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夕焼けと夜の境目がにじむ放課後、校舎裏の坂道で仁人は立ち止まった
耳元で風が通り抜ける
手には白い封筒
伝えきれなかった想いを閉じ込めた告白の手紙だ
「……言えるわけないよね、こんなの」
仁人は空を見上げた
今日の夜、空にはストロベリームーンが浮かぶらしい
“その月に想いを伝えれば、恋が叶う”
そんな噂を信じて仁人は今日、手紙を渡すはずだった
相手は、同じクラスの佐野勇斗
いつも騒がしくて女子にも人気があって、仁人とは正反対の存在
でも、彼の何気ない優しさに、ずっと前から惹かれていた
その夜
仁人は思い出の場所へ向かった
校舎の裏、誰も来ない小さな丘
去年、勇斗と偶然一緒に見たストロベリームーンがきっかけで彼のことが気になり始めた
草の香り、月の光、静かな風
全部が、去年と同じ
でも、今日は一人
ポケットに入れたままの手紙が少し湿っていた
「……来ないよね、やっぱり」
そうつぶやいて仁人は手紙を取り出そうとした――そのとき
「おーい! 仁人!」
風の中、聞き慣れた声が響いた
「え……勇斗……?」
制服のネクタイをゆるめたまま、汗をにじませて駆け寄ってくる彼がいた
「遅れてごめん! なんかさ、嫌な予感して、校舎まわってたら……ここにいる気がしてさ」
息を切らせながら、仁人の前に立った勇斗は、少し照れたように笑う
「……去年も、ここだったろ? ストロベリームーン、見たの。俺さ、今年も一緒に見たかったんだよ」
心臓がうるさくて、うまく呼吸ができない
手紙を渡すタイミングも、勇気も、すべてが崩れていった
でも
「仁人、俺……お前のこと、好きなんだけど」
先に言ったのは、勇斗のほうだった
「仁人って、いつも俺を見てくれてたよな。
それが、なんか……嬉しくて。気づいたら、お前ばっか見ててさ。今日、言いたかった」
ストロベリームーンが、ふたりの間に淡い光を落とす
仁人の手から、封筒がそっと落ちた
それに気づいた勇斗が拾って、にやっと笑う
「……これ、告白の手紙?」
「ち、ちがっ……」
「違わないでしょ。読んでいい?」
「だ、だめっ……!」
笑い声が、夜空に響いた
今年のストロベリームーンは、ちょっと泣きそうになるほど綺麗だった
そして来年も、きっとここでまた
END