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あとで聞いた話だけど、父を動かしたのはやはり秋山菫。彼女はうちの菫の振りをして父と二人で話して、幸季が別れさせ屋を使って私に不倫させ、この家から追い出そうとしていると暴露した。彼は私を追い出してこの家を乗っ取ったあとは父を追い出して会社まで乗っ取るつもりだと訴えて、父を味方につけることに成功した。つまり、私も春岡鉄雄と同じく子どもたちに助けられたようなものだった。
幸季は父に退職願を書かされ身一つで会社を追い出された。その際、おれの能力と今まで培った人脈があれば再就職は簡単だと父に強がりを言ったそうだ。もちろん父は取引先や同業他社に根回しして、幸季の再就職を妨害した。
退職金は出たけれど、今まで十五年間勝手に秋山桔梗に毎月十万円送金していたことは夫婦の共有財産の使い込みに当たると追及され、振り込まれた退職金は損失補填を名目にそのまま私の銀行口座に直行した。
十月中に離婚も成立。幸季はもう娘たちに会わないから養育費も払わないと宣言していたが、会う会わない関係なく養育費は子どもの権利だと弁護士が彼を一喝して、彼の口座にあった預金は養育費として没収して、彼は文字通り身一つで私たちの家から追い出された。
彼は秋山桔梗のアパートに転がり込むしかなかった。当然秋山菫が幸季との同居に大反対すると思われたが、意外にも二人の復縁に条件つきながら賛成した。条件とは彼女がアパートを出て私の家で下宿生活を始めることを二人が認めること。
二人は条件を飲んだ。特に秋山桔梗が娘を手放すことになぜ同意したか? 実はその直前、彼女から人妻キラー宛にメールが届いた。何度も何度も助けて下さいと繰り返し、文字通り断末魔の悲鳴のようなメールだった。
そりゃそうだろう。私を追い出して社長夫人の座に収まり優雅な人生を送る予定だったのに、毎月十万円受け取っていた養育費を失った挙げ句無職無収入の幸季の面倒まで見なければならない羽目になったのだから。
その上、私が産んだ娘たちを引き取るどころか、実子の菫まで私に奪われそうになっている。わらにもすがる気持ちで人妻キラーにメールをよこしたのだろう。もちろん、私は味方の振りをして冷静にとどめを刺してあげた。
駄々をこねてるだけだから別居を認めてやればいい。どうせ寂しくなってすぐに戻ってくる。
そう書いて返信した。それからすぐ秋山桔梗が車で娘を送り届けてきた。もう二度と娘と暮らすことができないとも知らないで。
初めて秋山桔梗と対面した。確かに美女には違いないが、すでに相当疲れ切った表情をしていた。本当に大変なのはこれからなのに。もちろんそう思っただけで、口にはしなかった。
私は幸季の実子を三人とも手に入れたことになる。幸季と秋山桔梗への復讐として、これ以上のものはないだろう。
すぐに二人は入籍し、十五年越しの愛を成就させた。幸季は無一文で再就職も決まらず、当分生活は困難を極めるだろうけど、本物の愛の力で二人とも幸せになってほしいものだ。
私の離婚が成立した直後、ゆくゆくは私たちも家を出るつもりだと両親に通告した。父は横暴だけど、それでも私を幸季と結婚させたことを負い目に感じていたらしく、おれたちが家を出るからおまえたちはそのまま残れと言ってくれた。父は近所の築浅の空き家をすぐに購入して、両親は十一月末にそちらへ引っ越していった。
私と三人の子どもたち、計四人だけの新生活が始まった。私も私の娘たちも秋山菫のことをお姉ちゃんと呼んだ。彼女は今まで通り私を蛍さんと呼び、異母妹たちのことはちゃん付けで呼んだ。
実母と離れて暮らす道を選択したが、それでも気にはなるらしく、ときどきは名字が夏川に変わった母親のいるアパートに顔を出している。帰ってくるたびに、新婚なのにいつ訪問しても激しく夫婦喧嘩していると報告された。
生活は大変だろう。幸季が勝手に送っていた毎月十万円の養育費がなくなった上に、母子家庭だけが受給できる児童扶養手当も当然打ち切られた。幸季は私と離婚するまでは大企業の部長職にあったのに、再就職先もなかなか見つからず今では日雇いの現場労働者。
夏川桔梗が派遣社員としてフルタイムで働いて家計を支えていたが、それもこれからは厳しくなりそうだ。おめでたいことに幸季との二人目の子を懐妊したそうだ。幸季から養育費を一括でもらっておいてよかった。月々払いだったらすぐに支払いが滞っていたに違いない。
