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※お待たせぇぇぇぇぇ…!
「ふあぁわぁぁぁぁ……んん、もう朝…?」
顔に差した光で目が覚める。カエデと挨拶を交わし、一旦ぼくの家に戻ったあとから今までずっと寝ていたのだが、短い睡眠時間で休むのは無理があったみたいだ。寝不足もあったのか、あっという間に時間が過ぎていったように感じる。
(リボンちゃん…は、まだ寝てるな。これはしばらく起きそうにないし…そういえば、カエデはどこ行ったんだろ?)
最後に見たときは壁にもたれてクッションを掴んで寝ていたはずのカエデがいないことに気づく。ドアの鍵は元から閉めていないから判別の材料にはならないが、もしかしたらの可能性もある。リボンちゃんを起こさないようにそっとドアを開けた。まだ藍を含んだ空に光が差し、眩しい朝の光景を彩っている。あきれかえるほど平和な日も、大きな事件が起こった日も、変わらなかった夜明けの世界。ふと斜めにあった木の影に目が行く。光の遮られた裏側は黒に染まっていて、その色の差に思わず眩しさを感じた。その時何を考えたのかはよく覚えていない。たぶん散歩のつもりだったはずだ。理由はどうあれ、その時のぼくは無意識のうちにその木のそばまで歩いていった。
(…あれ、あそこに…誰か、いる?)
木の下まで歩いていくと、その近くで寝転ぶ人影が見える。模様のついた布を頭に巻き、服は頭の布と同じ色がベースのシンプルなもので、よく見ればクリーム色のインナーを下に身につけている。絵描きの彼女よりは茶色の強い髪が草と共に風に揺れる。どうやらここで眠っていたようだ。しかしよく注意して見てみるとその体はほのかに光っている。呼吸にあわせて強弱し、息を吸い込めば強まり、吐けば弱く、同時に風が渦巻いた。まるで自然そのものが、彼女とひとつになったかのように。
「ここにいたんだね、カエデ」
「…あ、カービィ…おはよう!」
寝覚めは良いほうなのか、声をかければすぐに元気のいい返事が返ってきた。しかしさっきまでの光は、カエデの意識が覚醒すると同時に消えてしまった。
(あれはなんだったんだろう。眠っていたときだけに発現する力?それとも、誰かもう一人が、カエデの体の中に…)
「…ービィ、カービィったら!もう、聞いてる?…眠いなら、まだ休んでてもいいよ?」
思わず考え込み、沈んでいった思考をぼく宛ての呼びかけで浮上させられる。どうやら眠たくてボーっとしていたと勘違いされていたらしい。大丈夫、と短く返すと、彼女は優しい笑みを浮かべて立ち上がった。まだ数時間の付き合いではあるが、こうして笑うときは言葉にするまでもない了解の証だとなんとなく理解している。
「リボンが起きる頃だと思うし、そろそろ支度しよっか」
そう。ぼくたちは今から、旅に出るのだ。この近くの惑星へと逃げた、カエデの友達を探しにいくために。あるいは、助けるために。カエデたちのグループを襲撃したのが、本当に奴ら――『ダークマター族』なら、危害を加えられているのは可能性として考えておくべきだ。今までの経験からして、無事に逃げ切れているとは思えない。それがどれだけの手練れでも、憑依され、操られていないわけがない…
「…あ、カービィさん、カエデさん、おはようございます!二人とも、朝は早いんですね!」
家に戻ると、既に起きていたリボンちゃんがドアの近くにいた。ついさっき、カエデを探しに行ったぼくのように、部屋にいないぼくらを探しに、外へ出ようとしていたのだろう。髪の毛はいつもの形に整えられ、赤いリボンが結わえられている。こちらも準備は万端のようだ。
「よし…じゃあ早速、出発…といきたいところなんだけど…少し寄り道してもいい?ちょっとデデデの様子を見ておきたくって…」
目的地を口にすると、おおよそ察したのかリボンちゃんは苦い顔をした。昨日カエデが堕ちてくる前、夢の泉が怪しい光に包まれていたときを思い出す。あの様子でなにも異変がないのは少しおかしい話だ。またナイトメアのような存在が発生する前兆だとすれば、彼が気づいていないわけがないから。
「よーし、それじゃあ、目的地はデデデ城で。さっそく行こう!」
ぼくの言葉を音頭にして、二人も歩きだした。
