テラーノベル
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修太郎さんの言葉に、私は固まってしまう。
(幼い私に、修太郎さんが絵本を読み聞かせてくださった……?)
そこでふと、断片的に時折フラッシュバックする、穏やかなお声のお兄さんを思い出す。
私が本好き――ひいては夢見がち――になったのは、その人の影響だった。
過日、彼が読んでくれたお話は、どれもとても楽しくて、キラキラと輝いて感じられた。
幼い私はそのお兄さんのお膝の上で、「次は?」「次は?」とワクワクしながら何冊もの本をせがんでは読んでいただいたのだ。
彼は、小さい子供のワガママだと聞き流すことなく、優しく微笑んで、乞われるままに何冊も何冊も読んでくださって……。
4歳の私には、少し難しかったかもしれないイラストのないようなお話も、彼が読んでくださると、不思議と情景が目に浮かんで臨場感に溢れた。
それは、多分読みながら時折私が座る膝を揺すってくださったり、私を高く抱き上げてくださったり……そういう工夫を凝らしていただけたからだと思う。
『しゅーおにいちゃん、だいすき!』
頭の中に、幼い頃の自分の声が聞こえてきて、私は瞳を見開いた。
「しゅーおにいちゃん……」
茫然と私が呟いた一言に、修太郎さんがハッとして私を見つめていらした。
「日織さん、まさか覚えて……?」
(私、何故、今まで思い出せなかったの……?)
修太郎さんと市役所で初めてお会いした時、私は修太郎さんのお声を聴いて、何て心地よい声をした方なんだろう、と思った。確かにあの時、私は幼い頃に読み聞かせをして下さったお兄さんのことも思い出したのだ。
なのに、繋がらなかった。
それに、修太郎さんの眼鏡を外されたお顔。彼の裸眼のお顔に、何度か既視感を覚えたことがあったのを思い出して、私は修太郎さんをじっと見つめた。
「修太郎さん、あの、その頃は眼鏡……」
恐る恐る問えば、
「かけていませんでした」
と返ってきて……。
私はそろそろと両手を伸ばすと、修太郎さんのお顔から眼鏡を取る。
こうして見つめると、確かに修太郎さんはあの夏の日の〝しゅーおにいちゃん〟で。
「ごめんなさい。私、なんで今まで……」
思い出せなかったことが、とても恥ずかしくて情けなくて……。
私は修太郎さんのお顔を見つめたまま動けなくなった。
「仕方ないですよ。あのころ貴女はまだたったの4歳でしたから」
修太郎さんと私の年齢差は13歳。とすれば、当時彼は17歳だったということで。
年齢のお話になった途端、修太郎さんが申し訳なさそうなお顔でうつむかれた。
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「気持ち悪いですよね。17の男が4歳の女の子に心奪われてしまった、とか……」
それは世間的にはロリータコンプレックスとか幼女趣味だとか言うのだと思ってしまって、修太郎さんはずっとその気持ちを封印し続けていたのだとおっしゃった。
「それに、どんなに可愛い、好きだ、と思っていても、日織さんは健二の許婚だ。僕にどうこうできるものではないと自分に言い聞かせていました」
お二人のお父様でいらっしゃる神崎天馬氏は、修太郎さんが7歳の頃に、健二さんのお母様でいらっしゃる宮美さんと再婚なさったそうで。
修太郎さんはその少し前に離縁された実母の絢乃さんとともに生家を出たかったけれど、大事な跡取りということで、許してはいただけなかったらしい。
***
そこまでお話をうかがったところで、デザートがやってくる。
食べ終わった食器類が下げられて、代わりに運ばれてきたのは、
「タルトタタンでございます」
各々の前に、飴色に光るりんごのお菓子が並べられた。
「美味しそうね」
佳穂さんが健二さんと顔を見合わせてにっこり笑われる。
「私と健二のことは気にしなくていいから二人でしっかり話してね?」
ちょうど話が中断されたタイミングを見計らって、佳穂さんがおっしゃる。私はこくりとうなずいた。
「ありがとうございます」
修太郎さんもお二人を見て軽く首肯なさってから、「日織さん、僕たちも少し食べてから話しましょう。とても美味しそうですよ」とおっしゃった。
コメント
2件
しゅーおにいちゃん!
しゅーおにいちゃんだったんだね…!!😭💕 幼い頃の記憶が繋がった瞬間、胸がぎゅーっとなったよ。4歳の日織ちゃんに読み聞かせしてた17歳の修太郎さん、その頃から想ってたってのが切なすぎる…「気持ち悪いですよね」って自分を責めるとこ、こっちまで苦しくなった。タルトタタンで一旦話が落ち着くのもまたエモい構成だった!次が気になりすぎる…🌸