ピンポン…
湊の家のチャイムが鳴った。
「シンっ!」
「湊さん。夜ご飯持って来ました」
「お前昨日もう来るなって…」
「毎日持って行くって約束しましたよね?」
「……」
「お皿、借ります…」
「おぃっ!」
シンは持ってきた料理を皿に移す。
「昨日も言いましたけど…俺、諦めませんから…」
「……」
「東京の大学受験するのやめたって話ししましたよね…」
「あぁ…」
「本当は東京行ってあんたを探そうと思ってた」
「…はぁ?」
「あんたが居なくなったとわかってから俺は東京にあんたを探しに何度か行こうとした。でも、あの頃の俺はまだ小学生(ガキ)であんたを探す術を知らなかった。だから、あんたがいる東京の大学に行こうとしてたんだ…」
「……」
「でも、あんたは戻ってきた…だから、東京に行く理由がなくなったんです」
盛り付けた皿をテーブルに出す。
「……」
「俺…頑張るから…あんたに好きになってもらえるまで…」
「…俺は高校生とは付き合わねーよ」
「じゃ、卒業した後なら…」
「そんなくだらねぇ事ばっかり考えてねーで、受験生は勉強に集中しなさい!」
「くだらなくなんかないです!」
「シン…お前は医者になるんだろ。俺になんかに構ってたらお前の将来が…」
「医者になる為にあんたが必要なんだ!」
「…… 」
「あの日あんたが好きだって言ってた水泳を俺は本気で続けようとしてた。だけど、腰を壊して水泳続けらんなくなって、あんたも居なくなって…全てを失った気がした。でも、医者になって同じように苦しんでいる人の力になれる事で水泳と…あんたと関われるかもしれないって思った…」
「……」
「あんたに近づきたい…それだけを支えに今まで頑張ってこれた…」
「……」
「せめて…今は側に居るだけでも……だめですか…」
「……」
「……」
「お前は俺に何を求めてる?」
「何って…」
「返答次第によっては、お前とはもう会わない」
「……」
「友達としてなら居てやる。だけど、それ以上を望むなら友達としても側に居てやれない…」
「……」
「……」
「……わかりました」
「……」
「友達としてなら側にいても良いんですね…」
「まぁ…友達としてなら」
「明日も来ます。友達として…明後日も…その次の日も…毎日…」
「……」
シンの表情が沈んでいくのがわかった…
湊はそれ以上シンを拒む事はできなかった。
その日湊は夜中に目が覚めた。
「…んっ?」
向かいの窓を見ると、まだシンの部屋の灯りがついている。
机に向うシンの姿がカーテン越しに見えた。
時計を見ると
「もう2時じゃねーか……」
湊はシンの言葉を思い出していた。
『医者になる為にあんたが必要なんだ!』
本当は何事にも真っ直ぐ真剣に取り組むシンの姿を誰よりも近くで見ていたいと思っていた。
それは友達としての感情ではない事を湊は薄々わかっていた…
だけど…
俺にお前の隣に居る資格はねーんだよ……
その夜シンの部屋の灯りが消えるまで湊は眠らなかった。
「ふぁあ…」
(完全に寝不足だな…)
「湊さん!」
今日もコインランドリーにシンが訪ねてきた。
「シン、学校終わったのか?」
「はい。湊さん今夜はロールキャベツです!」
「また手の込んだ料理を…」
「嫌いでした?」
「好きだけど…何もそんな難しい料理作ってくれなくても…お前勉強忙しいんだろ」
「平気です。昨日から仕込んであるので温めるだけですから」
「昨日からって…お前昨夜は遅くまで勉強してただろ」
「…見ていてくれてたんですか」
「べ……別に見たくてみたわけじゃねーよ!向かいの部屋だからな…目に入っただけだ…」
「大人気ねーな…俺の事見てたってそう言えばいいのに」
「ばかっ!そんなんじゃねーって。たまたま見えただけだっ!」
「素直じゃねぇ…笑」
「あれっ?香月お前笑えるんじゃん」
店の入口に明日香が立っていた。
「英!」
「お前いつも怒った顔して笑わねーから笑い方忘れてんのかと思った。笑」
「……」
「明日香!シンと知り合いだったのか?」
「そう、クラスメート」
「なんだ。そうだったのか」
「アキラさんがコインランドリー継いだって聞いて見にきた」
(アキラさん…?)
「お前も俺の事監視しにきたのか?」
「そんなわけないじゃん。冷やかしに。笑」
「ここは遊び場じゃねーんだぞ!」
「いーじゃん。暇そうだし」
「俺だって色々忙しいんだよ!」
「湊さん。俺帰ります。また、後で…」
「おぅ。待ってるわ」
「アキラさん。何、後でって?」
「あぁ、シンの家、隣なんだわ。今、じーちゃんとばーちゃん居ないから夜飯持ってきてくれてんの」
「へぇ……」
「待てよ、香月!」
明日香がシンを追いかけてきた。
「……」
「お前さ、アキラさんの事好きなの?」
「……」
「だって、明らかにアキラさんにだけ態度違うよな?」
「……だったら?」
明日香はニヤリッと笑うと
「俺も好きなんだよね〜アキラさんの事」
「はっぁ?!」
「嘘だよっ!本気になって怒んなよ香月。笑。冗談だって!」
「お前っ!」
シンは明日香の胸ぐらを掴む。
「!」
「だったらさぁ…」
「……」
明日香はシンの耳元に顔を近づけると
「本気でアキラさん落として見せろよ…」
そう囁いた。
シンは明日香を掴んでいた手を荒く離す。
「っ…!」
シンは明日香を置いて行ってしまう。
小さくなって行くシンの背中に向かって明日香は呟く。
「俺に見せてみろよ…年上落とすところ……」
【あとがき】
⚠明日柊は書けません。笑
色々書きたい話が浮かんできたので、都度投稿に変更します。
書き始めたら止まらなくなり話がたまって行く気がして…ですので現在溜まった話を順次放出します。
そして確実に長くなります。笑
ドラマでは無かった夏とちょっと春?や、原作では無かったイベント?の話も書きたいなと思ってしまったので…
気長にお付き合い頂けたら幸いです。
続きは、明日投稿します。
それでは、次回作でまたお会いできますように…
月乃水萌
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