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7 - 第七章 水鴉の花

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2025年04月28日

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第七章 水鴉の花



夜逃げして数年が経ち…


さとみところんは村の中で穏やかな日々を送っていた。

吉原での過酷な日々が遠い記憶となり、二人の心は徐々に安らぎを取り戻していた。

二人の家は、小さな木造の家で、外見こそシンプルだが、どこか温かみを感じさせる。

囲炉裏の火が心地よい温もりを提供し、棚にはころんが育てた花が並べられている。



「さとみさん、今日は少し畑の様子を見て参りますね。」


ころんは、朝食を終えた後、軽く頭を下げて立ち上がる。

その表情には、以前のような不安はなく、むしろ自信と穏やかさが漂っている。

さとみも少し微笑みながら返事をした。


「行ってらっしゃい。無理せず、また夕方にでも一緒に行こう。」


ころんは、ほんの少し笑って頷き、外に出て行った。


彼の後ろ姿を見送りながら、さとみはふと窓の外に目を向け、穏やかな日差しを浴びる風景に心を委ねた。


数年が経ち、二人は村の人々ともすっかり顔なじみになっていた。

時折、村人たちとの会話が弾み、笑顔が絶えない日々が続いた。

さとみが村の仕事を手伝うこともあり、ころんは畑で作物を育てたり、花を育てたりと、充実した生活を送っていた。



「さとみさん、今日は新しい花を見つけてきました。」


ころんは、帰宅後に手にした一輪の花を差し出しながら、さとみに微笑んだ。

その花は、まるでころん自身を象徴するかのように、繊細で美しいものであった。


「お前が育てた花の中で、これは特別だな。」


さとみは、花を手に取ると、しばらくその花を見つめながら言った。

ころんは嬉しそうに微笑み、目を輝かせた。


「ありがとう…。これからもたくさん育てて、さとみさんに喜んでもらいたいです。」


その言葉に、さとみは少し目を細めながら答える。


「お前が幸せそうにしていると、俺も嬉しい。どんな小さなことでも、お前が笑顔でいてくれるのが、俺にとって一番の幸せだ。」


ころんは、その言葉を聞くと、ふと目を伏せ、少し照れたように微笑んだ。


「僕も、あなたがいるからこそ、こんな日々を送れているんだと思います。」


その言葉がどこか照れくさいものだったが、二人の間に流れる空気は、互いの深い信頼と愛情を感じさせた。


以前のような不安や恐れは、今ではすっかり消えていた。

二人の愛は、年月を重ねるごとに深まり、まるでこの村の自然のように根を張っていった。


時折、過去の影が二人を掠めることがあった。

吉原での出来事や、二人が逃げてきた経緯が、ふとした瞬間に二人の心を重くすることもあった。

だが、そんな時でもさとみはいつもころんの手を取って、言葉なく支え合っていた。


「今日も一日が終わりますね。」


ころんは夕暮れ時、静かに言う。

さとみはその言葉に微笑み、彼の隣に並んで座った。


「もう夜か。今日は畑も順調だったな。」


「はい。おかげさまで、今年の収穫はいい感じです。」


二人は静かに肩を寄せ合いながら、夜空を見上げた。

あの夜、吉原から逃げ出した頃を思い出すと、今ここでこうして穏やかな日々を送っていることが奇跡のように思えた。


「お前と過ごす毎日が、どれほど大切なものか、今、改めて感じる。」


さとみの言葉に、ころんは少し驚いた顔をした後、静かに微笑んだ。


「僕も、さとみさんと一緒にいられて本当に幸せです。もう、あの街でのことは考えたくない。ここで、あなたと共に過ごせることが、僕の望みです。」


その言葉を聞いたさとみは、心の中で深く頷いた。


これから先、二人がどれほど困難に直面することがあろうとも、もう二度と孤独を感じることはないと、心から確信していた。


「俺もだ、ころん。これからも、ずっとお前と一緒に。」


二人は静かに寄り添い、夜が訪れるまで言葉を交わすことはなかった。

ただ、隣にいること、それがすべてだった。

二人の間に流れる時間は、過去の影を乗り越え、今はただ愛と安らぎだけで満ちていた。



暗闇に灯る2人の横顔はどの花よりも美しかった






第七章 完



番外編へ続く

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