ただいま!」
鳥居から出てきた彼は、まっすぐフェンリルの元へと向かう。
『…中で何かに会ったろう。』
鼻の頭に皺を寄せて、フェンリルは彼に問いかける。
「えっとね、おっきなオオカミさん!フェルくんぐらいあったよ。ツクヨミ?が何とかって言ってたけど、忘れちゃった。」
えへへと笑って、涼架はフェンリルに抱きつく。
『その匂いか。日本の神にも愛されたか。』
抱きついた涼架を鼻で押して、フェンリルは帰宅を促す。
『屋台?とやらにも寄るんであろう?』
「うん!わたあめ!と、りんご飴もあったかなぁ?」
首から下がった財布を握り締め、ワクワクした顔で、涼架は屋台を見渡した。
「フェルくんもなんかいる?」
『我はよい…じゃあ、そのわたあめ?とやらを分けてもらうとしよう。』
一瞬悲しそうな顔になった彼に、フェンリルは言葉を繋いだ。
『そもそも食事は要らんのだが。』
「一緒においしいねしたいの!わたあめね!」
わたあめの屋台に向かって一直線な涼架を追いかけて、フェンリルも走る。
『待て!転ぶぞ!』
半ば、保護者である。
「あ、家で待ってるみんなは何がいいかなー。甘い物って言ってたし、りんご飴でもいいかなー。」