場所は変わって、ここはとある森の中。秋のこの季節の木々は紅葉まっさかりのシーズンで、ここを訪れる人は毎年少なくはない数だけいる。しかし内部構造は見かけよりも複雑で、迷ったまま出てこなかった人が十数人ほどいるとか、いないとか。
「ふうー…疲れるっスね、この仕事も…」
「特にこのシーズンになるとね。でもちゃんとやらなきゃ。迷子の数がもっと増えちゃうし 」
「そういうのの責任の対応するの、大王様ですもんね…あの人、自称大王のくせに色々と頼りにされてますし、頼まれごとも断らないから…」
この国ではメジャーな一頭身の住民――ワドルディと、どこをあたっても珍しい、長い頭身の少女――アドレーヌは、ここで迷った人を発見し、救助する役割を担っているらしい。その二人の主である大王に恩や親交のある彼らであり、ここのことを熟知しているからこそ、任された仕事なのだろう。
「…あっ、そういえば。…あの噂、もう聞きました?夢の泉に、流れ星が降ってきたっていう」
今朝あたりから流行りはじめた噂話をなんとなく口に出してみる。さすがに耳に入ってはいなかったのか、アドレーヌさんは知らなかったようだ。昨日の夜、偶然起きていた住民の中の誰かから出た噂だから、その真偽は確かではないけれど。
「もしそれが本当だとしたら…すっごい夢が、叶っちゃったりしてね」
何気なくもまさに夢のような想像だった。泉には悪夢を祓う効果がある。それは地味なようであるが、実際、悪夢を視るか視ないかで、変わるものはちゃんとあるのだ。そんなに凄い力がある泉なら、夢を叶えるなんてことも本当にありえるのかもしれない。
「――なんの話?ぼくにも聞かせて! 」
「っいひゃああああ!!…なんだ、カービィさんっスか。はあ、びっくりしたぁ…」
話にいきなり参加してきた声に、思わず大声で驚き、それが友人のものだったと分かると今度は安堵した。こうして背後から驚かされるのは、あの旅の時に出逢って以来の恒例行事のようなものだが、やはり驚くようなものにはちゃんと驚くのだ。しかしそのやり取りは楽しいから、慣れないままでも良いのではないか、とも内心では思っている。迷惑の方が強いので、本当にわずかではあるが。
「ふたりとも、相変わらず仲いいねー。…あ、リボンちゃん!?どうしてここに?」
そのやり取りを微笑ましそうに見守っていたアドレーヌさんが、後ろのリボンちゃんに気がつき、それでようやくオイラの方も気がついた。会うのはあの事件以来だから、まさか再会できるとは思っていなかったのもあって、内心、驚いてしまった。
「昨日、カービィさんと夢の泉へ天体観測に行って…しばらくはこの辺りを観光しようかなって。えへへ…久しぶりのお休み、みなさんと一緒にいられて嬉しいです! 」
「前はのんびりする暇がなかったし…うん、いいね。そうしなよ!あたしもしばらくはここにいる予定だし、一緒に観光しよ!」
ガールズトークに花を咲かせている二人からそっと目をそらし、カービィさんの方へ向き直る。どこか落ち着かない様子の彼はあちこちに顔を回していた。
「どうかしたんスか?誰かと待ち合わせ?」
「あ、や――そうじゃなくて…さっきまで一緒にいた友達が、いつの間にかいなくなってて…」
彼の言う“友達”とは、いったい誰のことだろう。なんとなく、 オイラの知っている人ではないような気がする。この人にはいつの間にか、新しく友達ができていることが多いのがもはや当然と化している。だからそのせいかもしれない。
「昨日、夢の泉で出会った子なんだけど、いろいろ見て回ってるのかな?ポップスターは初めてだって言ってたし…」
(…ん?夢の泉で出会った、って…もしかしたら、あの噂の真相は…)
ただの偶然、で終わってしまうかもしれない。けれどその可能性は、どうしてか否定しきれない。いま自分の目の前にいるのが、数々の奇跡を起こしてきたひとだからこそ、余計に。
「…あ!二人とも、ここにいたんだ…!ごめんね、この森、すごくいいところだったから、色々と目移りしちゃって…」
「…噂をすればなんとやら、だね。あの子だよ。さっきぼくが言ってたのは」
聞き覚えのない声と共に、奥の方から歩いてきた影は、どこかあの人に――アドレーヌさんに似ていた。なにかの民族特有の柄のように見える模様のヘアターバンと、まっすぐの髪が印象的だ。ふと、この秋の景色に似合うひとだな、と感じた。その理由までは、よく分からなかったけど。
