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もっと早く連絡をしてくるかと思いきや、新谷から電話が来たのは夜も7時を回ってからだった。


『今日はお昼過ぎに天賀谷市について、そこから、ずっとアポ取りの電話をしました』


「そうか。天賀谷と時庭合わせて何件いるんだ?」


『7件です』


「今週平日で回れそうか?」


『はい。なんとか今週全員にアポ取りつけました』


「よし」


言いながら篠崎は長い脚を窮屈なデスクの中で組みなおした。


「……時間を惜しまず、お客様の迷惑にならない程度にいろんな話を聞いて来いよ。住んでる人にしかわかんないことがたくさんあるんだからな」


『はい!』


声に張りが戻ってきた。


アポ取りの電話を掛ける際に、自分の既存客と久々に話せて元気が出てきたらしい。


(現金な奴……)


笑いながら重力に従い、頭を普段は新谷が座っているはずの席の方に傾ける。


『篠崎さん?』


「んー」


『なんか、疲れてます?』


こんな二言三言でこちらの雰囲気がわかるのは素直にすごいと思う。篠崎はふっと笑い受話器を持ち直した。


「んなことねぇよ」


『……大変なお客様でもいましたか?』


「………」


新谷は東田夫婦の離婚のことも、鈴原夏希が抱える問題のことも知らない。


それは3年前、新谷が悩み、篠崎への気持ちに終止符を打とうか迷ったきっかけでもある長岡美智を思い出させてしまうかもしれないという、彼に対する配慮からだった。


今、仕事で悩んでいる新谷には、余計なストレスを与えたくない。


そもそも自分は鈴原夏希に何も感じてはいない。

夏希の方だって、大好きだった夫に浮気され、愛していたがゆえに許すことができずに離婚に至ったばかりで、今すぐ他の男とどうこうというのはないだろう。


別に言う必要はない。

自分は家の担当営業マンとして、ただ、必要なことをアドバイスし、その手続きを粛々と執り行うだけだ。


「大丈夫だよ。ありがとな」


言うと、電話口の向こうから、ホッとしたようなため息が聞こえた。


『篠崎さん、俺――』


『新谷ー!!』



耳をつんざくような声が聞こえてきた。


『聞こえねぇのか!さっさと風呂入れって言ってんだろ!』


「……オイ」


篠崎は無人の新谷の席を睨んだ。


「お前、今どこにいるんだよ……?」


『あ、え、えっと……』


『あとがつかえてるって言ってんだよ!なんなら乱入すんぞ、こら!』


「……紫雨のマンションか?」


『ち、違います!ここは……あっ!』


『俺のアパートなんで、どうぞご心配なく』


林の冷静な声が聞こえてくる。


『ただし今は本当に風呂の順番がつかえているので、客人である新谷君に早く入ってもらいたいんです。ラブコールは寝る前にしていただいていいですか?』


篠崎は苦笑して、受話器を持ち替えた。


「悪いな。ホテル代は出張費として出すつもりだったんだが。図々しく上がり込んだのか?」


『あ、いえ、紫雨さんが強引に連れてきたんです』


「……聞き捨てならないな」


『ふっ』


珍しく林は電話口で笑った。


『大丈夫です。俺が見張っときますから』


「なら安心だ」


言いながら掌で瞼を強く擦る。


「そいついつも通りに見えて、結構弱ってるからよろしく頼む」


『わかってますよ』


林はいつになく柔らかい声で言った。


『だから紫雨さんも強引に連れてきたんだと思います。こういう時は心配して諭す人ももちろん大切ですが、つまんないことだと笑い飛ばしてくれる人も意外に重要だったりしますから』


