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不倫バスターズ

22 - エピローグⅠ 深海魚が見た光

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12

2024年08月20日

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八月――

結婚して五ヶ月目。

私たちの結婚生活は順調すぎるほど順調だ。再婚と同時に秋山菫との養子縁組も果たした。家の中には年頃の子どもが五人。でもお互い協力し合い、ここまで大きなトラブルはない。

特に、夜の生活が充実している。私は後背位に、鉄雄は騎乗位にトラウマがあったから、最初は正常位ばかりで行為していたが、じきにお互い気にならなくなり、今では後背位も騎乗位もお気に入りの体位の一つになっている。

鉄雄は前戯にも手を抜かないし、行為後のキスも愛してるの言葉も忘れない。幸季が言っていた本当のセックス――つまり愛のあるセックスとはどんなものか。私は四十歳にして初めてそれを理解できた。鉄雄は私が求めたものをすべて与えてくれた。愛しているから当然だという。

再婚して以来ほぼ毎日愛のあるセックスを重ねた結果、先月には私が妊娠していることも判明した。幸せの絶頂にあると言ってもいいかもしれない。

いや、よくないか。今が絶頂ならあとは転げ落ちるだけ。

そういえば、去年見た知恵子さんの相談で、昨日まで幸せの絶頂だったのに、妻が友人と電話で話していたことを聞いてどん底まで突き落とされたというものがあったのを思い出した。

相談者は陰キャのチー牛という男性だったか。彼は結婚前に奥さんがサセ子だったと知って家を飛び出したが、奥さんの懐妊により再構築を選択。子どもはもう生まれているはず。今は一児のパパとして再び幸福な日々を送っていることだろう。

幸せな人もいればそうなれなかった人もいる。残念ながら真実の愛は貧乏に勝てず、かつてシークレット結婚式を挙げて十五年越しの復縁を果たした運命の二人は破局して、先月離婚した。二人の子の出産予定日は来月。幸季の妻だった桔梗はまた秋山姓に戻った。秋山桔梗の二人目の子も生まれたときから父親不在ということになった。


陰キャのチー牛が久々に知恵子さんに投稿したのは、子どもたちの夏休みがもうすぐ終わる、とはいえまだまだ体が溶けそうになるほどの暑さが続く、そんな頃のことだった。てっきり赤ちゃんが生まれたという喜びの報告かと思ったら想定外の内容で、私と夫は思わず顔を見合わせた。

「陰キャのチー牛氏の相談に出てくる女性ってもしかしたら……」

「うん。僕の知ってるあの人だと思う。そうか。幸せになれたようでよかった」

私は嫉妬深い女だけれど、今日だけは夫が私ではない女の幸せを喜ぶことを許そうと思った。


(相談)元いじめっ子と元いじめられっ子 (トピ主)陰キャのチー牛

(投稿日時)8月20日22時17分

六月、妻が女の子を出産しました。子どもの頃、僕は幸せになってはいけない人間なんだと思い込んでいました。無口で笑わないやつ。みんなそう言って僕に近づきませんでした。そんな僕が父親に。言葉になりませんでした。

家族三人の生活が始まってしばらくして、一通の封書が自宅に届きました。妻が潔白を証明するためと自ら申し出たDNA鑑定の結果報告書でした。

やらなくていいと言ったのに。軽い気持ちで開封した僕はまたもや幸せの絶頂から突き落とされました。僕が赤ちゃんの父親である可能性は0%でした。

妻に話すと、

「えっ! じゃああのときの……」

という反応。どうやら身に覚えがあるようです。


妻によると、電話事件の数週間前、ショッピングモールに買い物に行くと元彼の一人と偶然再会したそうです。元彼はもちろん妻が結婚していたことを知っていました。

「おまえ、駅弁が好きだったよな。旦那もしてくれるか?」

「してほしいけど、駅弁スタイルが好きだからやってとは言えないじゃない」

「旦那、真面目な男らしいじゃん。頼んだところで、筋力ない男じゃ駅弁は無理だぜ。しょうがねえ。久々におれが欲求不満を解消させてやろうか」

「えー、浮気はよくないよ」

「よく言うぜ。全然嫌がってねえじゃねえか」

「バレたか。今日だけだよ」

そのあと男とホテルに行って駅弁スタイルに限らず、さまざまな体位で行為を楽しんだそうです。

「……………………」

「信じて! 浮気は本当にそれ一回だけなの。まさかその一回で受精しちゃうなんて!」

これ以上の話し合いは無駄でしょう。妻の両親を召喚し、離婚の意向を伝えました。妻は離婚は嫌だと泣き叫び、つられて赤ちゃんも大きな声で泣き出しました。地獄絵図のようでした。義父母は本当にすまないと言いながら、妻と赤ちゃんを連れて帰っていきました。


