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5月中旬
ゴールデンウィークも明け、学生達は休み明けのせいかぼーっとしている。
高校生活にも少し慣れてきたのか、保健室でサボる人もいて少し騒がしい。
保健室からかおるいい匂いにつられたのか、猫はいつもより早く窓際の台の上に向かった。
「ん?なんだこいつ」
中にはお弁当を持った男の子と、保健室の先生がいた。
「おおーしらたま、もしかして不良くんのお弁当の匂いにつられちゃったのかな?」
「あ?先生のペット?それ」
「んー、僕の良き相談相手」
「なんだそれ、変なの」
「まぁまぁ、ご飯欲しいみたいだから、不良くんこれあげてくれる?」
「なんで俺が…まぁいいけど」
不良くんは慣れた手つきで猫に餌をあげ、その姿をじっと見つめていた。
「…好きなのかな?猫」
「昔飼ってたんだ、もう居ないけど」
「そっか…あっちょっと電話かかってきたから席外すね〜」
バタバタと保健室から出るのを横目で見て、また猫に視線を戻す。
「あいつ…クロ似てるなこの猫」
「にゃ?」
「反応した!?なわけないか。…クロまた宜しくな」
「にゃーっ!」
「ははっ。なんか元気でたわー、ちゃんと授業でもでてみるか。またなクロ」
クロは不良くんが保健室から出るのをじっと見つめ、餌を少し残した皿を持ち、特等席の桜の木の下へと向った。
猫の特等席には先客がおり、男の子が1人でお弁当を食べていた。
その横に猫も座り、餌を食べ始める。
「あれ?…入学式の時の猫さん?」
「にゃん」
「返事した…?まさかね。でもまた会えて嬉しいな。しかもご飯も持って…」
男の子は遠くの校庭を眺めながら話し始めた。
「僕…まだ友達が出来ないんだ。クラスの殆どが同じ中学から来たみたいで…僕引っ越してきたから知ってる子が誰も居ないんだ」
猫は少し男の子の近くにより静かに鳴いた。
「頑張って教室でお昼食べてたんだけどね…今日はでてきちゃったんだけど、一緒に猫さんがお昼食べてくれて嬉しかったよ。また一緒に食べようよ」
「にゃっ!!」
猫は突然、男の子のお弁当箱を持って走り出した。
「え!ちょっと待って猫さん!!」
猫は男の子の様子を見つつ走り続ける。
向かった先は保健室の台上へだった。
「おー、しらたまお帰り…ってなんか餌入れ違くね?」
「そ、それ…僕…の…」
「おいおい、大丈夫か?ほれ、水飲め」
「ありがとう…ございます…」
男の子は水を飲み、息を整える。
その間もずっと猫はお弁当箱を離そうとしない。
(なるほどな…)
「少年よ、しらたまはこの弁当箱離したくないらしい。まぁいずれ飽きると思うから放課後また保健室来てくれないか?」
「は、はいっ!わかりました!ではまた放課後宜しくお願いします!」
そして、男の子は足早に去っていき、しらたまはお弁当は保健室の先生に渡した。
「いい子だな〜しらたまは。あとでおやつあげるからな〜」
「にゃーん」
トントンっ
「失礼します」
「にゃーん」
「あっダメだよ猫さん。保健の先生に怒られちゃうよ」
猫は素早く窓の外の台の上へ向った。
男の子はほっと胸を撫で下ろし、辺りを見渡した。
(カーテンが閉まってる…誰か寝てるのかな。)
「んー?お兄来たのー?」
カーテンが開くとそこには女の子がいた。
「あれ?違ったか〜ごめんね〜先生今留守みたい!あっプイプイ!おはよう!」
猫はぷいっとそっぽを向いた。
「またそっぽ向かれた〜。…あってか、もしかして具合悪い?怪我?大丈夫?ベットに横になる?」
「え、あ、あの…えっと…」
女の子に圧倒される男の子。
すると保健室のドアが開いた。
「せんせーちょっとバイト前に寝かせ…って先約がいたか」
