テラーノベル
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ここが、おれの隣が、きみの居場所であるなら。それほどに嬉しいことはないだろう。
なんでも吐き出せるところ。ずっといても、ずっといなくてもいいところ。何かを一緒に考えることも、静かに寄り添うこともできるところ。 そんなところがあればいいなと、他でもないおれが思ったから。
おれは、きみのどんな言葉も受け入れて、どんな判断も肯定して、どんな夢も応援しようと。
思ってたんだけどね。
「ねぇ見て兄さん!! この前失敗した化学兵器ちゃんと作れたよ!!」
流石にこれはちょっと止めたほうがいいかもしれない。
なにせ他の船員に被害が及ぶ。
「……あのね、青」
「どうしたの兄さん!!」
「毒って危険なーだよ」
「そう……だったの……!?」
「ピンクに諭された瞬間青天の霹靂みたいな感じ出すのやめなさい」
青の後ろから紫も顔を出す。ちょうどいい、止めてくれるかな───なんて思ったんだけど。
「こういうのはピンクに報告しない方が上手く事が進むの」
「こら」
青に教える内容としてちょっと良くない。非常に良くない。
そういうやりとりをされると、また『お願い!! ピンク権限で青を止めて!!』ってみんなに泣きつかれてしまう。いや、泣きつかれるのは良いとして、みんなが泣いてしまう。
特に船長とかこの前、おれの対面にわざわざ座って、じっとこちらを見ながらも一切喋らないっていう奇行してたから。
「青。おれはきみの夢を確かに応援しあけど、宇宙船で毒薬を扱うことまで応援しあ覚えはないよ……」
「そっか、ダメだよね、ごめんなさい……」
「この問題児筆頭手のひら返しの速度が異常すぎる……2年くらい船長と副船長に殺されかけてきた歴史はなんだったん……?」
大丈夫だよ、紫。明日になったら青は元通りになってる。
どうやらおれの言葉というものには、即効性がある代わりとして持続性がないらしい。青ってば、十数年前の約束を未だに覚えてるのに、昨日発したごめんなさいは忘れちゃうんだから困った。
青の悪友を名乗る(青の方が私の悪友なんだ、と言っていたっけ?)紫は、彼を増長させるばかりだし。
「もう。誰かを助えるために医者になったんだろう?」
「いや、兄さんに応援してもらった夢を叶えるためだけど」
「……おれに応援される前は……」
「お父さんが医者だったからとりあえず憧れたというか、同じことがしたかっただけというか」
「……つまり誰かを助えたかったってことだろう?」
「あ、拡大解釈し始めた」
「まあ兄さんがそう言うならそうなのかも……」
「青ー? コントかってくらいちょろいよー??」
「コントだけど?」
「コントなんだ」
どうやら自覚のあるらしい青は、迷いのない眼差しで言い切った。紫は「こやつ……」と天を仰いだり、かと思えば頭を抱えたり、忙しそうだ。……こんとってなんだろう?
とりあえず青はおれの話を聞いてくれるみたいなので、今のうちに説得しよう。
「とにもかくにも! 青はもう少しおれ以外も慮ってみよう?」
「はーい!!」
「げ、元気だな……」
即答だった。自分が今さっきまでしていたこと、覚えてるんだろうか?
どうやらおれたちのやりとりを聞いていたようで、紫が立ち直ってきて、にこにこにまにま交互におれたちを見る。
「ふーん。ま〜ピンクが口添えしたんなら明日までは青もやらかさないか。命拾いしたね黄色」
「そんなこと言っえると朝霧に巻かれるよ……」
ベルリウム
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ベルリウム
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166
「朝……なんて?」
「え?」
「ん?」
もしかして通じない? おれが今話してるの、共通語だけど……。
「兄さんの地元の伝承みたいなことわざだよ、ほら、上手くいったと思って迂闊に動くとまずいよ〜って感じの」
「そうそう」
「へ〜」
一体どこから情報を仕入れたのか、青が当たり前のようにすかさず補足する。
「ちなみに元ネタになった話があって、数日振り続いてた雨が止んだ朝にノリノリで山に行っちゃった木こりさんが霧で迷って行方不明になったってやつなんだよね」
「おれより詳しいね……?」
やっぱり共通語にもあるんじゃ、と紫を見る。おれの言わんとしていることがわかったのか、首を振る。
「二重にこっわ。そのエピソードが既に恐ろしいしあんたは何をどう調べたの」
「兄さんに関する事象は全て調べ上げるに決まってるでしょ? 兄さんを構成する元素を知り尽くしたいから化学マスターしたみたいなとこある」
「きっsy……」
「兄さんと僕が同じ物質でできてるってことは僕の中に兄さんがいるのと同義だよね……♡♡」
「ヤンデレ論理やめろ。それが通じるならピンクの中にあんたがいることも成立し得るでしょうが」
「そうなんじゃない?」
「そうじゃないんだよなぁ」
頭を抱える紫。きょとんとする青。よくわからないけど、今日もふたりとも元気そうだから良かった。
それにしても、紫。青が不思議なことを言い始めるといつも、やんで、やん……「ヤンデレ」、と言い出すけど。
「やんでれってなんだい?」
「…………あー……。……まあ、大好きってこと」
「青がおれのこと好きってことかい?」
「そう、極端に大好きってこと」
「そうだよ兄さん!!」
「うわ食い気味……」
「……そっか」
大好き、だいすき、か。
くすぐったい。いちばん主観的で自主的で、嘘偽りない、おれを好くための言葉。
「おれも好きだよ、青」
その声の丸みに、幼い頃の面影が香って。好きだなって思ったから、そう返した。
「…………バャ゜゜」
「存在しない音出さないでね??」
「きみが傍にいてくれて嬉しいよ」
「パ゛……」
「ちょピンクさん追撃入れるのやめたげて」
「これからも良き友人でありたいな」
「ヴッァ……」
「あっトドメ刺されてるかわいそ」
もちろん、青が二重か三重くらいの意味で死んだ理由は、おれにはよくわからなかった。
コメント
1件
ああ、この回すごく好きです……!ピンクさんが「おれも好きだよ」ってさらっと返すところ、もう完全に無自覚でずるいですよね。青が「バャ゜゜」って存在しない音を出すまで昇天しちゃうのも可愛すぎて、思わず笑いました。それでもって紫さんの「トドメ刺されてる」ってツッコミがまた的確で……。ピンクさん、自分が何をやってるかまったく気づいてない感じがたまらない。毒薬作っちゃうダメな青も、それを怒りつつ肯定してしまう兄さんも、全部愛おしいです。