僕は何も悪いことをしていないのに、一人ぼっちになってしまいました。いや、かつて僕は悪人でした。やはり僕は幸せになってはいけない人間だったのでしょう。

そうとしか思えず、気がつくと涙があふれて止まらなくなっていました。

救いはあの妻の身内なのに、義父母がいい人であったこと。彼らは僕のために弁護士を用意してくれました。弁護士は赤ちゃんを法的に僕の子でなくす嫡出否認の手続きや間男への慰謝料請求を代行してくれました。弁護士報酬はすべて義父母持ち。それ以外にも娘の不始末に対する相場以上の慰謝料を持ってこられ、嫌がる娘を一喝して離婚届も書かせました。間男も既婚者だったので、間男の家庭も崩壊しました。まだすべての手続きが終わったわけではありませんが、僕は独身に戻りました。

妻は離婚しても旧姓には戻らないと言い張りました。

「ということは子どもの名字も?」

「ダメ?」

「君が決める話だから」

「私が決めていいなら、いっしょに育てようよ!」

と妻がいつものように調子に乗ってきて、

「おまえはもうしゃべるな!」

と義父に頭をはたかれていました。

「子どもの写真送り続けるから見てね」

最後に妻はそんなことを言い出しました。さっぱり意図を理解できませんでしたが、もう言い返す気力もなくなっていたので、どうぞと答えました。


離婚が成立した日の翌日、元妻の友達のアカネさんが訪ねてきました。アカネさんは僕との復縁の仲介を元妻からまた依頼されたそうですが断り、経緯を聞いて呆れて元妻とは絶交したそうです。

「あたしがあの馬鹿との再構築を勧めたせいで、陰キャのチー牛さんを余計傷つけることになってしまった。本当にごめんなさい」

「いや、あなたは勧めただけで、それを決めたのは僕だから。あなたを責めるつもりはないです」

「本当にいい人だ。あの馬鹿にはもったいない」

アカネさんは再構築が失敗したら貞操観念のしっかりした女性を紹介するという約束を果たしたいそうです。約束された当時は正直期待する気持ちもありましたが、生まれるのをあれほど心待ちにしていた赤ちゃんが僕の子ではなかったというショックで今はそれどころではありません。

「塞ぎ込むのはよくない。会うだけ会ってみれば? 少しは気も紛れるかもしれないし」

「はあ……」

その女性はアカネさんの職場の同僚のお姉さんだそうです。実家で家族とともに暮らしていて、年齢は僕より二つ上の三十二歳。未婚で子なし。仕事はフリーのイラストレーター。その人の描いた絵を見せてもらいましたが、見ていて気持ちのほっこりするような温かみのあるイラストでした。断るつもりでしたが、絵を見て会ってみたいと思いました。

家にこもって絵を描くばかりの日々を送っていて、アカネさんの同僚の話では今まで男性と交際したことすらないだろうということでした。アカネさんも一度実際に会ってみたそうですが、聞かれたことにぼそぼそ答えるだけの内気で寡黙な人だったそうです。

なるほど、確かにそういう女性なら浮気はしない感じがします。でも、保身のためなら平気でどんな嘘でもつける元妻にさんざん振り回された直後のことだったので、僕は疑心暗鬼になっていました。

ただでさえこちらにはバツイチというハンデがあります。会うだけ会うけど結果は期待しないで下さいと念押しした上で、その人と会うことになりました。


先方が待ち合わせ場所として指定してきた場所は洒落たイタリアンのレストランでした。ベージュのカーディガンを目印に着てくるということでした。いくら目印のためとはいえ、真夏にカーディガンはつらいのではないでしょうか?

約束の時間よりかなり遅れてベージュのカーディガンを着た女性が待合室に飛び込んできました。

彼女は遅刻したことを何度も何度も謝ってきましたが怒ってないからもう謝らなくてもいいと伝え、予約してあった座席の方に移動しました。

「一度来てみたかったお店なんですが、一人じゃ入りづらくて……」

聞いていた通りかなり内気な人のようです。それより驚いたことに彼女はすっぴんでした。髪も天然パーマなのはいいとして、美容院に行ったのは相当前のことだろうと思われました。初デートにそんな状態で臨むということは僕との交際にまったく乗り気ではないということでしょう。

と思ったら彼女の方から先に謝られました。

「男の人と会う前に美容院に行ったりお化粧しなければいけないということは分かってたんです。でも男の人と会うと思っただけで何日も前からパニックを起こして、どうしようどうしようと思っているうちに今日の待ち合わせにも遅れてしまいました。本当にごめんなさい」

