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若井side
目を開けた瞬間、妙な違和感があった。
見慣れたはずの天井、見慣れたはずの部屋。それなのに、どこか――少しだけ違う。
寝癖のついた髪をぐしゃぐしゃっとかき上げ、ベッドの上でスマホを手に取る。
「……2020年、6月27日。」
小さな画面に表示された日付を、何度も見直す。
ついさっきまでは、2025年だったはずなのに。掃除中に眠って、気づけば――。
「……なん、どういうこと」
その言葉が喉の奥から漏れると同時に、画面に通知が飛び込んできた。
《元貴:今日のリハ、14時入りね〜 起きてる〜?》
まぎれもなく“あの頃”のLINEだ。
この元貴の文面、懐かしすぎてちょっとだけ笑ってしまった。
⸻
リハーサルスタジオの扉を開けると、聞き慣れた音と声が飛び込んできた。
「おはよー、若井おっそ〜」
「また寝坊?安定だね〜」
「うるせぇって、ギリ間に合ってるでしょ」
声は出せても、心はまだ落ち着かない。
みんなは何も知らずに、5年前のこの瞬間を生きている。
その事実が、妙にくすぐったくて、苦しかった。
ギターのチューニングをしながら、元貴がふと顔を上げてこっちを見た。
「……なんか、今日の若井、静かじゃない?」
「別に。寝起きがまだ続いてるだけだって」
「ふーん、そっか」
それ以上は深く追及しない。
でもその軽さが、逆に優しさだと知ってるから、胸の奥がきゅっとなる。
「……(やっぱり、あの時の元貴だ)」
笑う顔も、ギターを弾く手つきも、変わらない。
ただ、未来を知らないだけだ。
⸻
リハーサルが終わった帰り道。
外は夕方前のちょうどいい風。
2人で歩く道は、何度も通った場所だったのに、今はすべてが新しく感じた。
「さー、もうすぐだね。ミセス5周年」
「……うん」
何気ない会話。でも、俺には重たすぎる。
(この先に、あの日が来るんだ)
何も言えなかった自分が後悔した、あの“空白の1日”。
そして、言葉にできなかった元貴の気持ち。
全部、知っているからこそ、簡単に「写真撮ろう」なんて言えなかった。
「……なにか悩んでる?」
「……いや、なんでもない」
⸻
夜、自分の部屋に戻って、ベッドに沈みながらスマホを開く。
写真アプリを遡ると、2020年6月27日のアルバムが表示される。
「……まだ、撮ってないんだな」
過去を変えることはできないかもしれない。
でも、もし今この世界で、あの一枚が撮れるなら。
「今度は、俺がちゃんと“撮ろう”って言うんだ」
それが、ここに戻ってきた俺の理由なのかもしれない。
そして、胸の中でそっとつぶやいた。
もう、後悔なんてさせない。今度こそ
📸 to be continued…
コメント
1件
タイムスリップ系大好き🥹💕 えー、5年前にいったいなにがあったんだろ🤔気になる…🫣🫣