仕事を片付けて静かに帰ると部屋は明るくどうやら起きてているみたいだった。
「涼ちゃーん···?」
「元貴お帰りっ」
「ただいま···顔色良くなってる。···熱下がった?」
「うん、汗いっぱい出てシャワーしたらすっかり元気···熱も下がったよ、本当にありがとう」
おでこを触ると確かに熱は無さそうだ。髪からはシャンプーのいい匂いがする。
「良かった···おかゆ、レトルトだけど買ってきた···食べる?」
うんうん、と頷く涼ちゃんの為に温めてベッドまで運んであげる。
「はい、どうぞ。熱いかもしれないから気をつけて·········どしたの?」
器を差し出しても受け取ることなく涼ちゃんは俺を見つめてにこにこしている。ん?と見つめ返すとえへへ、と笑った。
「食べさせて」
「えっ···なんか元気そうだし、自分で食べたほうが···」
「食べさせてほしいなぁ」
首を傾げてうるうるした瞳で見られると断れるわけない···つくづく涼ちゃんには弱い···それに一応病人だしなぁと涼ちゃんのしたいようにしてあげようと思い、はい、とすくってスプーンを差し出す。
「ふーふーして、あーんって言って」
いやいや絶対もう冷めてるよ、それに何それ可愛すぎるんだけど、と心の中ではツッコミを入れる。けど、一応ふーっと息を吹きかけて、はい、あーんって差し出すとようやくぱくっと食べてくれる。
これ、してるほうがめちゃくちゃ恥ずかしいやつ···。
けど、涼ちゃんは満足そうな顔で口を開けている。結局全部俺の手からしっかりと食べたのでお水もたくさん飲ませて、またベッドに押し込む。
「ありがとう···僕、幸せだな···こんな風に看病してもらえて甘えられて。たまには熱出してみるもんだね」
「心配になるからやめてよ。元気でいてくれないと···甘えたいならいくらでも甘やかしてあげるから」
···なんか俺、今、凄いことさらっと言っちゃった?なんだか彼氏みたいな、そんなセリフ。けど涼ちゃんは全く気にもしてないようで俺の言葉に嬉しそうにしている。
「ちゃんと気をつけるね···」
「ゆっくりお休み。俺も帰るから···。鍵閉めて帰るからスペアキー借りてていい?次会ったとき返す」
「うん···ありがとう」
お互い黙ってしまって静かな無言の時間が流れる。けどそれは穏やかで少しだけ寂しさを感じる時間だった。
離れがたい気持ちってこういうことを言うんだろう。
このまま涼ちゃんが眠るまで見守って、同じベッドに潜り込んでその温もりを分け合って。夜中目を覚ました時にはその存在を確認するように抱きしめて朝は目覚めたら一番におはようのキスをする。そんな風に愛していたいのに···。
「······元貴、僕は元貴のこと···」
涼ちゃんが俺の手をとって何かを言いかけて、やめた。
「···なんでもない。ごめんね、遅くまで引き留めて。帰り気をつけて···」
「···うん、しっかり休んで。何かあったら連絡して」
その言葉の続きをなんとなく俺は聞け無かった。帰る用意をして涼ちゃんの側に近寄る。
···許されるか少し不安だったけど、いつかの涼ちゃんを思い出して、その頬に唇を寄せた。
「もとき···?」
「おやすみのキスだよ。おやすみ」
涼ちゃんはやっぱり幸せそうに笑ってくれた。その顔を見てほっとして、俺は部屋の電気を消してあげる。
ガチャン、と鍵を閉めると外は暗くて少し寒かった。でも心は温かくて、手に握った鍵の重さが嬉しかった。
コメント
4件
💛ちゃんに翻弄される♥️くんが新鮮で好きです🫶
やばいこの涼ちゃんあざといぞ…!