蚊の泣くような声という言い回しがありますが、実際そんな感じの小声でした。

なんか内気で寡黙というより、コミュ障という方が近いかもしれません。もちろん本人にそんなことは言えませんが。

でもこの人はイラストレーター。才能で仕事している人は変わった人が多いと聞いたことがあります。そもそも何の才能もない僕が才能ある人を馬鹿にする資格はないでしょう。

「そうだったんですね。イラストのお仕事の締切に追われていたのかなと思ってました」

そう言うと、彼女はなぜか俯いてしまいました。

「イラストレーター? 私のことそういうふうに聞いていたんですね。確かにSNS上では趣味で描いたイラストを載せたりしてますけど、なかなかそっちではお金になるお仕事はいただけなくて……」

「違ったんですか」

「本業はこっちです」

スマホを差し出されたので見てみると、マンガアプリのマンガでした。少女マンガ風でしたが、内容は過激な性描写の連続。女性向けのアダルトマンガのようです。

「しかも原作者は別にいて、私は絵を描くだけなのでたいして儲かりません。実家暮らしで家賃がいらないからなんとかなっているというだけです。実際には自分の分の食費くらいしか稼げてなくて貯金もありません」

「はあ……」

僕の希望は浮気しないような貞操観念のしっかりした女性。貞操観念のかけらもない作品を描いているから、その人に貞操観念がないと決めつけるのはおかしいですが、なんだか雲行きが怪しくなってきました。アカネさんはどこまで分かっていて、僕にこの人を紹介したのでしょうか?

「たぶん私の妹が引きこもりの私を結婚させて家から追い出したくて話を盛ったんだと思います。ほかにも嘘があるかもしれません」

彼女の実家には妹さん夫婦も同居中。アカネさんに彼女を紹介したのも妹さん。妹さんは自分の部屋に引きこもって絵を描いているだけの彼女を厄介者扱いしているのだそうです。

確認すると、仕事ばかりでなく年齢も嘘でした。三十二歳と聞いていたけど、実際は四十二歳。僕より一回りも上。

そしてこれは僕から尋ねたわけでなく、彼女の方から打ち明けてきたことですが、彼女はかつて売春まがいの行為をしていたそうです。それもまだ高校生の頃に!

「……………………」

「騙したようでごめんなさい」

「いえ、あなたが悪いわけではないですから」

彼女の方から会うのはこれっきりにしましょうと提案され、僕も了承しました。

ただ、僕さえよければ今日一日つきあってほしいと頼まれました。

「もともと恋愛も結婚もあきらめてました。ただ、一生に一度くらい男の人とまともなデートをしてみたいと思ってました」

「あなたの勝手な希望を僕が叶える筋合いはないと思いますが。そもそも売春してたのにデートはしたことなかったんですか?」

「私、いじめられてたんです。売春はいじめっ子たちに強制されて……」

世の中にはそういういじめがあるという話は聞いたことがあります。いじめられっ子の女子に売春を強要して客からもらったお金も巻き上げる。正直、一生の思い出作りのデートにつきあってほしいと言われても知ったことかと思ってましたが、彼女が苛酷ないじめの被害者だったと聞いて考えを改めました。

「突き放すような言い方をしてすいませんでした。僕でよければ、今日一日おつきあいさせて下さい」

「どうして急に態度が変わったんですか?」

「子どもの頃、僕はいじめっ子でした。僕にいじめられていた子は不登校どころか引っ越して遠くに行ってしまいました。それ以来、僕はいじめられっ子には優しくすると決めていたんです」

「私がいじめられっ子だったから、デートにつきあってくれるというわけですね。いじめられていてよかったと思えたのは、四十年以上生きてきて今日が初めてです」

今日初めて彼女が笑ったのを見た気がします。彼女は美人とは言えませんが、素敵な笑顔だなと思えました。


ちょうどその日、近くで夏祭りをやっていました。屋台などもたくさん出ているので誘ってみたら、ぜひ! という返事でした。

彼女との最初で最後のデートとはいえ、せっかくだから話をしながらゆっくり歩きました。

「あなたが過去にしていたいじめの話を聞きたい」

というリクエストに応えて、封印していた過去の記憶を呼び覚ましました。


僕は幼い頃から空手道場に通ってました。その道場には先生とは別に僕が師匠と呼ぶ、僕より一回り年上の先輩がいました。品行方正な先生と違って、師匠は型破りな人でしたが、師匠は道場では圧倒的な強さを誇っていました。僕は師匠に見込まれて、個別指導を受けることができました。そのおかげで、同年代では僕が一番強かったと思います。嘘だと思うでしょうが、小学生の学年別の大会では全国大会の常連でした。

