拝啓、母さんへ。
僕は今、絶讚空を飛んでいます。
2.【厄日と愉快な仲間達】
「じゃあ、今から君は共犯者だ!」
そう告げられ、気づけば僕は彼女に米俵を担ぐような姿勢で抱えられていた。
「え?」
「それじゃあ、アジトへれっつごー!!!」
テンション高めに彼女は拳を天に突き上げると、一気に跳躍した。
「ぅ」
そこから追ってきた空気抵抗+Gによって、首が折れそうだった。正直生きていただけですごいと思う。全人類拍手喝采ものだ。(?)
「っ………うわ…!!」
眼下に広がる、あまりにも平凡な住宅街は、夜の支度か、白く点滅し、新世界のように錯覚した。
「えっへへ~!楽しい?」
「あ、は、い!」
ぎこちない返事になってしまい、彼女はクスクスと笑った。あぁ、なんて眩しい笑顔なんだろう。
ただ、この状況は全く理解出来ない。
あれ、僕、確かさっき殺されそうになっていなかったか?
「え、と…すみませっ!?!?」
彼女に話し掛けようとすると、急降下がやってきた。思ったより柔らかい着地だったが、また急上昇がやってくる。何かが戻ってきそうだ。
「ん?あごめんごめん、私のことはげらでいいよ!よろしく!」
「あっはい、よろしくです…?」
違う。名前だけじゃなくて、この状況を説明してくれ。
すると、心の声が漏れていたのか、彼女は喋りだした。
「今はね、私の家みたいなとこに向かってるよ。私のことはまたそこについてから説明するね!」
得られた情報が少なすぎるが、とにかくまだ死なないことは理解できた。その【家】に着くまで、耐えられるだろうか…。
しかし、僕はあっさりと二回目の急降下で意識を失ったのだった。
「マスター!たっだいまー!!!!」
「あぁ、お帰り……って、どうしたんだい、その少年は?」
げらの大声ではっと意識が戻って来る。周りを急いで見回すと、どうやらここはバーのようだ。
僕はまた、驚愕した。
その場にいた全員に、色がついていたのだ。
目の前には茶髪の前髪の半分を後ろに流し、毛先が白い後ろ髪を細くみつあみにしている女性が開店準備か、グラスを拭いていた。
「へへ~、賭けは私の勝ちだよ、マスター!」
「え……ってことは、本当のお前を好きになってくれる奴がそいつかい?」
「うん!!」
待て待て。展開が早すぎる。というか今の口振りだと、げらも僕が好き………??夢か?あっ、そうかこれは夢なのか…。
「あァ、帰って来たんですねぃ。」
カウンターの裏側から顔を出したのは、ロシア帽を目が見えないほど深く被り、白い髪を溢した、全身冬の装いの長身がいた。声と背丈からして男のようだが、どちらか分からない中性的な見た目だ。
「んふ~!見て見て!これが私の彼氏!」
「ぅえぇ!?」
ということはあの状況下での告白を受理されたというわけで。嬉しい反面、頭が追い付かないしなによりここはどこだ。てか今僕、よくよく考えると色々とやばい状況じゃないか?
なんだ、拉致されたらバーだったって。そんななろう系みたいな。
「へぇえ、そりゃあ良かったですねぃ。」
ロシア帽は優しく笑った。えっ反応が薄い。
「アザラシ~、はよぅ持ってこんかい…ん?誰やそいつ?」
そして、奥からやってきたのも、もちろん色が付いていた。ここはどうなっているんだ。
金髪ローツインテロリだ。不気味なぬいぐるみを抱えている。これはオタクに刺さる。が、僕はロリコンではない。
「げらがようやく見つけたんだと。真の相棒だよ。」
「あぁ、ごちゃごちゃ言うとったな。………ふぅん。………ほな、はよぅもてなしてやりぃや。」
「あっ、そうだね!ごめんごめん!」
ようやくすとんと地面に降ろされる。はぁ、と一気に色々なものが剥がれ落ちていく感覚に襲われながら、全員を見回す。
「えっと………?」
取り敢えず、とげらに指を差された椅子に座り、全員と面向かう。マスター、と呼ばれていたカウンターの女性が紅茶を淹れてくれ、それで一息つく。
「ほんじゃ、説明するね!」
ようやくか、と頭の中でため息をつく。
「まずはそれぞれ紹介するよ。私はげら。普段は下田ラーメイとして生活してるよ。」
「私はマスターでいい。このバーの店長さ。まぁ…他の店長もやってるんだけど。」
なぜか視線を逸らし、マスターはそう言った。
「ういはナターリアや。ナターリア・マリアンヌ・フランソワ。ほな、よろしゅうな。」
癖が強すぎないか?名前と外見で明らかに外国人なのに、関西弁(?)…え、これ本場か?というかそもそも、何故こんなところに子供が…?
「ちなみにういの関西弁はエセや。きぃつけや。」
あっエセだった。
というか、やけにじっと僕を見つめてくる。何か僕、したっけ?少し目が大きいせいで、無表情だと怖い。
「あっしはアザラシと申しやす。お嬢のお付きみたいなもんです。」
アザラシは首を少し傾げ、幼さが残るお辞儀をした。ますますどっちかわからないが、恐らく口調からして男だろう。
「本当はあと二人、このバー【スケアクロウ】にはいるんだけど、今は出ていてね。」
マスターがそう言うと、げらは一気にむっすりとした顔になった。何かあるのだろうか。
「さてと、じゃあげらからはどれくらい聞いてる?」
マスターは突如、それまでの温厚な笑みを崩し、鋭い目付きになった。空気がぴりついた。僕は少しドキリとした。ずっと思ってはいたが、ここは変だ。
「いえ、ほとんど聞いていません。」
「………まじか…げら、何も言わないまま連れてきたのかい?」
「え?あ、うん!」
いつの間にかげらはアイスを食べていた。うむ、自由奔放な所も可愛い。
「……じゃあ、ここが何なのか、げらが何故君をここに連れてきたとかも?」
「分かりません…」
「………はぁ………えっと、今から言うこと、落ち着いて聞いてね。」
そう言うと、マスターはすぅっと息を吸った。
「単刀直入に言うとね、私達は」
「……………………………」
「…………ッスゥ~………………はい?」
これは夢だな。そうだ。
「残念ながら、夢じゃないよ。」
夢じゃなかった。
次回【僕の一般人危機開始のお知らせ。】
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