吉田さんのお家に居候させてもらっている。
小説を読んだり課題をしたり学校に行ったり。
母からは意外にも連絡はなくて、わりとのびのびと過ごさせてもらっている。
「みんなが会いたいって。」
「んぇ?!私なんかに会ってどうするの?!」
「声デカ!ふたりが気になるって。」
だいぶ気をつかわなくなった、というか、素の自分をさらけ出せる相手になった吉田さん。彼には吉田さんじゃなくて名前で呼んでと言われているけど、吉田さんって呼び続けてる今、仁人くんって呼び変えるのも恥ずかしくて、未だに出来ていない。
「えぇー…」
「いやなの?」
「んー、…嫌ではないんだけどね、」
「なんだそれ。」
「…はじめまして得意じゃないのぉー」
「知ってる。」
「んふふ、ね?」
「じゃあ断っとく?」
「や、大丈夫。ライブ前に1回会っとく。」
「おっけ、じゃあ伝えとくね?」
「んー」
何も気にしなくていい。自分のことだけ気にしてて。って、居候を許してくれた。
多少の口の悪さも、おい!とか言いながら笑って許してくれた。
甘えたいとき、寂しいとき、ひっつき虫になることを受け入れてくれた。
あと、少しのわがままも。
課題をすること、学校に行くことの2点だけが居候の条件で、バイトは無理に探さなくていいとのこと。
インターホンは出なくていい。
買い出しも行かなくていい。
誰も責めないからゆっくり休んでてって。
「陽菜」
「んー?」
呼ばれて、小説から少し目を離して、吉田さんの方を向けば、カシャッ、ってシャッターの音がした。
「よし、いいの撮れた。」
今日の吉田さんのお仕事は、いつもよりゆっくりみたいで読書中の私の邪魔、いや、読書中の私に構ってくる。
その絡みが鬱陶しいって言うけど、やっぱり、構われるのは嫌じゃないんだよな、。
本人には絶対言えないけど。
「ねぇ、陽菜?」
「んー?」
「…その小説面白いよね。」
「…私、本好きだけど、感想わかんないの。」
ジャンルもイマイチわかってないし、文庫本か小説かの区別もイマイチついてないって言えば、いつものように「嘘でしょ?!」って声を上げてケラケラ笑った。
「私馬鹿だからさ、?通信なって正解だよ。 」
「でも陽菜、賢いでしょ?」
「いーや、賢くないよ。語彙力皆無だし。」
理数系家系の父と、文系の母。
どちらかと言えば私は理数系の方が好きだ。
化学や物理系は苦手だったけど
生物の分野だけは得意で好きだった。
中学1年生の理科の期末テストで
92点をとったのはいい思い出だ。
『読書好きは語彙力豊富』
みたいなイメージを持たれるけど
私は語彙力皆無だし
作者の心情を考える問も苦手だし
どう思ったかと感想を問われるのも苦手だ。
うまく言葉にできない。
どう言葉にすればいいのか
知らない言葉たちばかり。
「…吉田さんの語彙力って貰えます?」
「んははっ!貰えないんよ、語彙力は。」
「んふふ、ですよね。」
この時間がずっと続けばいいな。
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