道場の先生には空手をケンカに使うなと口が酸っぱくなるほど言われてました。僕は先生の指示を守り、また余計な争いに巻き込まれるのを避けるために空手の腕前のことは誰にも話しませんでした。

四年生のとき、小学校のクラスに何人かのワルガキがいました。そのボスというのが本当に性格が悪いやつで、しかもそいつのアニキが六年生で一番ケンカが強いということで、逆らったらアニキに言いつけて半殺しにするぞと脅しては真面目なクラスメートにお金をたかったり、お金がなければみんなで袋叩きにするようなどうしようもないやつでした。

やつらの不幸は見た目で僕の強さを判断したことでした。争いごとに関わるのは嫌でしたが、とうとう僕もターゲットにされました。正当防衛なら仕方ありません。僕はワルガキたちを全員ボコボコにしました。ボスは本当に六年生のアニキとその取り巻きたちを連れてきました。ちょっと苦戦しましたが、僕が勝ちました。最後にボスのアニキが中学生まで連れてきました。三人だったのでなんとかなりましたが、四人以上だったらやられていたと思います。

僕が中学生まで倒したのを見て、クラスメートのワルガキたちは呆気にとられていました。さすがに僕も頭にきていたので、ボスの兄弟を毎日痛めつけるようになりました。正義のヒーローぶるつもりはないです。そのとき僕が無抵抗の弱い者をいじめて泣かせて楽しんでいたのは確かです。

ボスの母親がうちに訪ねてきたり、学校で騒いだりしましたが、そのたびにボスの兄弟を半殺しにしました。やつらはスクールカーストの底辺まで落ち、代わりに僕が学校全体のボスとして君臨しました。元ボスがもういじめないでと泣き出したときは、おまえがボスだったとき相手がそう言ったら許したか? と言って黙らせました。

そんなある日、三年生の女子が教室から飛び降りました。ひどいいじめを受けていて、みんなに死ねと囃し立てられた末の行動でした。校舎の三階からだったことと落ちた場所が植え込みの上だったことが幸いして、大怪我は負いましたが一命は取り留めました。

実は彼女は元ボスの妹でした。彼女が誰かをいじめていたという事実はないのですが、兄二人がスクールカーストの底辺に落とされたとばっちりを受けて、彼女もいじめられるようになったのでした。もちろん彼女が大怪我を負うまで僕はそんな事情を知りませんでした。

見舞いしようと入院した病院に行っても、問答無用で彼女の母親に追い返されました。彼女が退院してすぐに元ボス一家はどこか遠くへ引っ越して行きました。毎日いじめて泣かせていた元ボス兄弟にも謝りたかったのに、僕は永遠に罪を償う機会を失いました。

それからも僕は空手を続けましたが、それはあくまで自分の未熟な心を磨くためです。それ以来大会に出たことも、段級の審査を受けたこともありません。学校でもなるべく誰とも関わりませんでした。僕の過去を知らない人たちから、気味が悪いと陰口を叩かれても平気でした――


僕の話を聞いた彼女の感想は正直でした。

「なんか韓国のマンガみたいというか……」

なるほど、確かに韓国発の縦読みマンガは真面目そうな少年が実はチートで、不良たちを次々に倒してスクールカーストの頂点を目指していくというストーリーが多いようです。

「現実感に欠けるという異論は認めます。僕が第三者の立場で聞いたとしても同じ感想を持った気がします」

「事実だと信じることにします。あなたが話しにくいことを話してくれたので、今度は私が話すので聞いて下さい」

「あなたの受けたいじめ被害をですか? いや、あなたへのいじめは性的なものだったようなので、無理に話すことはないですよ」

「大丈夫です。私が体験したことも現実離れしてますから、マンガのネタだと思って聞いてもらえれば」

要は聞いてほしいのでしょうし、そこまで言われて断るのは野暮というものでしょう。

「分かりました。マンガのネタだと思って聞くことにします」

彼女の話には彼女以外にもう一人重要人物である女性が出てきたので、識別するために彼女をYさん、もう一人の女性をSさんとします。


何から話せばいいのか? いじめられていたのは中学のときからでした。普通は高校でいじめがひどくなることはないのですが、運悪くタチの悪い人たちに目をつけられてしまいました。最初は女子同士のいじめでした。お金を取られたり、お金を持ってこられないときはトイレで裸の写真を撮られるようになりました。ただ、その写真を学校の生徒に売って受け取ったお金はなぜか私にくれました。あっという間に、取られたお金より渡されたお金の方が多くなりました。

