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学校へと急いで歩を進めていたが、雲行きが怪しくなってきて、遂にぽつりぽつりと雨が降り出した。傘は持ってきてない。時間がなくて急いで家を出てきたので、天気予報を見る時間がなかったのだ。そう、時間がなかった。
「あーあ、しょうがないし、セカイに行って雨宿りでもしようかな」
そう、しょうがないのだ。
このまま学校へ行ったら濡れてしまって、大変なことになる。サボろうだなんて思ってない、しょうがないのだ。
「どうしたの。スマホなんか持って」
「げっ」
すると傘を指したまふゆが歩いてきて話しかけてきた。
「うーん。天気予報の確認かな、いつ晴れるんだろうって」
「学校に急いだほうがいいんじゃない。見てる場合じゃないと思うけど」
「そうだよね。急ぎまーす」
まふゆから離れてすぐにセカイへ向かおう。これ以上追求されたくもないし。そう思って足を踏み出したが。
「待って絵名。濡れると思うし、傘貸すよ」
「え。いやいやいや大丈夫。そしたらまふゆが濡れちゃうでしょ?」
「私は帰るだけだし。……ああ、丁度今日は折りたたみ傘を友達に貸しちゃったな」
残念そうに言葉を零すまふゆ。私はその友達に感謝する。ありがとう。
「まふゆが風邪ひいたら大変でしょ。もう時間もないし私行くね」
「私が……私が、送っていくよ」
「は?」
「それなら濡れないし、絵名も学校に行けるでしょ?」
そうだね、それなら確かに──って
「いいわよ、全然いらない! まふゆが帰る時間遅くなるでしょ!? 迷惑かけられないって!」
「少しくらいなら気にしないけど。いいよ入れてくよ」
「優しくしないで。いいの、実は雨が私を避けていくから大丈夫なの。気遣いありがと」
「絵名ちょっと濡れてるじゃん」
「こ、これは汗よ!」
言ってて少し悲しくなってきた。
しかし正直サボろうとしていた気分なのに、学校へ行く気にはなれない。もう心はセカイにいるのだ。このまま見逃してほしい。
「絵名って、優しいんだね」
「は?」
「私を雨に濡らしたくなかったり、帰る時間が遅くなるって言ってたり」
いや、違う。そんな意図は全くなくて、私はただ自分のために、学校をサボりたいがために……。
「そこまで優しくしなくてもいいのに」
「あ、いや……ごめん。──ううん、まふゆ、傘に入れて」
「どうしたの急に」
「何、だめなの?」
「全然いいけど。うん、よかった。実は絵名が学校をサボろうとして、雨を言い訳にセカイに行こうとしてるんじゃないかって思い始めてたから」
「…………」
「それでも天気予報確認は遅すぎるけど。ほら、入って」
これ、多分っていうか絶対気づいてたやつだ。
まふゆが私の気持ち怠慢に気づかないはずないし、最初から疑ってかかるべきだった。いや、バレてたならもう仕方ないのか。
「夜は晴れるみたいだよ」
「そうなんだ。ありがとう」
二人並んで、道を歩く。
二人用に作られてない広さ。肩がぶつかって、その距離を実感する。私に合わされた歩幅。会話がないので、雨音のみが耳に入る。
──学校に着くまで、その時間は続いた。
「ありがとう、まふゆ」
振り返って、まふゆを真正面から見て気づいた。まふゆの片方だけ濡れた肩。然程濡れてない私。優しいのはそっちじゃないかと、少し悪態をついた。