「林……」


『経験者は語る、です』


相変わらず成績は振るわないが、この男も成長したものだ。

篠崎は目を細めた。


「じゃあ、よろしく頼む」


『はい、頼まれます。お二人には御恩があるので。それでは失礼します』


義理堅いことを言うと、林は篠崎電話を切った。


「こっちも今週中に片が付くといいんだが……」


デスクに置いてある不動産の売却見積もりの書類を見て、篠崎はため息をついた。




最後に風呂に入った林が上がると、リビングではすでにビールを3缶ずつ開けた意外に酒に弱い二人が、へべれけに酔っぱらって肩を組んでいた。


「……何してんすか」


思わず呆れて上司と後輩の頭を順番にはたくと、2人は涙目で振り返った。


「は?何泣いてんの?」


思わずタメ口になる。


「いや、今さ月曜ロードショーでさ……」


紫雨がテレビを指さす。


「トロロやっててさ」


「…………」


林は視線を8畳の部屋に対して明らかに大きい65Vのテレビ画面に映した。


巨大な猫が、主人公を乗せて夕闇の村を走り回っている。


「なあ、なんで大人になってからトロロみると泣けてくんのかなあ!林~!」


「知らないですよ、そんなの」


「俺、小学生のころなんてさあ、バカにしててさあ、中学生で見た時は、なんか父親のくたびれたタンクトップ姿で抜いたりしてさ…」


「要らないです、その情報」


「クソわかる!!」


新谷は紫雨の手を取った。


「あのお父さん!気だるくて妙に色っぽいんすよね。あの、夜のオカリナのシーン…」


「そう!な!暑そうでさ、内輪のあおぎ方がまたいいんだよな!男の匂いさせてさ!」


紫雨ももう一つの手も新谷に絡ませる。


「わかりみがすぎる!ああいう真面目そうな人がラフな格好するの、たまらないですよね!」


生粋のゲイ2人を見下ろし、林はため息をついた。


「わかるか、新谷!普段硬そうなやつがよ!」


キッと紫雨が林を見上げる。


嫌な予感がして後ずさったときには遅かった。

林は紫雨の細い身体からは信じられない強靭な力で腕を引かれると、そのままソファの背もたれを超え、座面に引きずり込まれた。


「ほら!わかるか!この感じ!」


ひっくり返ったために、スウェットの裾が捲り上がり、腹が露になる。


「おお……これは眼福がすぎる……!」


新谷が据わった目で林の臍辺りを見下ろす。


「ちょっと……!」


慌てて裾を直すと、


「おいおい減るもんじゃないし、ちょっと見せろや」


悪ノリした紫雨が林の太股に股がってきた。


「ちょっと、紫雨さん!ホントに怒りますよ!」


「新谷、腕を抑えろ」


「アイアイサっ」


「新谷君?君酔っ払うとこんなことなんの?!」


林は焦りながら抵抗したが、新谷も林の頭側に回り、腕を抑えてきた。


「ちょ、ちょっと……!!」


林は下半身を紫雨に乗られ、腕を新谷に抑え込まれ、いよいよ青ざめた。


「……俺、3Pなんて初めてだなー。上手くできんのかな」


新谷が呟く。


「大丈夫だ。俺たち2人ともどっちもできるから」


紫雨が笑う。


林は見下ろす2匹の野獣の目を交互に見てから、紫雨をキッと睨んだ。


「紫雨さん。あんた俺が他の男に抱かれても平気なんですか?」


「…………」


紫雨の表情が変わる。


「俺が他の男を抱いてもいいんですか?」


「…………」


下半身を押さえつける力が弱まる。


「隙あり!!」


林は少し緩んだ隙間を狙って、紫雨の股間を蹴り上げた。


「ぐッ!」


すかさず身をよじり、新谷の手を捻ると、そのまま返して彼をソファの脇に転がした。


「いって!」


新谷がひっくり返る。


「ナメないでくださいね!こっちは護身術の心得が!」


言うと組み敷かれた新谷はプッと吹き出した。


「……ふふ。ははははっ」


股間を抑えた紫雨は笑っている場合じゃないらしく、まだ悶絶している。


「冗談ですよ!林さんの焦った顔とか見たことないって言ったら、紫雨さんが『じゃあ見せてやるよ』って言うから乗っただけです!」


林は真下で抑え込まれながら笑っている新谷を睨み落とした。


「これは上司に報告しなければいけないですね」


「……それは勘弁してください」


にわかに焦り出した新谷を振り払うように手を離すと、林はどちらが飲んでいたともわからない缶ビールを手に取り、喉奥に流し込んだ。


「こんな機会めったにないんだから、教えろよ」


恋人であるはずの自分の目の前で、相変わらず新谷の肩になれなれしく腕を回している紫雨が、彼の耳に口を寄せる。


「何を、ですか?」


新谷が大きな目を見開く。


「篠崎さんって、セックスうまいの?」


林はブッと飲んでいたビールを吐き出した。


「ななな、なにを言い出すんですか、紫雨さん!」


新谷も顔を真っ赤にして上体を逸らした。


「だって心配じゃん?もと上司としては!あんなバリバリストレートで今まで男の経験したことのないような人、ちゃんとお前のこと抱けるのかなって!」


紫雨が鼻息を荒くしながら新谷と距離を詰める。


「え、もちろんお前がネコだよね?え、そうだよね?」


「あああああああ!もうやめませんか、その話!」


「リバったりしないの?君たちは」


「え……君たちはってことは……」


新谷の視線がこちらに来る前に林はテレビのリモコンを持ち上げると、紫雨の頭をはたいた。


「ってぇ!!」


「こわ……」


新谷がドン引きしながらこちらを見ている。


「紫雨さん!いい加減にしてください!!」


謝るのも癪だったのでそのまま叱る。


「だって!気になるだろーがっ!」


紫雨は涙目で頭を抑えながら林を見上げた。


「あんたに心配されなくても!あんなにモテる篠崎さんが下手くそなわけないでしょう!」


「そうとは限んないだろ!女を抱くのと男を抱くのでは勝手が違うんだよ!」


「…………」


新谷が紫雨を覗き込んだ。


「違うんですか?」


林も思わず黙って紫雨を睨む。


「あ」


紫雨は新谷を指さした。


「かたや“女を抱いたことはあって、男から抱かれたことはあるけど、男を抱いたことのないゲイ”」


次に林を指さす。


「かたや”女の経験はなくて、男から抱かれたことと、男を抱いたことはあるノンケ”」


新谷が驚いた顔をして林を見る。


「……ええ……?!」


林も新谷を睨む。


「いいから!そこ!反応しなくて!」


「お前らじゃわからんわな」


紫雨は馬鹿にするように2人を見てため息をついた。


「女はさ、男に抱かれる身体に出来てんだよ。女の穴はさ、入り口、中、奥、どこも性感帯。全部気持ちいいの。しかも外側に突起が付いてんだろ。それも角度によっては擦れるようにできてるから、もう男が馬鹿みたいに腰振るだけで気持ちいいの。なんなら、男が腰を振らなくても、擦れるだけで満足すんの。わかる?」