いじめはだんだんエスカレートして、私が裸で自慰をしている様子をみんなで見る鑑賞会まで始まりました。断ると服を便器に投げ込まれたり、便器に顔を押しつけられたりするので断れませんでした。ただ、一人千円ですが観客全員から鑑賞料を徴収していて、そのお金も全額あとで渡されました。

二年生になったばかりの頃、いつもの女子トイレではなく、畳が敷かれた和室に連れ込まれました。驚いたことに、いつも女子ばかりなのにそのときは男子もいました。男子たちも見ている前で自慰することを強制されました。

そんなことが何日か続き、五月の私の誕生日の日、私は男子生徒とのセックスを強要されました。さすがに断ると、校内でストリップショーを開催してお金を受け取っていたことがバレたら退学だよと脅されました。その日、観客は十人。私の処女の価値は一万円でした。

あとから思えば、あれは完全にレイプでした。絶対に中に出さないと言っていたのに、その約束も守られませんでした。

「これからおれたちにちょっとでも逆らったら、また中に出すからな」

あの人たちは私の心に恐怖を植えつけて、抵抗する気力を奪いました。

和室は当時、男子の不良生徒三人のたまり場でした。私の処女を奪った男もそこをたまり場にしていた不良の一人でした。私は毎日放課後そこに呼び出され、三人の不良のセックスの相手をさせられるようになりました。ありとあらゆるアブノーマルなプレイを経験させられました。

人間扱いされてなかったですね。名前で呼ばれたことなんてなくて、いつも穴呼ばわりだったですし。下の毛を全部剃られて、そこに性処理係なんて落書きまでされました。

週一でセックスの鑑賞会、鑑賞会がない日は不良たちの性欲解消のおもちゃ。高二の一年間はずっとそんな感じでした。セックスまみれの日々でしたが、セックスして気持ちいいと感じたことは一度もなかったですね。気持ちいい振りしないと相手が不機嫌になるから、なるべく気持ちいい振りはするようにしてましたけど、演技だというのはバレていたかもしれません。

高三になって状況が変わりました。私をおもちゃにしていた不良たちは私に飽きたのか、Sさんという同じ学年の真面目な女子生徒に目をつけました。不良たちはSさんを落とすのに私にも協力しろと迫りました。私のような被害者を増やしたくはなかったのですが、セックスしてお金を受け取るのは売春だ、売春していることがバレたら退学どころか警察に捕まるぞと脅されて協力するしかありませんでした。

Sさんには彼氏がいたのですが、私がその彼氏を誘惑している様子を不良たちに写真に撮らせました。私がその写真をSさんに見せて、あなたの彼氏は私と浮気していると告げると、Sさんは分かりやすく動揺していました。そのあとで不良たちがSさんに近づいて、Sさんを慰めながら浮気し返して復讐してやろうと提案したようです。私もSさんの彼氏の悪口をSさんにさんざん吹き込みました。そんなにうまくいくわけないと思いましたが、Sさんまで不良たちの性処理のおもちゃになったのはそれからすぐのことでした。不良たちは私を一号、Sさんを二号と呼び分けるようになりました。

罪悪感はあったのですが、私があの人たちに呼び出されることがそれまで毎日だったのが週に一度だけになったので、私としては結果オーライでした。高三になるとみんな忙しくなって鑑賞会も開かれなくなったのも私には好都合でした。

確かその年の十一月、一度和室の外から不良たちがSさんとセックスする様子を覗き見たことがあります。Sさんは男の一人とバックでつながっていました。私と違ってSさんはいじめられているわけではないので、名前で呼ばれていたのが強く印象に残っています。

「彼氏に仕返ししてるだけのはずなのに、そんなに感じてどうすんだ?」

「頭じゃダメだと分かってるのに、体が言うこと聞いてくれないの!」

「真面目な女ほど狂うとすげえというのは本当だな。S、分かってるな? 来週金曜はいよいよ復讐のクライマックスだ。おまえの彼氏は浮気相手のYを好き放題におもちゃにしてる鬼畜だ。Sがおれたちと4Pしてるところを鬼畜彼氏に見せつけて泣かせてやろうぜ!」

「分かってるよ。最高に楽しみ――ああっ、またイッちゃう!」

「違うクライマックスを迎えたみたいだな。本当に最高の女だぜ……」

Sさんは私と違ってあの人たちとセックスすることを嫌がっていないと知って、私の罪悪感はほとんどなくなりました。いじめられている間は被害者でも、Sさんが不良たちの性処理係になるように手助けした時点で私も加害者です。罪悪感を忘れるなんてとんでもないことでした。たぶんそれでバチが当たったのでしょう。

