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📖 第六章:「無意識の距離」
放課後。
運動場の空は、まだ少しだけ明るさを残している。
凛はゴール前でボールを蹴っていた。
規則的に弾む音だけが、静かな空気に響く。
——また、あの子来てる。
凛は、ほんの一瞬だけ視線をあの方向に向ける。
フェンスの向こう側で、じっとボールを見ている。
凛:(……また、見てる)
嫌な気配ではない。むしろ、少しだけ、気になる。
ボールを蹴ると——
コツン。
あれ、なんでだ。
無意識にボールが少し、あの子の方へ行ってしまった。
凛:(……っ)
顔を上げる。
あの子は、驚いたように手を伸ばしてボールを拾う。
——なんで、俺、こんなことしてるんだ。
自分でも分からない。
いつもなら、ボールだけに集中しているのに。
凛: (……別に、気になってるつもりなんてない)
そう心の中で言い聞かせながらも、また少しだけボールを蹴ると、どうしてか自然とあの子の方向へ転がる。
あの子は、何も言わずにボールを蹴り返す。
凛:(……っ)
視線が合う。ほんの一瞬。
あの子は、何も言わず、ただボールを返す。
——変だ。
普段なら、こんなことで意識すらしない。なのに、どうして心が少しだけ、揺れるんだ。
凛はボールを拾い、足元で軽く転がす。
凛:(……無視すればいいのに)
そう思う。でも、無視できない自分がいた。
無意識に、あの子の方を見てしまう。
ボールを蹴るたびに、少しだけあの子の方
へ——
凛:(……っ、なんでだ)
顔が熱くなる。
心臓も、少し早くなる。
凛は一度深く息を吸い、目を閉じる。
——いい加減にしろ。俺はサッカーに集中しろ。
でも、目を開けると、またあの子がボールを見つめている。
凛:(……見られてる)
そして気づく。
無意識のうちに、ボールをあの子の方へ転がす行為が、いつの間にか繰り返されていた。
凛:(……馬鹿だ)
頭では「関わりたくない」と思っている。
でも、体は正直だ。
無意識のうちに、あの子との距離を縮めようとしてしまう。
凛はボールを止め、空を見上げる。夕陽が少し赤く染まり始めていた。
凛:(……なんで、こんな気持ちになるんだ)
答えは出ない。
ただ、ボールの弾む音と、あの子の存在が、少しだけ、心を揺らす——
無意識に、少しだけ近づく距離。
凛:(……また、明日も来るのか?)
問いかけるように、目の前のボールを蹴る。
でも答えは、まだ返ってこない。
——今日も、静かに、少しだけ心が動いた。
コメント
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ファー可愛い