「…あれ?知らない人が二人…もしかして、カービィの友達?」
アドレーヌさんよりかは少し落ち着いたトーン。こっちに視線が向けられると同時に、頬の横を風がすり抜けていった。
「…あ、初めまして、っスね!オイラはワドルディ――って言っても、種族の名前で、固有名詞はないんスけど。」
「ワドルディはねー、手先が器用なんだ!いろんな乗り物をつくったり、機械の修理も得意だよ!」
横から説明の補足がされる。予想外の褒め言葉に、思わず赤面した。さらっと人を褒められるのも、カービィさんの良いところの一つだ。こういう性格が故に、いつの間にか友達が増えているのだろうか。それが少し羨ましくもあり、しかしどこか嬉しい。それはたぶん、カービィさんに友人が増えると、ほぼ必然的に、オイラにも新しい友達ができるから。
「――あれ?見慣れない子…初めまして!あなたもこの“しずかなもり”に観光に来たの?」
相変わらずのコミュ力。これに関しては単純に憧れるばかりだ。初対面の人と緊張せずに話せてしまうのは、オイラにはまだできないから。
しかしそのコミュ力が、必ずしも功を奏するとは限らない。
少なくとも、その女の子は、目を見開いて硬直していた。
「…ん?そういえば二人とも、同じぐらいの背なんだね。やっぱり、アドレーヌ以外にも、同じ種族のひと、いるのかなぁ…?」
カービィさんのつぶやきが、しずかなもりに響く 。確かに、そうだ。ポップスターどころか、ここ一帯では珍しい、三頭身の身長。二人の背丈も、おおよそはそれぐらいだった。さすがに当てつけだろう、とは考えたが、どうしても否定しきれない。
「…そういえば、昨日…一族から追放されたひとがいた、って聞きましたが…これってもしかして、もしかしたりします…?」
その言葉にはどこか引っかかるところがあったが、今の状況で考えられそうなのは、女の子とアドレーヌさんが、同じ種族かもしれないということ。そして、二人は顔見知りかもしれないということ。自分の頭ではそれぐらいしか推測できなかったが、今はそれで充分。
真実を知るひとは、すぐ目の前にいるのだから。
「…ん…そう、だね…やっぱ、話さなきゃだめ…?……だめ、だよねぇ…」
見つめられ、にじり寄られては流石に逃げ場がない。観念したように両手を上げる仕草をして、首を振る。
「…正直、わたしも分からないかも。そもそもあの話も、わたしが産まれる前の出来事だし、そんなに詳しく知ってるわけじゃないから。
…でも、可能性がない、ってことはないかな。その子から少しだけ、わたしたちのと似た魔力を感じたからそう思っただけだけど」
謎は相変わらず謎のままで残ったが、とりあえずはアドレーヌさんの持っている魔力が少女やその一族のものと似ている、ということだけは分かった。…自分たちの憶測も、あながちは間違っていなかったのだろうか。
ふとそこで、彼女に名前を訊くのを忘れていたと気がつく。それを口に出してみると、いかにもうっかりしていた、とでも言いそうな表情で名を告げられる。その名前――カエデという名は、確かに紅葉した森にぴったりの名前だった。その返しに、アドレーヌさんも自己紹介をする。さっきまでの話に、心を乱された様子は見られない。この人のメンタルがすごいのか、実は関わりなんてなかった、なんてオチなのかは、まだ誰にも分からない。
「カービィ…さっき、この森に用はないって言ってたよね?なのに…どうしてここに来たの?」
「んー?…なんとなく」
なにそれ、とオイラ含めた四人で笑う。しかしカービィさんの表情はいたって真剣だった。この話のどこに、こんな顔をする理由があるのだろう…
「ここに来たら、二人に会える気がして。…なんとなく、だけどね。
…あのさ、二人とも…いきなりだけど、
ぼくたちの旅に、ついてきてくれる?」
それを言葉にするのにかけた時間は、何秒だったか。はたまた、何分だったか。いずれにせよ――その瞬間、ぼくの意識の中ではだいぶ長い時間が過ぎていた。返事は未だない。風が抜ける。森の木々がさわぐ。自分の鼓動が、 今はひたすらに五月蝿い。
前は自分から言わなかったから。言えなかったから。… 今度は自分から言いたかった。ただ、それだけ。
なのに、こんなにも緊張してしまうのはどうして?
