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……タグとかから分かるかな…塩シャチだよ~ちょっぴり胸糞から始まるよ~。
これを書こうと思った我は一体何者じゃ……???
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電車の中に、横並びになって立っている影が二つあった。まあそれ以外にも沢山の人間が立っているのだが…そこは割愛させて頂こう。
「水族館か〜、卒業するまであんま行った事なかったな〜。一月に一回行ったけどね」
電車の中故、声量はかなり小さいが、楽しそうに言うのは、紫咲シオンだ。
「う、確かに…でも、水族館にしたのは正解でしたね!」
こちらも声量は小さいが、嬉しそうにシオンを見ているのは、沙花叉クロヱ。
今日この二人は、卒業祝い…と言ってはなんだが、沙花叉の提案で水族館に行くのだ。
それから更に十数分経った後だった。
シオンに沙花叉に話しかけようと声を発しかけた時、事件は起こった。
「沙花ま…たっ?!……?!」
シオンは突如として尻に違和感を感じ、声を途中で途切れさせる。
「どうしました?シオン先輩」
沙花叉が聞いてくるが、シオンは、やっぱりなんでもない。と、少し震えながら首を振った。
軽く振り返って見てみると、どこからか伸びている手が、シオンの尻を触っていた。
痴漢だ。
シオンがそう思うのに、一秒とかからなかった。
ただ、運が悪かったのはシオンが痴漢に対し、どのように対応すればいいのか知らないというところだった。
今までそういった出来事に無関係だったシオンは、痴漢に対応する知識がなかった。
故に、どうすることもできない時間が続く。
沙花叉に視線で助けを訴えるが、沙花叉の視線はスマホに向いていて、シオンの視線に気づくことはなかった。
「(うっ…そでしょ…?!マジキモイんですけどっ!?)」
シオンは内心絶叫する。
だが、そんなシオンの内心などお構いなしに、痴漢はどんどん過激になっていく。
最初は尻に始まり、段々と前へ前へと進んでくる。
嫌だ。怖い。助けて。
そんな思考が、シオンの脳を洗脳する。
嫌悪感が身体を蝕み、それと同時にこれからナニをされるのだろうという恐怖に侵され、シオンはただ肩を縮こませて震えることしかできなかった。
後ろから伸びている手が、シオンの鼠蹊部辺りに達した時だった。
「痛っ?!」
声量こそ小さかったが、後ろから男の物と見られる声が上がった。
ハッとしてシオンが視線を落とすと、沙花叉の手が男の手の甲に伸びていて、手の甲をこれでもかとつねり上げていた。
元とはいえ、数ヶ月前まで掃除屋として働いていた者の握力と腕力だ。身体を鍛えてもいない男に抜け出せる筈がなかった。
男は咄嗟に手を引っ込めようとするが、沙花叉がその腕を掴むと、自らの方向に引き寄せ、こちら側に姿を現した男の土手っ腹に蹴り…巷では“ストライキングニー”と言われる蹴りを放つ。
「ぅごおぉっ…!」
男は、思わずバランスを崩し、膝を折って倒れ、痛むのであろう腹を抑え、床でもんどり打った。社内の人々が、なんだ、どうした?と声を上げながら物珍しさからか、のたうち回る男にスマホを向けている。
「…シオン先輩行きましょう」
沙花叉は、男を路傍の石でも見るような。いや、ゴキブリを見るような目で見ながら、立ちすくむシオンにそう声をかけた。
その声に応じ、シオンも動こうとはしたが、体がすくんで動けず、震えは止まることを知らなかった。
沙花叉は、そんなシオンを見ると、気だるげな動作一つ見せず、シオンを抱き上げると、別の車両に歩いていった。
ちなみに、この後この男の動画がネットに公開され、“リアル子供大人“としてネットミーム加わってしまうと言う事件も起こるのだが、それはまた別のお話。
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やっと震えが収まり、沙花叉の手を借りずとも歩けるようになったシオンは、沙花叉に無理矢理椅子に座らせられていた。もちろん、移動した先の別車両のだ。
