テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
目についた椅子を近くまで引き寄せた菜穂子は、瑞穂に「座って食べたら?」と提案する。
けれども瑞穂は、なかなか座ろうとはしない。
「……うちがここで、こんなん食べてること気にならないの?」
上目づかいで尋ねた瑞穂に、菜穂子は苦笑する。
「答える人が嫌な気持ちになることは質問したりしないよ、私」
「ふぅーん……純玲さんとは違うんだ」
純玲さん?誰それ。と尋ねたくなった菜穂子だが、大体は見当がつく。
「純玲さんさぁ、パパとママのお気に入りだから、わざと呼ばれてないの。でもいつもさ、宴会の途中で来るんだ。私はいつでも来ていい人なのよって顔して。きっと今日も、あんたに──」
「私の名前は菜穂子。あんたじゃないよ」
ぴしゃりと菜穂子が注意をすれば、瑞穂は露骨にムッとする。でも、すぐにカップラーメンを持ったまま、モジモジし始めた。
「……その……ごめん」
「ううん、いいよ。ただ立って食べるより、座った方が落ち着いて食べれるんじゃない?」
「……なほ姉は、変な人だね。お行儀悪いとか言わないし」
あんた呼ばわりの次は、なほ姉ときた。距離の縮め方が豪快だなと思ったが、悪い気はしない。
「行儀作法にうるさい人は、卵とチーズを入れたカップラーメンを勧めたりなんかしないよ」
「ははっ、それはそうかも」
笑いながら納得した瑞穂は、菜穂子が進めた椅子に座って再びカップラーメンを食べ始めた。
「──ところで、なほ姉……どうしてこんなところにいるの?」
カップラーメンを半分ほど食べた瑞穂は、おもむろに箸を置いて菜穂子を見た。
「実は……お手洗いを借りたら、帰り道がわかんなくなっちゃって」
「ウケる。っていうか、スマホですみ兄にヘルプ出せば良かったじゃん」
「すぐに戻るつもりだったから、スマホ持って来なかったんだよねぇ」
「トロいね」
「……ははは」
容赦ない瑞穂の評価に、菜穂子は乾いた笑い声を上げることしかできない。
「っていうか、いいの?ずっと、こんなところにいて」
「うん、まぁ……瑞穂ちゃんが食べ終わるまではここにいるよ」
「どうして?」
「だって一人で食べてると、味が半減しちゃうじゃん」
当たり前のことを言っただけなのに、瑞穂は大きく目を見開いた。
「……瑞穂ちゃん?」
「なほ姉……あのね」
「うん」
「私……ね、聞いてほしいことがあるの。すみ兄のことで……」
「うん」
瑞穂は今、必死に勇気をかき集めて何かを伝えようとしてくれている。
それがわかった菜穂子は、急かすことなく瑞穂が次に放つ言葉を待つ。
「あのね、すみ兄は──」
「ちょっと、瑞穂さん!やっと見つけたわ。あなた、こんなところで何を食べてるのっ。意地汚い!」
瑞穂の掠れ声を掻き消したのは、子供の入学式に着ていきそうなスーツ姿の中年女性だった。
宴に招かれた一人であり、ついさっき菜穂子と真澄に祝いの言葉を送った女性でもある。
「……あの人、ママのお姉さん」
「うん、知ってる」
こそっと囁かれた瑞穂の声音から深い憎悪が感じられ、二人の関係が良好とは言い難いことを菜穂子は察してしまった。
「瑞穂さん聞いてるの?まったく、柊木を名乗るんだったら……あら?」
汚いものを見るような目で頭ごなしに瑞穂を怒鳴りつけていた美佐枝の姉は、やっと菜穂子に気づいて目を丸くした。
「あなた、どうしてこんなところに?」
今度はコソ泥を見るような目つきになった美佐江の姉に、菜穂子は瑞穂が膝に抱えていたカップラーメンを指さした。
「お腹が空いたんで、これを瑞穂ちゃんに作ってもらってたんです」
「は?あ、あなた……こんなものを……??」
「ええ」
なんか文句ある?と言いたげに、菜穂子は片方の眉を挑戦的にクイッとあげる。
「はっ、大切な宴を抜け出して、コソコソと」
「違うの、私が──」
「真澄さんが、別に構わないと言ってくれたんで」
瑞穂の言葉を遮って、菜穂子は高飛車な態度を取る。
詳しい事情はわからないが、瑞穂が隠れてカップラーメンを食べていたのは、そうせざるを得なかったからだ。それなのに、一方的に責めるのは間違っている。
「ご不満そうな顔をしてますが、その前に思い込みで怒鳴りつけたことを瑞穂ちゃんに謝るべきでは?」
「は?わた……私が、どうして……そんな!」
「どうしてって、間違ったら謝るのは常識なんで」
馬鹿なん?という表情を浮かべて、美佐江の姉を見る。
「偉そうに柊木家がどうのこうのと言う前に、まずは人として恥ずかしくない言動を心がけるべきでは?いい大人なんですから」
そう言い捨てた菜穂子は、瑞穂からカップラーメンを取り上げてズルズル啜りだす。
「あ、あなた……覚えておきなさいよ!」
酷い侮辱を受けたような顔をした美佐枝の姉は、ワナワナと唇を震わせながら、背を向けどこかに消えてしまった。
コメント
1件
読み終えたわ!今回の話、菜穂子がめっちゃかっこよかった🔥 瑞穂を「あんた」呼ばわりした後に注意するところも、「なほ姉」って呼び方に変わっていく距離感の縮まり方も良かった。最後のカップラーメンを啜りながらの啖呵、まじで痛快!純玲さんの存在や「すみ兄のことで」って言いかけて遮られたところ、続きが気になりすぎる…これは次が待ち遠しいやつだわ。
#恋愛
ばたっちゅ
19,196
臣桜
49,100
#両片思い
当麻月菜
268