だいたいのイベントの始まりはユウがきっかけである。それは言葉から始まることもあれば、行動から始まることもある。1つだけ言えるのは、突然に始まるので誰もが驚いてしまうのだった。
「パーティーがしたい!」
ユウは全員が集まっているリビングで、ふよふよと浮きながら、高らかにそう宣言した。
「パ、パーティー?」
「しかし、ユウ。この前、パーティーをしたばかりではないか。あまりいろいろな種類の食材はないぞ? 取りに行くにしても、明日や明後日の開催になるだろうな」
ムツキが少し驚いたように呟くと、さらに、ナジュミネが先日の4人の歓迎パーティーの話を持ち出した。
「やだ! 今日がいい! みんなで楽しいパーティーをしたい!」
ユウがムツキやナジュミネにすぐに反対する時、これは「私、反対、受け付けない」モードになっていることを表している。つまり、今日中に何かしらのパーティーをしなければならない。
「僕もユウに賛成かな!」
「さすが! メイりん師匠!」
メイリがユウに賛成すると、ユウは嬉しそうにメイリに後ろから抱き着いた。
「ん? おいおい、ちょっと待ってくれ。いつの間に、メイリがユウの師匠になったんだ? ナジュ、何か知っているか?」
ムツキはパーティーよりもユウの発言が気になり始める。そのまま、何かを知っていそうなナジュミネに訊ねてみる。すると、彼女は腕組をしながら記憶を辿るように上を見つめる。
「うーむ。たしか、メイリが悪戯の天才だとユウが認識したようで、悪戯を学ぶべくユウ自ら弟子入りした覚えがある」
「おーい、メイリ、ユウは神様だぞ? 神様に変な悪戯を教えるなよ? ちょっとしたことで世界が変わるんだぞ?」
ムツキは肩を少し落としながら、メイリに釘を刺しておく。
「大丈夫だよ! 僕が教えるのはだいたいダーリン関係の悪戯だから♪」
「全っ然、大丈夫じゃない! 『だから♪』じゃないだろ!」
メイリの言葉にムツキが思わず声を荒げた。すると、彼女は目を潤ませた後に俯き加減でゆっくりと言葉を出していく。
「ダーリン……ぐすっ……ごめんね……そんなに怒らないで……」
「あ、いや、怒っているわけじゃ……その、いや、泣かないでくれ……すまん……」
「旦那様、それ、メイリの嘘泣きだぞ」
ムツキが困っているようなので、ナジュミネが助け舟を出す。彼が再びメイリを見ると、バレたという笑顔で舌を出している。
「……てへっ」
「メイリ……」
ムツキは何とも言えない表情でメイリを見つめていた。
「勉強になるなー」
「はぁ……そんなことを勉強するなよ……」
ユウの言葉にムツキが溜め息を吐きながら反応する。すると、彼女は目を潤ませた後に俯き加減でゆっくりと言葉を出していく。
「ムツキ……ぐすっ……ごめんね……そんなに怒らないで……」
「いや、この溜め息は怒っているわけじゃ……その、困ったな、泣かないでくれ……」
「……旦那様? それ、ユウの嘘泣きだぞ」
ムツキがまたまた困っているようなので、ナジュミネは少し呆れたように再び助け船を出す。彼がユウを見ると、メイリと彼女が同時に舌を出している。
「……てへっ」
「ユウ……」
「いや、続けて2回も引っ掛かるムッちゃんが悪いわよ、これ」
リゥパがムツキを見て呆れている。隣にいたコイハやサラフェ、キルバギリーも同様の表情である。
「さすがに続けてはないだろ……」
「そうはならないでしょう……」
「わざとじゃないかってくらいにループを繰り返しましたね……」
しばしの沈黙。耐えきれなかったのはもちろんムツキで、思い出したことがあって、口を開き始めた。
「あー、あー、そうだ。パーティーだな。ケットが、いい肉が手に入った、と言っていたな。だったら、夏らしくバーベキューなんてどうだ?」
「バーベキュー!」
「バーベキュー?」
「バーベキュー?」
「バーベキュー?」
「バーベキュー?」
「バーベキュー?」
「バーベキュー?」
ユウ以外の女の子たちはその単語に首を傾げる。
「あ、そうか。こっちにはないんだったな。外で食べるんだが、肉や野菜を串に刺したり、鉄板の上に置いたりして、薪や炭の上でじっくりと焼いて食べるんだ。あとは米を飯盒という鉄の箱に入れて炊いたりするんだ。飯盒で炊くごはんは美味いぞ。みんなで作業するから楽しくできるしな」
ムツキが説明すると、全員が興味ありそうにする。
「前にした時も楽しかったんだよ! 串にいっぱいお肉を刺して、外で食べるご飯って美味しいし、楽しいよ! それに、ムツキが料理するんだよ!」
ムツキは実は調理に関して呪われていない。そのため、調理はできるのだが、単純に料理が下手なのと、妖精たちの方が料理上手なので台所に立つことがないだけである。
そう、焼く作業だけなら彼でもできる。ただし、焼き加減を誰かが見張る必要があり、本当に焼き場に立って作業するだけである。
「それは魅力的な話だな」
「ムッちゃんが料理をしてくれるの? いいわね。それに、いろんなものを串に刺して焼くのは楽しそうね」
「まあ、サラフェは美味しいものなら何でもいいですよ」
「サラフェ、あなたも何か手伝うのです。想像するにみんなで支度をしながらも楽しみの内と判断します」
「外ってのは、俺たちなんか慣れっこだけど、焼肉はたしかにいいよな」
「ダーリンの手料理を食べるの楽しみだね! 味付けは何だろう?」
「うーん。塩とかでシンプルなものが多いかな。まあ、好きにやるのがバーベキューだ」
ムツキは細かいバーベキューの作法を知らないので、とりあえず好きに焼くものというイメージだ。しかし、周りはバーベキューすら知らないので、誰も正解を知らないという意味でほぼ問題にならない。
「ねえ、ムッちゃん、肉や野菜以外を焼いてもいいの?」
「まあ、食べ物ならたいていはいいと思うけど」
「決定! バーベキューパーティー! ケトちん!」
ユウがケットを呼ぶと、ケットは台所の方からタオルで手を拭きながら現れる。
「はーい……はいニャ。ユウ様、呼んだかニャ?」
「バーベキューがしたい! 晩ごはんでいいから!」
ケットがムツキの方を見ると、彼がゆっくりと頷いていた。彼女のワガママで避けられないイベントであるということをアイコンタクトしている。
「わかったニャ。じゃあ、お昼ごはんの準備が終わったら、お肉や野菜を切って用意するニャ」
ケットは再び台所の方に戻って、妖精たちにパーティーの準備をするように指示をしていた。
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