翌週水曜日、よりによって週一しかない私が呼び出された日に先生たちが和室になだれ込んできました。ちょうど私が四つん這いになって前と後ろから男たちに攻められているときでした。

不良たちはどこかに連れて行かれ、それきり学校には来ませんでした。私は母を呼び出され、先生の話を聞いて母は泣き出しました。私と母はその足で警察署に向かい、被害届を提出しました。すべてが夢のようでした。Sさんの彼氏を奈落の底に突き落とす復讐が実行されなくなってよかった、とぼんやり思ったのは覚えています。

その後、もともと私をいじめていた女子たちも学校に要求されて退学願を提出しました。私も学校に居づらくなって通信制高校に転校して卒業しました。でも高校時代の体験がトラウマになって、それからずっと家に引きこもってました。外で仕事したことも、男性とおつきあいしたこともありません。ぽつぽつもらえるマンガの作画やイラストのお仕事を一生懸命こなすだけです。

深い海の底に棲む魚になったようなものですね。まったく光は見えません。でもその静けさは意外と気に入ってるんですよ、私には――


いじめっ子たちに脅されて不特定多数の男相手に売春させられていたという内容を想像していましたが、Yさんの話は僕が想像していた性的いじめとはだいぶ違いました。とはいえ想像と違うからいじめとしては軽いものだったというものでもなく、それはそれで凄惨なものだったと言わざるを得ません。

ただ、どこまでが本当のことで、どこからがネタなのか? 話の全部を事実と信じるには、僕の話と同様に現実感に欠けている気がします。

「私の話を聞いてどう思いましたか?」

「ええと……」

「やっぱりリアリティーなかったですか。その反応で正解です。ほとんどネタですから」

おどけたように笑う彼女に釣られて僕も笑いました。

夕方遅くに夏祭りの会場に着きました。浴衣を着た若い女の子たちを見て、Yさんが寂しげに笑いました。

「いいな。私も一度でいいから浴衣を着て恋人や友達と夏祭りに来たかったな」

「大人が浴衣を着てもいいと思いますよ」

「見せる相手もいないのに浴衣を着るのはなおさら空しい気がします」

そうですねとも、そんなことないですよとも答えづらくて、リアクションに困って話題を変えました。

「待ってて下さい。出店で何か買ってきますからいっしょに食べましょう。食べたいものはありますか?」

「おまかせします」

Yさんに近くのベンチで待っているように伝えて、僕は人混みでごった返す出店が立ち並ぶ方へ飛び出していきました。


Yさんは若いときしか経験できないイベントに若い頃に参加できなかったことを悔やんでいるようですが、そんなのは僕も同じです。

夏祭りデート? そういえば生まれてから今日が初めてでした。浴衣デート? それはおそらく経験しないまま人生を終える気がします。

仕方ないです。ダテに陰キャのチー牛と呼ばれたわけではありません。これからも石の裏にいるナメクジみたいに誰にも気づかれず、でも誰にも迷惑をかけず、ひっそりと生きていくだけです。

出店では違う種類のものを一個ずつ買って分け合って食べることにしました。とはいえチョコバナナなんかは分け合って食べるにはハードルが高いので、たこ焼きとかき氷。かき氷にはスプーンを二つつけてもらいました。

喜んでくれるといいけどと思いながら戻ってくると、見るからに柄の悪そうな三人の男たちがベンチに座るYさんを取り囲んでいます。三人とも肉体労働でもしているのか、いいガタイをしています。でもなぜか真夏なのに三人とも長袖のシャツを着ていました。

「歴代十号までいるおれたちの性処理係の記念すべき第一号だもんな。一目見てそうだと分かったぜ」

「全然見かけねえから、とっくに遠くに逃げてったのかと思ってたぜ。もしかしてあれがトラウマになって部屋に引きこもってたとか?」

「あれから二十年以上経ったが、昨日のように覚えてるぜ。わざわざおまえの誕生日まで待って処女を奪ってやったんだ。あれから誕生日おめでとうと言われるたびに、おれを思い出したんじゃねえの?」

Yさんはヘビににらまれたカエル状態。でも必死に言い返しました。

「ダイヤ君、私はあれから誕生日を祝ったことは一度もないよ」

三人はゲラゲラ笑いだしました。

「相当ショックだったんだな。でも残念だったな。今日再会してしまった以上、もうおまえは死ぬまでおれたちから離れられなくなったということだ。どこまで逃げたって、とことん追いかけてやるぜ!」