秋山菫が冬に高校受験を控えているが、新居の近くの進学校を受験したいそうだ。おそらく実父母には長女の高校進学費用を支払う余裕はないだろう。向こうからそう言ってくるのを待って、秋山菫を私の養子にする話を切り出すつもりだ。
惨めだねと彼女は笑うけど、私はそうは思わない。一度は仲を引き裂かれても、十五年越しの真実の愛を成就させた運命の二人のことだ。十五年前のシークレット結婚式で誓ったように、どんな困難も乗り越えて最後にはハッピーエンドをつかみ取るに違いない――
私がそう答えると、うちの菫に笑われた。
「お母さん、本気でそう思ってる?」
「実をいえばそれほど」
「だよね」
四人で大笑いした。私たちの新生活は順調だ。でも来年早々には再び生活の激変を迎えることになった。子どもたちも私の選択を尊重してくれるという。私は今度こそ偽りでない愛と愛を感じられるセックスのある結婚生活を手に入れるつもりだ。
十二月某日
うちの桔梗はダンススタジオに通っていて、今日はその発表会。ステージ上から応援に来た私たちに桔梗が笑顔で手を振っている。私を憎んで減らず口ばかり叩いていた日々が嘘のようだ。
めったにない娘の晴れ舞台。見たいだろうと思って、実父の幸季に電話して親切で教えてあげたのに、
「ダンスどころじゃない!」
となぜか怒られた。
そのあとで奥さんのご懐妊にお祝いの言葉を贈ったら、通話を切られてしまった。男心は難しい。
ということで実父の幸季は見に来なかったが、一方で春岡鉄雄が息子さん二人を連れて応援に来てくれた。私の家と鉄雄の家は車で一時間の距離。近くはないが、ネット繋がりの関係だったからお互いの住所を教え合ったとき、相手が意外に近くに住んでいたと分かってお互い驚いたものだ。
私たちは来年三月のホワイトデーの日に入籍し、その後の学校の春休み中に私の家で同居生活を開始する。同居すると鉄雄の通勤が大変になるし、二人の息子さんもそれは同じ。長男の海君は高校生、やはり通学時間がかなり長くなる。次男で中学生の空君に至っては転校しなくてはならなくなる。
でも息子さんたちは引っ越しをすることにむしろ積極的なのだという。今のご自宅にはあまりにも実母の聡美さんの痕跡が多すぎて嫌だという理由で。その点、うちの娘たちの方がドライなのかもしれない。私たちの家にも実父の幸季が住んでいたときの痕跡がそこら中にあるが、あまり気にならないようだから。
入籍日をホワイトデーにしたのは私の希望。幸季との婚姻中、バレンタインデーにどんなに心を込めてチョコを作っても、ホワイトデーにお返しをもらったことがない。彼が照れ屋だからとずっと信じていたが、なんのことはない、私を愛していなかっただけだった。だからホワイトデー。生まれて初めてもらうホワイトデーのお返しが婚姻届の提出って素敵なことじゃないかと思われた。
鉄雄にはすでに私と元夫の結婚生活の詳細も伝えてある。鉄雄は自分のことのように怒り、そして涙してくれた。
私の離婚から一週間遅れで鉄雄の離婚も成立した。聡美さんは無抵抗だったが義父母が抵抗したらしい。
「離婚しても月に一度は聡美と会ってやってくれないか?」
要は復縁も視野に入れろということ。鉄雄は断固拒否した。
十一月、彼の離婚直前に直接会って相談されたとき、両親の言い分も一理あると回答した。
「だって結婚前にあなたを裏切っていたといっても、聡美さんはきっと今もあなたを愛している。私と元夫のケースは私の片想いで、立場も私の方がずっと下で全然対等の関係じゃなかった。あなたたちはやり直せるかもしれない」
鉄雄は私の提案を一蹴した。
「人妻キラーさんのケースとまったく同じですよ。聡美が僕を愛しているとしても、僕はもう彼女を愛せません。つまりあなたのケースと同じ片想い。恋愛と違って結婚は両想いでないと続きませんよね? 婚姻中の立場もずっと聡美の方が上でした。学歴や給料の上下のことを言ってるわけじゃないです。夜の生活もずっと僕は向こうの言いなりでした。別に女性にリードされるのが嫌だと言ってるわけじゃないです。僕が大嫌いだった不良たちに仕込まれたやり方を僕相手に実践していただけだったと知って、今もときどき思い出しては吐きそうになります」
「そこまで生理的に受け入れられなくなったら無理だろうね。ところで、あなたはいつまで私を人妻キラーと呼んで、私相手に敬語を使い続けるつもりなの? あなたの方が年上なのに。いや、お金も年齢も関係ない。私はあなたと対等の関係になりたい。そしてできれば両想いの関係にも。それが私の正直な気持ち。あとはあなた次第」
