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「あー。まぁ、ヤリチンにはそう言うの、関係ないのか」
「酷い言われようだな」
「ん? 事実でしょう?」
確かに、その通りかもしれないが……もう少しオブラートに包んで欲しい。
これじゃまるで自分が遊び人みたいじゃないか。
まぁ、実際そうなのだが……。
蓮は小さく溜息を零すと、これ以上この話をしても無駄だと判断し、ナギの隣に腰を下ろした。
それに、今はあまり余計なことを考えたくない。
雪之丞の様子がおかしかった理由も気になるが、それよりも今はもっと重要な事がある。
「……なぁ、キミは僕の演技見た事があるかい?」
「なに、突然」
「ちょっとまぁ、色々とあって……」
流石に、自分の演技を見た兄からダメ出しを食らったとは、言い辛くて言葉を濁す。
だが、蓮の態度を見てなんとなく察してくれたのだろう。それ以上は何も聞いて来なかった。
代わりに、ジッとこちらを見つめてくる。
吸い込まれそうな程澄んだ瞳に見つめられ、なんだか落ち着かない気分になる。
「やっぱり凛さんに何か言われたんでしょう?」
「……まぁ」
「凛さんってさ、すっごい怖いよね。アクター時代の映像はテレビで何度も見て、すっごくカッコいいなって思ってたけど、何処か冷めてるって言うか……。実際に見るとなんだか凄く怖いって思った」
それは、蓮も薄々思っていた。だが、今聞きたいのはそこじゃない。
「きっと、他人にも自分にも厳しいんだろうなぁってイメージ。その点、お兄さんはアレだよね。自分に甘いタイプ。あー、いや。何か違うな……自分の演技に絶対的な自信を持ってるナルシスト、かな?」
さっきから酷い言われようだ。褒めているのか貶しているのか。一体どちらだろう?
「実は俺、昔っから戦隊もの大好きでさ、ずっと小さい頃から見てたんだ……。中学に上がるころ凛さんが載ってる雑誌に出会って。そこからアクターさんに興味を持ち始めて」
懐かしむように目を細めながら話し始めたナギの横顔は、どこか寂しげで、それでいて嬉しそうな複雑な表情をしていた。
そんなナギの様子を横目に見つつ、黙って耳を傾ける。
「ごめんね、初めて会った時、実は俺、お兄さんの事知ってたんだ。お兄さんだけじゃなくって、ゆきりんの事も勿論知ってたし、はるみんのことも知ってる」
「えっ?」
「一目でわかったよ。人気絶頂のさなかに突然引退を表明した伝説のイケメンアクター。お兄さんの柔らかい表現力と誰にでも合わせられる演技、綺麗な技の数々がすっごい好きで、憧れだったから」
真っすぐに目を見ながら告げられて、思わず照れ臭くなる。
こんな風に正面から褒められたことが無かったから、どう反応したらいいかわからず、蓮は誤魔化すようにコホンと咳払いをした。
正直、面と向かってそんなことを言われるのは気恥ずかしいし、気まずい。
「あれ? 照れてるの?」
「て、照れてなんかないよ」
図星を突かれて、平静を装いながら困ったように眉を寄せる。
本当はかなり動揺していたけど、それを悟られまいと必死に取り繕った。
「お兄さんが凛さんに何を言われたのかはわからないけど……。お兄さんって、どんな役者にも合わせられるでしょう? 戦隊ヒーローって演者とアクターが違うから下手な人だと直ぐにわかっちゃうんだよね。仕草が違うって言うか……。お兄さんの演技はどの出演番組を見てても違和感が無くって、それでいて綺麗で……。やっぱり、この人凄いなぁってずっと思ってた」
「……」
ナギの話と凛に言われたことが重なっていく。
独りよがりの演技……。演者とアクターは表裏一体。 自分が呼ばれた意味――。
彼の演技をこの目で見た時に、何故気付かなかったのだろう。クセのない自然体の演技をする彼を引き立て、違和感なくアクションに持ち込むには、台本どうりの動きでいいはずが無いじゃないか。
「ハハッなんだ……そうか……」
なんでそんな簡単な事に気付けなかったんだろう?
「……お兄さん?」
「いや、ゴメン。何でもない」
「……? 変なの」
不思議そうに首を傾げるナギに、蓮は苦笑を漏らしながら、心の中がスッキリと晴れていくのを感じていた。