「おお!君は噂の不良くんじゃん!」
「噂のってなんだよ…うるさそうだから帰りまーす」
「ちょっうるさいって何よ!失礼ね!」
「おー、3人とも知り合いだったのかー」
「あっ、お兄!遅いよ来るのー!!」
「ちょっと会議長引いてな〜それにしても…なるほどね」
男は3人を見て何かいいことを思いついたのかソファに座らせた。
「いやー3人にさ、しらたまの世話を頼みたくてね、お昼ご飯と放課後のおやつの時だけでいいんだけど」
「え?」
「は?」
「どうしてですか?」
「俺も一応先生で、忙しいし?君ら保健室好きでしょ?」
「まぁ好きだけど」
「好きじゃねえけど」
「今日初めて来たんですが…」
「まぁまぁ、みんな猫好きみたいだし、しらたまもその方が嬉しいよなー?」
「にゃーんっ!!」
今まで聞いたことない程の元気な猫の鳴き声を聞き、3人は嫌だと言えなくなってしまった。
「よしっ、じゃあ明日からよろしく〜あっまた席ちょっと外すね」
男は足早に去っていった。
しばらく沈黙が流れ、それを断ち切るように女の子が口を開いた。
「私ね、名前はプイプイがいいと思うの」
「は?なんで?しらたまじゃねーのかよ」
「ぷいってするからプイプイなの!!!」
「それってお前だけじゃん。クロは俺に懐いてるからな」
「あれ?もしかしてみんな猫さんに名前付けてるんですか?」
3人は顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
「あははっ。名前が沢山ついてる猫って、なによそれ」
「だってしらたまってダセーじゃん」
「僕はまだ付けてなかったんですけど、たしかに変ですね」
「あっ、じゃあさ私たちも名前つけ合いっこしようよ!」
「は?何それ」
「いいじゃん、なんか青春?ぽいし!ね?いいよね?」
「まぁいいんじゃね」
「いいと思います」
「じゃあ今座ってる右隣の人の考えよー!」
女の子は不良くん
不良くんは男の子
男の子は女の子の名前を考える事になった。
「はい!では発表の時間です!まず私から〜不良くんは〜やっぱり不良くんがいいです!」
「は?なんでだよ」
「そう呼ばれたくなかったら真面目くんになってくださーい!はい次!」
「たく…えーっとじゃあ、真面目くんで」
「えっ僕、真面目に見えますかね?」
「いーねー!分かりやすくて私は好きだな、真面目くん!」
「なら良かったです…じゃあ僕ですね…プイちゃんはどうでしょうか」
「えっ………」
(まずかったかな…他の名前を…)
「プイプイとお揃いの名前…すごく良い!ありがとう真面目くん!」
女の子は思わず男の子に抱きつく。
「ちょっ!プイちゃん…」
「あっごめんね!ついつい…」
「まっ決めることは決めたし、俺はバイトあるんでお先に〜」
不良くんは帰り、男の子と女の子2人で猫におやつをあげていた。
「そういえば、なんで真面目くんは保健室にいたの?」
「あっ、猫さんにお弁当箱取られちゃって…それを取りに放課後おいでって先生が」
「そうだったんだ〜じゃあプイプイのおかげだね!私たちが出逢ったの」
「…そうですね」
男の子は嬉しそうに微笑んだ。
それにつられてか、女の子も笑顔で猫のことを見つめる。
「おーい、そろそろ下校時間だー今日は2人にご褒美飴ちゃんがありまーす」
「ありがとう!私の好きなイチゴ味だ!」
「ありがとうございます」
「こっちこそ、ありがとうな。ではまた明日もよろしく〜」
女の子の人懐っこさのおかげか、男の子と打ち解けたようで2人仲良く帰って行った。
その様子を見て男は満足そうに微笑みイチゴ味の飴を食べる。
「よう、しらたま。お前は本当よくできた子だよ」
「にゃーん」
猫は満足気に鳴き、またどこかへ去っていった。