新谷が眉間に皺をよせ考えている。


「でも男は違う。気持ちいい場所なんて決まってんだよ。そこの擦り方も突き方もコツがいる。だからただやみくもに腰を動かすだけじゃ、ウケは気持ちよくなんないの。ただ痛いだけでしょ、そんなの」


新谷が何かを思い出したらしく目を細める。


「だから男に抱かれたことのある男は、抱くのも上手いんだよ。その点、篠崎さんは……」


紫雨が顎を突き上げる。


「ない、だろ?」


そのまま瞼を引き上げて見せる。


「……篠崎さんはお上手です」


新谷が紫雨を睨み上げる。


「誰と比べてよ?」


紫雨が鼻で笑う。


「そもそもお前、ゲイに抱かれたことあんの?ねぇだろ」


新谷が顎を引き黙る。


「試しに1回、超ベテランのゲイに抱かれてみ?天地がひっくり返るぞ。なんなら、俺が……」


一度置いたリモコンを掴み直すと、林はそれを恋人に向かってふり落とした。


◇◇◇◇◇


飲み潰れソファに寄りかかるように眠った新谷に毛布を掛けると、林はため息をついて、まだビールを飲んでいる紫雨を見下ろした。


「そんなに飲んで大丈夫ですか。明日も仕事ですよ」


「わーってるよ」


紫雨はそれを飲みほすと、ちょろちょろと左右に振って何かを考えている。


「どうしたんですか?」


「あー。いや……」


言いながら、新谷を見下ろしている。


「結局聞けなかったなって」


「……あんなに根掘り葉掘り聞いといて、その上、他に何を聞こうとしてたんですか」


「…………」


紫雨はテーブルに肘をついて、新谷を見つめた。


「ムキマラ君のこと」


「牧村さんでしょ」


紫雨から概要を聞いていた林は紫雨の横に座った。


「別に聞かなくてもいいんじゃないですか?彼がゲイだとわかったところで、新谷君に利点はないと思いますけど?」


「うーん、そうだけどさ」


「変に意識させたら、あなたの責任ですよ」


「…………」


紫雨はまだ僅かに濡れている自分の髪の毛をかき上げた。


「新谷がさ。ゲイと経験ないのが俺は地味に気になるわけよ」


「さっきの話ですか?」


「ああ。生粋のゲイでさ。山ほど経験してきたような男に、もし万一、ハマったらさ」


「……ないでしょ、新谷君の場合。篠崎さん以外の男なんて」


紫雨は平和な顔をして寝こけている可愛い後輩を見下ろした。


「……だといいけどな」


その少し切なそうな横顔を見つめて、林はちくりと胸が痛んだ。


(この人にもそんなハマるような男が過去にいたんだろうか……)


「………」


林は一切片付けようとしない紫雨から空になったビール缶を抜き取ると、テーブルに散らばったそれらを袋に入れ始めた。


その腕をガシッと掴まれる。


「えっ」


「その点……」


紫雨が意地の悪そうな金色の目で林を見上げた。


「お前はどっちもわかってるから……」


言いながらカーペットの上に押し倒される。


「ちゃーんと、どっちも上手だよ?」


言いながら先ほどとは比べ物にならないほど、強い力でスウェットを捲られる。


「ちょ……紫雨さん、こんなところで……!」


「だいじょーぶ、起きないって」


「でも―――」


「いいから」


言いながら紫雨の指がズボンのゴムにかかる。


「ちょっと……!」


「さっきさ」


紫雨がめったに出さない、低い声で言う。


「冗談とはいえ、腕を抑えられたお前を見て―――」


唇を耳に寄せる。


「すげー妬けた」


「………!」


「簡単に抑えられんじゃねぇよ」


ものすごく勝手なことを言いながら、両手を頭の上で纏められる。強い力で振りほどけない。


「俺以外の男に」


もう一つの手でズボンをずり下ろされる。


「ちょ……ホントに……んっ」


言葉は熱い唇で抑え込まれた。

舌を入れられながら、そのまま膝裏を腕で抑えられる。


ズボンもボクサーパンツも半端にずらされたままの体勢で、紫雨が自分のモノを取り出す。


「ちょ……!待っ……だって……!」


林は自分から2mも離れていないところで眠っている後輩を見つめた。


「新谷ー」


紫雨が低い声で言う。


「起きんなよ……?」


「……あ……!」


腕と足を抑えたまま、紫雨は林に自分のそれを宛がうと、無慈悲に突き挿した。


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