(断られたく、ない)
それは少し、寂しいから。なんて身勝手な思いなんだろう。心の中で息を吐く。卑屈ともとれそうなこの思いを、どうしても悟られたくなくて、思わず表情に嘘をつく。いかにも真剣だと言っているように見せる。二人を欲している、そう強く伝わるように。
(ぼくはなんて、勝手なんだろうか)
それが本人たちの迷惑になるのは重々承知だ。でも、やっぱり――
「もちろん、っスよ。…そんな顔されたら、断れるわけないじゃないっスか。それに、前は――…前のときは、オイラがワガママ通して、連れていってもらったから…あれからバンダナさんに戦い方を教えてもらって、大王様に稽古つけてもらって…オイラも、強くなったんです!…だから…今度は足を引っぱらないから…あなたがそれを望んでくれるなら、オイラもいくっス! 」
「…ワド、ルディ…」
「あたしも行く!…こんなこと言ったら、リボンちゃんとか妖精のみんなに失礼かもだけど…前の旅、すごく楽しかったし。あの時の景色が、世界が、どうしても忘れられなくて……あの時さ。…みんなと一緒だったから、いつもよりもっと、いい景色に見えてたんだよ。…あたしの身くらいはちゃんと自分で守れるから。ちゃんと戦えるようにはなったしね。あたしだって、ずっと護ってもらってばっかりじゃないんだよ?」
「アドレーヌも………本当に?」
二人の言葉が、未だに信じられなかった。これが本心かどうかは、分からないけど――
――でも、疑わしい、申し訳ないのその奥に、ちゃんと“嬉しい”がある。また一緒に旅ができる嬉しさ。裏でたくさん努力していた二人の頼もしさ。それらが全て、不均一に混ざり合って――とにかく、胸の辺りがあたたかく感じられた。
「そうと決まれば、善は急げ、だよ!はやく出発しよう!」
「あ、あの…ポップスターを発つ前に、デデデ城に寄りたいんスけど…この仕事のこととか、あとは個人的な用事があって… 」
「だいじょうぶ!元々ぼくらもデデデ城に行く予定だったし、ちょうどよかったね!」
「はい!…よしっ、行きましょう!四人とも、遅いと置いていきますよ~!」
「わわ、待ってよワドくん!」
「わたしたちも行こっか、リボン!」
「はいっ!よろしくお願いしますね、カエデさん!」
なんでもないようでまぶしい、そんな光景。旅立ちを応援するような秋の風が、森をかけぬけていった。
以下、あとがき
申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!!(初手謝罪)
…あ、どうも。クラス内ではキモさに定評のある(自虐)フジミヤです!
…さて!あいさつも済んだことですし…
申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!!(再放送)
…とにかく、なんで初手謝りなのか気になりますよね?
…ここまで読んでくださった方は察しているかもしれませんが、今回の文字数がどえらいことになっておりまして…
…えー、前回はあとがきを含め3720文字程度だったのにも関わらず、今回の文字数、なんと(あとがき前で)約6300文字!
…はい、書きすぎましたね。この間投稿した短編集が約7000文字、そのおまけが約4000文字だったのに対し、シリーズものの今回で6300はちょっと…てへ☆(おいこら)
キャラが増えるとセリフが増える、セリフが増えると文量が増える、文量が増えると投稿が遅れる…うん、次回はなんとか抑えます…
ちなみにこのあとがきって需要ありますかね?ないって言われても書きたいから書くのですが…(聞いた意味よ)楽しみとか面白いとか言われるとめっちゃ喜びます!
というわけで、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました!