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コンラッドが副首領を務める盗賊団は、ある夜、アジトに襲撃を受けた。
信じられないことに、彼らの相手は……少女がひとりだけ。
凄まじいスピードで部下たちは制圧され、2階の窓からぽいぽいと、横を流れる川に捨てられていった。
「俺は悪夢でも見ているのか……? お、お前は誰なんだッ!?」
「アリアっていいまーす」
「だから、誰だよ!?」
アリアは今、私服を着ている。
過去に訪れた街で買っていたもので、神職者であることを隠すには打ってつけだ。
……何しろ、見た目はその辺りにいる少女なのだから。
「ギデオンさんの依頼を受けて、『異能の天球儀』をもらいにきました!」
アリアは謎のポーズを取って、コンラッドを指差した。ノリノリである。
神職者の服を着ていないことが、彼女のテンションを上げていたのだろう。
「この……。ふざけやがって!! これは渡さないぞ!!」
そういうコンラッドの傍らには、ご丁寧に目的の魔導具が置かれている。
「おっと、見つけやすいところにありましたね。それを見ながら、晩酌でもしていたんですか?」
「ふん。価値あるものは、酒のツマミには持ってこいだからな!」
見れば、すぐ横のテーブルには洒落たグラスと酒瓶が置かれている。
今日は月も綺麗だし、確かに晩酌には理想的な日だ。
……アリアのような、乱入者がいないのであれば。
「でも、あなただけじゃ使えないでしょう? 売るつもりですか?」
「ははは! 売るなんてとんでもない! お前にこの価値が分かるのか!?」
「わかりますよ、教団から盗まれた品物ですからね。それだけで、価値はありそうでしょう?」
「ッ!? まさか首領から聞いたのか!?」
「いえいえ、それはあたしの情報網です!
その魔導具は、発掘後に教団で研究されていた……。その途中、移送しているときに強奪事故が起きた……。
そんな不祥事、もちろん教団は隠そうとしますよねぇ」
アリアは『異能の天球儀』のことを、教団から聞いていた。
牢獄にわざわざ入ったのも、これを無事に奪取するためだったのだ。
「それを知っているのは、俺たち盗賊団と、盗まれた関係者くらい……。
つまり、貴様は――」
「その通り! 教団所属のアリアです!」
「う、嘘をつけ! 神職者の子供が、こんなに強いわけはねぇだろッ!!」
アリアはふむ……、と考えてから、どこからともなくお菓子を出した。
そしてそれを、コンラッドにひょいっと渡す。
「……へ?」
「ちょっと待っててくださいね!」
アリアは急いで、部屋の外に出ていった。
コンラッドはあっけにとられながら、力なく椅子に座り、そのままお菓子を口にする。
5分後――
「お待たせしました!」
「着替えてたのかよ!」
アリアの服装は、私服から神職者の服に変わっていた。
残念ながら、違う服に一瞬で着替えるような魔法は使えないのだ。
「まぁまぁ。これであたしが教団所属……というのは分かりましたよね?」
「それなら、最初からそれで来いよ!」
コンラッドが吠えた。ごく当然の話である。
しかしその瞬間――
「それだと、目撃者が増えちゃうじゃない」
アリアの冷たい声が聞こえた。
次の瞬間、コンラッドは足を払われて地面に転がってしまう。
アリアは悠々と、コンラッドの頭を目掛けて、足を踏み下ろす。
「く、くそ……ッ。頭、踏むなァッ!!」
「――さて、改めまして。
大聖堂の依頼を受けて、『異能の天球儀』をもらいにきました」
「おいおい、さっきと依頼主が違うじゃねぇか!!」
「んー。まぁ、似たようなものでしょう?」
「似てねぇよ!!」
コンラッドは納得できないが、引き続き頭を踏まれた状態だ。
近くに部下もいない今、コンラッドにできることは少ない。
「よく考えてくださいねー?
あたしはこのまま、『異能の天球儀』だけを持ち帰ることもできるんです」
「ぱっ、パスワードは……!?」
「ふふっ。パスワードなんて分からなくても困らないんですよ。
極論、あたしは始末書の1枚で済みますし」
「うわああぁ、責任感が無さすぎだろ!? 仕事はちゃんとしようぜ!?
――かと言って、パスワードを教えるくらいならこのまま死んでやる!!」
「じゃぁ、死にますか?」
「……もしかして、買収とかできる?」
「できませーん♪」
一縷の望み……で聞いてみたものの、残念ながら買収することはできなかった。
神職者の中には、喜んで犯罪に手を染める者もいるというのに……。
コンラッドが頭をフル回転させていると、ふと、アリアの足が頭から離れていった。
「――まぁ、落ち着きましょう。
はい、こちらに座って。まずはお茶を飲んでください」
「くそ、余裕ぶりやがって……」
アリアはコンラッドに椅子を勧めた。
コンラッドは他にどうしようもなく、そのまま椅子に座る。
そしてどこからともなく出されたお茶に、恐る恐る口を付ける。
「……美味いな、これ」
「おお、わかりますか! 良い茶葉を使ってるんですよ。
それではこちらのお菓子も、どうぞ!」
「はぁ。疲れた身体に染み渡るぜ……。
……というか、あんたの目的が全然わからん……」
「あたしは、みんなが苦しまない世界になることを祈る、ひとりの人間ですよぉ」
「……嘘だぁ……」
圧倒的な暴力のあとの、圧倒的な平和な時間。
よく分からない流れだが、コンラッドは強引に腰を落ち着けさせられた。
「――それで、あなたは何が目的ですか?
『異能の天球儀』を譲って頂きたいのですが……純粋に、異能が欲しい……とか?」
「……おう」
「それじゃ、実際に使ってみますか? あたしはギデオンさんのパスワードを聞き出しているので」
「はぁ!? そういえば首領の依頼を受けた、とも言っていたな……。
首領は今、牢獄にいるだろう? どうやって聞き出したんだ?」
「そりゃ、教団の権力を使って……ですよ?」
アリアは目を細めながら、右手の人差し指を口元にそっと当てて言った。
そんな悪戯っぽい仕草が、少女の不気味さを掻き立てる。
しかし、少女は少女だ。怪しいところは多分にあるが、それでも御することはできるはず――
いや、どちらにしても、自分はここで正しいパスワードを入力するしかない。コンラッドはそう観念した。
「……分かった、ここで使おう。
まずは首領のパスワードを先に教えてくれ。それで良いな?」
「はい♪
ギデオンさんのパスワードは……『Sins whisper sweetly』ですよ」
「『罪は甘く囁く』……? ふん、首領が好きそうな詩文だな」
コンラッドは『異能の天球儀』のスイッチを入れた。
宙に四角の枠が光って浮かび、コンラッドはその中に文字を書いていく。
――Sins whisper sweetly
――kashira anta sugeeeee
入力が終わると、『異能の天球儀』は赤く輝いた。
そして――
ブーッ!!!!!
……と、喧しい音を出した。
「入力失敗……!? て、てめぇ! 嘘つきやがったな!」
「見た目に騙されちゃ、ダメですよぉ」
アリアは『異能の天球儀』を素早く取り上げて、彼女の帽子――収納の魔導具の中へ入れてしまった。
「ふふふっ。パスワードも見せてもらいましたからね。
あたしはこれで、ミッション・コンプリートです!」
「くそ……。俺は首領に憧れて……ああなりたかった、だけなのに。
盗賊としての能力が、欲しかっただけなのにッ!!」
コンラッドは膝から崩れ落ち、悔しそうに呟いた。
そんな姿を、アリアは上から見下ろす。
『ああなりたかった』……それは確かに、コンラッドのパスワードからも窺える。
でも、そもそもギデオンを脱獄させるでもなく、パスワードの方を狙ったのは――
……やはりコンラッドは、ギデオンに複雑な感情を頂いていたんだな……と、アリアは思った。
「――あたしは、普通の祝福とは違うものを与えられます。
その気持ちが本物なら、受けてみますか?」
「お前の何を信じろっていうんだよ……。
でも、俺にはもう、信じられるものが何も無い……。お前が全部、奪っちまった……」
……その言葉とは裏腹に、コンラッドは救いを求めていた。
それは今までの、アリアが祝福を与え続けてきた経験から分かるものだった。
「あなたが理想とする、首領の姿を思い描いてください。
きっとその能力が、あなたに授けられるでしょう」
「……ッ! お、俺の……。
俺の理想とする首領の姿は――こうだッ!!」
「――ならば祝福を与えよう。
汝は神に身を委ね、欲する力を祈るべし――」
アリアはコンラッドの額に指で触れた。
一瞬、手の指ではなく、足で踏んでも祝福はできるのかな……と思ってしまったが、いつも通りに集中する。
「――神の祝福はここに在り。
望みと共に、その魂から発芽せよ――」
コンラッドの鼓動が速くなる。
そして渦巻く力は、身体全身に……少し重たい感じで、じわじわと広がっていった。
「あなたが手に入れたギフト――才能は、『女たらしの才能』……ですね?