沙花叉がその前に立ち塞がるように立っている。携帯が右手に握られている。
沙花叉は、あの一件以降シオンに呼びかけたあれ以外で声を発していない。彼女なりに怒っているのだろう。勿論シオンにではなく、あの男に。
その後、何か起こるでもなく、二人は目的の駅まで無事辿り着くことができた。
電車のドアとホームドアが開いたと同時に、沙花叉はシオンの手を取って歩き出す。
駅から出るが、沙花叉が止まることはなかった。
「え、えっと……沙花叉…?」
シオンは引っ張られながら、沙花叉を見る。
だが、その顔はフードに阻まれていた為確認することはできなかった。
沙花叉は静かに声帯を震わせる。
「……大丈夫でしたか?」
冷えて固まった様な声で沙花叉は言った。
「え、えと…大丈夫なんじゃないかな?」
シオンは自信なさげに言う。
「…そうですか」
沙花叉も、どこか落ち込んだ声でそう返した。
ハッキリ言って、興醒めだった。
そりゃあ、あんなことがあった後、はいそれじゃあ遊びましょう。とはいかないだろう。
シオンが何を言おうか悩んでいる時だった。
「…シオン先輩」
沙花叉が短く声を発した。先程の声よりも少し温かみと含んだ声だった。
「なに?」
シオンが聞くと、沙花叉はシオンの手を離し、シオンに向き直ると、耳を疑う事を口にした。
「沙花叉に…“上書き”させてくれませんか?」
シオンは思わずフリーズする。
「……………………………………………………………………………………………ん???」
へ?でもなければ、は?でもない。ん?だった。
それが、沙花叉が言ってから、十数秒後にシオンがやっと発することができた声だった。
「聞こえませんでした?沙花叉に“上書き”させてくださいって言ったんです」
「いや、聞こえてるから」
復唱する沙花叉に、シオンは思わず真顔で返す。
「じゃあ行きましょうか」
そう言うと、沙花叉は再びシオンの手を取って歩き出しt…
「ちょ、ちょっと待って?!」
シオンはブレーキをかけながら言うが、沙花叉のパワーには敵わない。
「シオンに拒否権って無いの?!」
引き摺られながらシオンは大声で言う。
「なんでですか?」
沙花叉が足を止めながら言った。
「なんでって…!」
沙花叉は意味がわからない。と言いたげな顔でシオンを見ながら言う。
「…だって、まだ“残って”ますよね?」
その言葉に、シオンは身体を硬直させる。
確かに、そうだ。
完全に図星だった。
触られた感触が。
違和感だった。
どこかいつもと違う違和感。
それを、今も触られてしまった箇所に感じていた。
「その“違和感”。沙花叉に消させてください」
沙花叉はもう一度シオンの方を向いて。今度はしっかりとシオンと目を合わせて言った。
その目を見て、シオンは喉の塊を飲み込んだ。
沙花叉のその目が、誠実さそのものだったから。
それと同時に、申し訳なさそうに眉を顰めていた。
ぁ。と、思わず小さな声が漏れた。かなり至近距離にいる沙花叉にも聞こえるか怪しい所謂ウィスパーボイスが極まった感じだった。
シオンは思った。
この子は本気なんだな。と。
自分が今感じている”イヤな思い出“を消そうとしてくれているんだな。と。
だったら、シオンが出来る事は一つだった。
「ゎ…かった…」
少し。声が上擦ってしまったが、シオンは沙花叉に返事をした。
まあもっとも、赤く紅潮した顔をなんとか隠そうと、手で口元を覆っていた為、沙花叉に聞こえたかどうかは怪しかったが。
だが、沙花叉には聞こえたらしい。
沙花叉は再び踵を返すと、シオンの手を引き、今度はゆっくり歩き始めた。
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どうでしたか?こっちでも書きたい欲を抑えきれず書いてしまいました。
感想等あれば、してくれると大変うれしいです。
コメント
2件
話の雰囲気とても大好きです…最高です!!