「おまえの恥ずかしい写真やビデオなら今も全部大事に保管してるぜ。逃げたらそこら中にバラまいてやるからな!」

「とりあえずホテル行こうぜ。久しぶりに4Pしまくろうぜ!」

三人のうちの一人が強引にYさんの腕を引っ張りました。僕はつかつかと歩み寄って、男の腕を軽くはたきました。

「いてっ」

男はYさんの腕を放し、はたかれた辺りを押さえています。軽くはたいただけのつもりでしたが、彼にとってはそうではなかったようです。

「何をしやがる!」

男がものすごい形相でにらみつけてきたのを無視して、買ってきたたこ焼きとかき氷をYさんに預けました。

「たこ焼きが冷める前に片づけるので座って待っていて下さい」

「逃げて下さい。関係ないあなたまで巻き込むわけには……」

「関係なくないですよ。さっき僕はいじめられっ子には優しくすると話したでしょう。言い換えれば、いじめっ子には優しくしないということです。僕自身を含めてね」

「今逃げないと、私みたいに人生が終わってしまいますよ」

「逃げても追いかけてくるなら戦うしかないでしょう」

腕をはたかれたやつとは別の男がニヤニヤしながら僕とYさんの会話に割り込んできました。

「もしかしてあんたその女の旦那さんか彼氏さん?」

「そういうわけでは」

「無関係なら引っ込んでてもらおうか。おれたちは全員その女の被害者なんだ。責任を取ってもらおうと話してるだけだから」

「被害者?」

「そうだ。その女のせいでおれたちはみんな少年院行きになった。卒業間近だったのに、高校は中退、合格していた大学にも入学できなかった」

「それだけじゃねえ! おれの姉ちゃんはそのせいで婚約してたのに破談になった」

「うちだってその女の件で請求された慰謝料を払うために家を売る羽目になった!」

彼らの家族は気の毒だと思いますが、責められるべきはYさんではなく、彼ら自身です。いい年した大人になってそんなことも理解できていないのだから、少年院で更生に向けた教育を受けたはずですが、すべて無駄だったということでしょう。

「人間誰でも過ちを犯すけど、更生できる人間とできない人間がいる。あなたたちは後者のようだ」

「おれたちを馬鹿にしてるのか!」

男の一人が袖をまくり上げて派手な刺青を見せびらかしてきました。三人とも長袖のシャツを着ているのが不思議でしたが、どうやら入れ墨を隠すためだったようです。

「七三分けの陰キャのくせに誰にケンカ売ってると思ってんだ。すべてを失って巻き返した人間の恐ろしさをたっぷりと教えてやるぜ!」

三人の中で一番身軽そうな男が飛びかかってきました。Yさんが見ていられないとばかりに両手で目を覆いました。次の瞬間、男は僕の前で仰向けで寝ていました。

「おい、カズキ、何の冗談だ? この陰キャをシメるんじゃなかったのかよ?」

さっきYさんの処女を奪ったと話していたダイヤという男が寝ている男に語りかけますが、寝ている男は気絶しているのだから無意味です。僕は一瞬で男を倒しただけです。見る人が見れば僕と寝ている男では力に差がありすぎると分かるはずです。でも力に差がありすぎて、力に差がありすぎると理解できないようです。

「仕方ねえ。ジュン、その陰キャを潰してしまえ!」

それにしても、陰キャ陰キャと連呼して気に障る男です。素人相手だから一撃で決めるつもりでしたが、ダイヤという男だけは少し苦しめてやろうかなと思いました。

ジュンと呼ばれた男は体重100キロはあろうかという巨漢。高校時代もそうだったのでしょうか? どちらかといえば小柄なYさんがこの男に組み敷かれている場面が想像されて胸が痛みました。

ジュンは両腕で前面をガードしながらタックルしてきましたが、素人のガードなど気にする必要もありません。回し蹴りでガードごと巨体を吹き飛ばしました。ジュンも離れた場所で横たわり、それきりピクリとも動きません。

「なっ!」

ようやく僕と自分たちとの力の差を少しは理解できたようです。でも、あくまで〈少し〉だけでした。ダイヤはコンバットナイフを取り出して、刃をこちらに向けました。威嚇ではなく本気で僕を刺そうとする殺気は伝わってきます。

「いいの? 刃物を振り回すなら正当防衛が成立するから、殺されても文句言えないよ」

「うるせえ! 死ね!」

突っ込んできたダイヤがナイフで刺そうと右腕を後ろに引いた瞬間、正拳突きを顔面にヒットさせました。ダイヤはその場にうずくまり、痛えよー痛えよーとうめいています。ダイヤがうずくまるそばには抜け落ちた歯が何本か転がっていて、痛みの原因はこれです。