突然の私の告白に、鉄雄は滑稽に見えるくらい分かりやすく狼狽していた。真面目な話をしている最中だから、もちろん笑ったりはしない。
「人妻キラーさんが僕と両想いの関係になりたい? 僕なんて何の取り柄もないつまらない男でしかないのに……」
「あなたはつまらない男なんかじゃない。昨日、あなたが私に送ったオープンチャットの文章を全部読み返してみた。あなたは誰よりも誠実に生きてきた。さっきあなたは嫌な過去を思い出して、今でも吐き出しそうになると言った。過去の結婚生活がトラウマになっていまだにフラッシュバックに苦しんでいるのは私も同じ。同じ傷を持つあなたとなら、つらかった過去を乗り越えて前に進んでいけると思った。あなたも同じ考えならうれしいのだけど」
「ぼ、僕も人妻キラーさんと同じ考えです!」
「それはつまり私との交際がOKという解釈でいいのかな?」
「はい、喜んで!」
どこかの居酒屋の掛け声のような返事が返ってきた。願いが叶って鉄雄と交際できることになったのはよかったけど、私を人妻キラーと呼ぶなと言ったことと私に敬語を使うなと言ったことは記憶に残らなかったようだ。
「あなたが望むなら、今日このままどこかで休憩していってもいいけど」
「人妻キラーさんと違って僕はまだ離婚できていません」
「離婚はまだでも、すでに聡美さんとの婚姻関係が破綻してるなら問題ないはずだから」
「一週間待って下さい。必ず離婚してみせますから」
「あなたは誰よりも誠実に生きてきたとさっき私は言ったが、どうやら私の言葉に嘘はなかったようだ。あなたを信じて待つことにするよ」
「人妻キラーさん、ありがとうございます!」
なぜか鉄雄の両目から涙がこぼれ落ちた。うれし涙なのだろうか? よく分からなかったが、私のハンカチで顔の涙を拭いてあげた。さっそうとしていた幸季と違って、鉄雄は母性本能をくすぐるタイプのようだ。
これが私たちが恋人になった夜の出来事。鉄雄は約束通り一週間以内に離婚を成立させてきた。
私たちはホテルの最上階のバーで待ち合わせた。もちろん幸季が最初で最後に私を飲みに誘ってくれたお店。夜景がきれいでお酒もおいしかったから、恋人ができたらまた来たいと思っていたのがもう実現できたわけだ。
「誠実な上に有言実行な人。ますますあなたを好きになってしまった」
「人妻キラーさんに褒められて光栄です」
「ホテルに部屋を取ってある。娘たちには今夜は戻らないかもと伝えてある」
「僕も今夜あなたに会うと伝えたら、帰ってこなくていいと息子たちに冷やかされました」
「私はあなたの息子さんたちとうまくやっていけるだろうか?」
「元夫さんが別れさせ屋を雇ってまで家から追い出そうとしたんだという話をしたら、これからはおやじだけでなくおれたちもその人を守るからと言ってくれました」
「うれしい!」
私にはずっと誰一人味方がいなかったのに、いつのまにか私のまわりは味方ばかりになっていた。その中でも私の夫になる男には一番の味方でいてほしい。もちろん私も、愛した男の一番の味方でありたい。
「鉄雄さん、愛してる」
「人妻キラーさん、僕もあなたを愛しています」
その呼び方、雰囲気が台無しである。
「蛍と呼んで!」
「蛍さん、愛してます」
「今夜、いや今夜に限らず、あなたは私に何をしてもいい。私もあなたがしてほしいことは全部してあげる」
「蛍さん……」
店内だからキスすることもできないのがもどかしい。その三十分後には私たちはもうホテルの部屋のダブルベッドの上にいた――
(相談)卒業します (トピ主)人妻キラー
(投稿日時)3月31日19時39分
不倫や不妊、セックスレスなど、夫婦関係に悩みを抱える多くの相談者に、おれなりに真剣に回答してきたと思う。レジェンドだの不倫バスターズとも呼ばれ、おれを指名した相談者も少なくない。気がつけば、回答を始めてもう十年以上になった。
突然だが、今日をもっておれは文殊の知恵子さんの相談への回答をやめることにした。つまり引退。
理由は結婚するから。ちなみに結婚相手は不倫バスターズのマリアの末裔だ。これからはもう不倫やらセックスレスやら、そういうネガティブなことを考えずに生きていきたい。それが回答者を引退する理由。
そうはいっても暇つぶしにたまに読みに来ることはあるかもしれない。ただ、ここに相談者として戻ってくるようなことはないように全力を尽くすつもりだ。
明日これを書くとエイプリルフールだからなと笑われそうだから急いで今日書いた。それではアディオス!
