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花崎も眉間に皺を寄せながらアリスを睨んだ。
「そうです。43坪の一般家庭の平面図です」
アリスが手を翳すと、平面図のちょうどキッチンのところに赤い丸が現れた。
「これが鬼です」
アリスが口元を綻ばせる。
「さあ、あなたたちはどこに隠れますか?」
「かくれんぼ……?ふざけやがって……!」
祐樹はアリスを見た。
「こんなの鬼であるお前のさじ加減しだいだろ。インチキだ…!」
探りを入れてみる。
しかし彼はふっと首を振った。
「僕は鬼ではありません。鬼はこのブリキの人形です」
「人形って………ッ!」
アリスを振り返った尾山が仰け反り、危うく椅子から落ちそうになった。
そこには、随分年季の入ったピエロのブリキが立っていた。
「等身大の人形か……?趣味悪いな」
尾山が椅子に座り直しながらピエロを睨む。
「彼は、次のモノに反応します。①音 ②気配 ③匂い です。感度は人以上、犬以下だと思ってください」
「―――人以上、犬以下って……。そこには天と地との差があると思―――」
「さあ、早く決めてください」
アリスは裕樹の言葉を遮り、平面図を人差し指で突いた。
「あなた方の隠れ場所が決まったら、ゲーム開始です」
祐樹は改めて平面図を睨んだ。
1階には初めから鬼がいる。
2階と比べて収納も少ないし、ワンフロアで見通しが良く見つかりやすい。
トイレ、洗濯機、風呂などは隠れやすいが、逆に見つかってしまうと、袋小路で逃げられない。
となると、やはり2階だ。
「俺は、ここにする―――」
尾山がアリスから渡された緑色の磁石を平面図に置いた。
彼が選んだのは2階の南側、建物の中央に位置する洋室のクローゼットだった。
なるほど、悪くない。
階段から入り口まで距離があるし、鬼が西側から回ろうが、東から攻めてこようが、一番初めに扉を開けられることはまずない。
しかし―――。
裕樹は自分の磁石を、バルコニーに貼った。
ここならばガラスから覗きながら、バルコニーを移動、鬼がすでに回った部屋に入り、息を潜めることができる。
『決まりましたね。それではゲームスタート!』
アリスが叫んだ瞬間、目の前にあったはずのテーブルは消え、代わりに白い布のようなものが顔を覆い、裕樹は慌ててそれを剥ぎ取った。
この匂い、そしてこの小花とブドウが印刷されているカーテンには見覚えがあった。
―――ここは……?
祐樹は光の差す窓辺を振り返った。
白い樹脂サッシ。その向こうに見える小さな公園。
なぜ間取りで気づかなかったのだろう。
気が付くと裕樹の身体は、小学生になっていた。
否が応でも記憶が引きずり出されてくる。
母と二人で暮らした思い出が、
あの頃の笑い声が――。