え? もしかして、あなたはギデオンさんのことを――」
「ばっ、ばか!? ちょっと待て!?
俺が首領を、女ったらしに見てたっていうのか!?」
「状況証拠的に……はい」
「嘘だッ! 俺の、俺の理想は――
……あれ? 俺は首領のことは、ずっと盗賊として憧れているんだと思ってたのに……。
俺……、盗賊はもう、やめるわ……」
憧れの存在が、一気に堕ちた瞬間。
愛の逆は無関心。故に、憎しみの逆も、また無関心。
こうしてひとつの盗賊団は、とある神職者に一夜にして壊滅させられたのだった……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――宿屋の部屋。
アリアはたくさんの工具を並べて、『異能の天球儀』に向かっていた。
灯りは手元のみを照らし、部屋の中は暗い。
「……うーん。解析するには、やっぱりパスワードが必要だなぁ」
試しに、ギデオンから聞いていた正しいパスワードと、コンラッドが入力していたパスワードを入れてみる。
――Vices bloom softly
――kashira anta sugeeeee
しかし、やはり魔導具は異常音を出して、動きを止めた。
「やっぱり、パスワードが違うのかな」
ふと、アリアはザインの言葉を思い出した。
ザインがギデオンから聞いた、あの情報――
『大盗賊は、おっぱいを揉むのが好きらしい』
「……むぅ」
真面目な顔で、そんな話を思い出した自分が恨めしい。
確かにあの詩……パスワードは、ヴィクトリアの胸に掘られていたけど……。
……そういえば、とアリアは思い出す。
おっぱいの下りがパスワードの場所を示すなら、もうひとつの――
『パスワードには、そのとき付き合っていたオンナの祝福を掛けた』というのは、何を指すのだろう?
『そのとき付き合っていたオンナ』というのは、ヴィクトリアのことだ。
……ヴィクトリアの祝福?
「……何か、パスワードに絡んでいる?
ヴィクトリア……。ヴィクトリア……。……『Victoria』、とも書くか」
手元の紙に、何となく書き出してみる。
頭の中でまとまらないときは、こうすると良いことを経験的に知っていた。
「『Victoria』……。『Vic-toria』……。『Vic-to-ria』……。
……『Vic to ria』? ……文字列の置換。『Vic』から『ria』への書き換え……?」
アリアはパスワードの最初の3文字を、『Vic』から『ria』に変えて、入力してみた。
『riaes』自体、特に意味はない文字の羅列だが――
――riaes bloom softly
――kashira anta sugeeeee
魔導具はピー、という音を立てた。
そのまま金色に輝き、次の何かを待っているようだ。
「……おぉ、動いた!
情報屋、良い仕事をするねぇ!!」
このまま魔導具に祈りを捧げれば、簡単に異能が手に入るかもしれない。
しかし、教団でも解析中だった代物だ。もしかすると、想定外の動きをするかもしれない。
……具体的には、解析をしてみないと分からない。
異能を扱うアリアだからこそ、異能を扱う他の存在に対しては注意深くなる。
「――さて、今日は徹夜かな」
魔導具をいじる音が、宿屋の一室で聞こえ続けた。
#一次創作
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