(回答)は? (回答者)人妻キラー死ね
(投稿日時)3月31日19時57分
知恵子さんのレジェンド人妻キラーが女子高生のマリアの末裔と結婚? 不倫のしすぎでとうとう頭がおかしくなったか? 本当だと言うなら、結婚相手だというマリアの末裔に事実ですと言わせてみろよ。ここは投稿に一人一人機械的に割り振られたIDが表示されるから成りすましはできないぜ。結婚が事実だったらおれは自殺してやるよ。
(回答)結婚は事実です (回答者)マリアの末裔
(投稿日時)3月31日20時24分
書き込むつもりはなかったのですが、結婚相手の人妻キラーさんが嘘つきだの死ねだのと言われているのを見逃すことはできません。私と人妻キラーさんの結婚は本当です。ホワイトデーの日にすでに入籍を済ませ、昨日から同居も始めました。不安はありません。私は頼りがいのある人妻キラーさんについていくだけです。
(追伸)結婚は本当ですが、人妻キラー死ねさんは自殺しないで下さい。それと、できればそのハンドルネームは変えて下さいね。
(回答)女子高生と結婚! (回答者)野次熊
(投稿日時)3月31日20時57分
一つ前のマリアの末裔名義の投稿と今までの彼女の投稿のIDが一致することを確認した!
マリアの末裔が女子高生といっても、きっと今月卒業して年齢も法的に結婚できる十八歳になっているはずだ。
それでも人妻キラー氏との年齢差はきっと二周り以上か。
今まで多くの人妻と不倫しながら、発覚と制裁を免れてきた人妻キラー氏だから、女子高生と結婚するといっても、民事でも刑事でも責任を取らずに済むように対策は万全なのだろう。
それにしても世の中狂ってる。あなたは法的には白でも、道義的には真っ黒だ。不倫三昧でやりたい放題に生きてきて、しまいには女子高生(しかも今までの言動を考えれば未経験だったに違いない)と結婚? そんなのうらやましすぎ……じゃない、おかしすぎる!
おれの妻は元カノでよければと親友が紹介してくれたもの。童貞のおれがネットの動画を見ながら自己処理していた大学の四年間、妻は親友の家で半同棲状態だったそうだ。勉強してた時間より親友とセックスしてた時間の方が長かったそうだ。
そんな女でもこのチャンスを逃したら、モテないおれは一生結婚なんてできないかもしれないと思って交際して結婚した。妻は何かとおれと親友を比べておれをディスる。こんな惨めな人生を送ってるおれからも一言言わせてくれ!
世界一幸せになってくれ! おれはあなたの次に幸せだと思うことにする。だからあなたの結婚生活がうまくいかないのは困る。あなたはおれの永遠の目標だ。おれのような凡人には絶対に手に入れられないものがあると教えてくれ!
(回答)犯罪だ (回答者)やっぱり死ね
(投稿日時)3月31日21時29分
確かに不倫は刑法犯でなく、民法上の不法行為に過ぎない。どれだけ不倫しようが刑務所に入ることはないし、発覚したところでわずかな慰謝料を払っておしまい。
だからといって、今までの罪が許されたとは思うなよ。それなのに、罪を償うどころか、女子高生と結婚? ふざけてるにもほどがある。こんなイカれた世の中爆発しろ!
(回答)謝罪します (回答者)陰キャのチー牛
(投稿日時)3月31日21時51分
マリアの末裔さん、いつかは君のことをネカマだと疑ってごめん。まさか本当に女子高生だったとは!
でもね、誰かの使い古しの奥さんをもらって悔しくならないかと君には馬鹿にされたけど、再構築を選んで僕は今最高に幸せだよ。
あと三ヶ月もすれば、僕も一児のパパ。見てなさい! 絶対に君より幸せになってみせるから。
君にはヘタレに見えたかもしれないけど、こう見えて僕は子どものときからずっと空手で心身を鍛えてきたんだ。いつまでも大切な家族を全力で守っていくつもりだよ。
最後に人妻キラーさんの真似をして、アディオス!