落ちていたナイフを拾って、ダイヤに返すことにしました。どうせ素人にナイフを持たせても怖くないし、相手にナイフを持たせておく方が本気で痛めつけられるので、僕には都合がいいのです。

「これは返す。どうする? まだ戦う?」

ダイヤはナイフを受け取りませんでした。

「いえ。おれたちの負けです。おれたちは二度とあなたに逆らわないし、Yにも手を出しません。病院に行きたいのでこれ以上は見逃して下さい。決してあなたにやられたとは誰にも言いませんから」

「やけに素直に負けを認めたね」

「高校時代、あなたのようなヤバい人に知らずにケンカを売って、三人がかりでもボロ負けして危うくなぶり殺しにされそうになったことがあるんです」

「そのことがトラウマになってるわけか。そのときはどうやって許してもらったの?」

「三人とも絶対逆らわない手下になると約束して……」

小学生時代のボス兄弟を思い出して、苦笑するしかありませんでした。いじめっ子というのは相手が弱いから調子に乗るだけで、強い相手には従順なものです。

「悪いが救急病院に行くのはまだだ。Yさんの写真やビデオがあるそうだな。全部買い取ってやるから、今すぐ全部持ってくるんだ」

「買い取るっておいくらで?」

「いくらだろう? 持ってこなければ三人とも殺すから、要はおまえたち三人分の命の値段ということだ。こんないい条件なら、おまえたちも売らざるを得ないよね?」

青い顔で分かりましたと答えて、ダイヤは駆け出して行きました。ちょうど気絶した二人が目を覚ましたので、ダイヤが戻ってくるまで逃げないように優しく言い聞かせました。

ようやくYさんのもとに戻れました。Yさんは僕を見上げて沈黙したまま。僕が勝ったという現実をまだ受け入れられないようです。

「Yさん、すいません」

「どうして謝るんですか?」

「たこ焼きが冷める前に片づけると約束しましたが、たぶん約束は守れてないと思います。かき氷が溶ける前に、と言っておけばよかったな」

Yさんがぷっと吹き出しました。僕はYさんの隣に腰掛けました。

僕らは冷めたたこ焼きと溶け始めたかき氷を分け合って食べました。お互いの話がすべて本当だったと分かって驚いた。僕らの話はそこから始まって、話の種は尽きませんでした。

もうすぐ食べ終わる頃、Yさんが不意に涙ぐみました。

「どうして泣いてるんですか?」

「こんなにおいしいものを食べたのは初めてで……」

「冷めたたこ焼きと半分溶けたかき氷が?」

「私は高校のときから何を食べてもおいしいと感じたことがありませんでした。あなたと食べてるからおいしく感じるんだと思います」

おそらくYさんは勇気を振り絞ってそれを言ったのでしょう。僕も、さっき男たちと対決したときとは比べものにならない本気さで彼女と向き合いました。

「Yさん、もしよければ次は浴衣デートしてみませんか? 夏祭りが終わっても、鎌倉や京都なら大人が浴衣を着て歩いてもサマになる気がします」

「うれしいです! もう一度デートしてもらえるということですか?」

僕の伝え方が悪かったのもありますが、彼女も空気を読むのが少し不得意なようです。

「すいません。正式に交際を申し込んだつもりだったのですが、言い方が悪かったみたいです」

「私と交際? だって――」

僕は人差し指を自分の口に当てました。

「全部聞いて全部知った上での判断なので、イエスかノー、それ以外の言葉は必要ありません」

彼女は押し黙りながらも、その瞳はまっすぐに僕の瞳を捉えていました。にぎやかな祭り会場で僕らがいる一角だけが静寂に包まれていました。そして見落としてしまいそうなくらいかすかに彼女の唇が動きました。

「イエスで……」

「ありがとうございます」

そのとき大輪の花火が夜空を彩り、歓声が上がりました。次々に花火が上がり、人々はみな空を見上げています。

「二度と私には光なんて見えないものだと思ってました」

「光が見えないと言ってましたが、見えたんですね」

「案外、深海魚も光を見てるのかもしれません」

「目で見る光ばかりが光じゃないですからね」

どちらからともなく僕らはキスをしました。彼女は知らなかったのかもしれません。今まで闇の中にいてようやく光が見えたのは僕も同じです。


離婚したばかりですが、こうして僕はYさんという女性と交際することになりました。条件から言えばありえない選択でしょう。僕は雰囲気に流されているだけでしょうか?

彼女との交際を続けていくべきかどうか。今回僕が相談したかったのはそのことでしたが、答えはもう僕自身の力で見つけていたようです。長々とした駄文を最後まで読んで下さってありがとうございました。では、失礼いたします。


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