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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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京介は、芽生の家が放火だと知った時、彼女が自分のせいで命を狙われたんだと思った。 とりあえずは問題が解決するまでの間――。
そう思って、一旦は芽生を自分の住まいに引き寄せて保護してみたものの、自分さえ芽生の傍にいなければ、芽生は焼け出されることもなかったのに……という後悔がずっと消えなかった。
思えば、千崎にもさんざん言われてきたことだ。
『本気で裏社会側へ彼女を引き込む気がないならば、神田さんから離れるべきです』
と――。
『そうしないと、京介にとって神田さんが特別な存在だと周りに知らしめているも同然な現状です。いずれ神田さんがカシラの弱点だと判断されて、貴方のことを快く思わない連中から彼女がターゲットにされる日が来るのも時間の問題だと思いますがね?』
そんなことは京介にだって分かっていたが、自分を慕ってくれる純粋な瞳が愛しくて、なかなか手放してやることが出来なかった。
その結果、芽生が命を落としそうになってしまったのだ。悔やまなかったわけがない。
千崎からも、『だから私が再三申し上げたでしょう』と呆れ顔をされてしまった。
それで、今更にも思えたが……全てが解決したら、今度こそ。芽生から離れようと決意した京介である。
例年ならば懇意にしている花屋に無理を言って、季節外れの冬――芽生の誕生日に合わせてチューリップの生花を注文していたのだが、今年で最後だと思ったら枯れない花を贈りたい、と思ってしまった。
だってこの先、京介は芽生にチューリップを渡せなくなるのだから。
ある意味、京介から芽生への、最後にして最大の執着とでも呼べるものの具現化が、いま芽生が左手薬指に嵌めている指輪だったのだ。
「おたくなら、好きなデザインで指輪、作れるって聞いたんだが――」
ワオンモール内。フランス語で『綴る宝石』を意味するらしい名を冠した『Écri Bijou』という宝石店に出向いたのは、そんな思いがあったからに他ならない。
「はい、出来ます。――お客様、例えばなのですが……どういったモチーフを入れたいなどといったご希望などはおありでしょうか?」
店員に尋ねられ、京介は何の迷いもなく「チューリップ。ピンクのヤツ一輪をデザインに取り入れた指輪が作りてぇなと思ってるんだが」と言っていた。
いつもなら千崎が付き従っているところだが、丁重に断って一人で出向いたのは、女々しくもそんなものを頼んでいる自分を誰にも見られたくなかったからだ。
もしかしたら、芽生を手放す決意をしたというのを、千崎に悟られたくなかったのかもしれない。
(この期に及んで、万が一にも手放せなかった場合を想定をしてんのかよ、俺……)
千崎に、芽生と離れるために餞別代わりの指輪を作るだなんて知られたら、芽生を手放さないという可能性を完璧に潰されてしまいそうな気がした。
芽生の安全を考えるなら手元に置くべきじゃないのは重々承知しているくせに、それでもやはり今まで通り……いや、今まで以上にがっしりと芽生を囲って自分の庇護下に置けば、問題ないんじゃないかという迷いが生じてしまった。
その時は、『子ヤギは俺にとっちゃー娘みてぇな存在だからな』と、思い込もうとしていた京介だったけれど、今思えばあれはすでに恋着だった気がする。
佐山が芽生と仲良くしていると知って、言いようもない腹立たしさを感じてしまったのだってそうだ。
自分と同じ極道モノに芽生をやるつもりはない、だなんてもっともらしい理由を付けて芽生を責め苛んだけれど、今なら素直にあれは嫉妬だったと認められる。
芽生の出生の秘密を知って、芽生が狙われたことに変わりはないのに、それが自分のせいじゃなかったと知った時の、なんともいえない安堵感。あれを知る人間は、恐らく自分だけだ。
結局、芽生を裏社会に引き込む代わり。彼女のことを自分の嫁として全力で守り抜くと腹を括った今となっては、芽生の誕生日合わせで特注した恥ずかしいくらいの感傷的たっぷりのチューリップの指輪は、己への自戒の念込みで、芽生の指に一生枯れない花を示す指輪として、これ以上ないくらいに相応しく思えたのだ。
***
正直そんなことを誰かに吐露するのは死ぬほど気恥ずかしかった京介だが、芽生の泣きそうな憂い顔を前にしては、話すしかないではないか。
「花も……ちゃんと手配してあるから安心しろ」
言いながら芽生をぎこちなく腕の中へ抱き寄せれば、芽生が「本当?」と涙に潤んだ瞳で京介を見上げてきた。
「今更そんな嘘ついても仕方ねぇだろ」
実際手配していなかったなら、こんな雪が舞い散るような頃合いに、季節外れの春の花なんて渡せるはずがない。
「お前が懸念した通り、俺はお前を手放すつもりでその指輪を作った」
先月の半ば――それをオーダーした時の本心を黙ったままでいることはフェアじゃない気がしてポツンと落とせば、芽生が京介の腕の中でキュッと身体を縮こまらせたのがわかった。
「京……ちゃん……」
泣きそうな顔をする芽生に小さく吐息を落とすと、京介はいつも通り。照れくささに芽生の目を見ることが出来なくて、ふっと視線を外した。
「バーカ。注文した時はどうあれ……今はそんなつもり、塵ほどもねぇから心配すんなや」
とても安心出来そうにないつっけんどんな声音で言い放ったら、当然というべきか――。
「本当……? 信じても……いいの?」
不安が微塵も拭えていないのが分かる声音で芽生から問い掛けられてしまった。そんな芽生を腕に抱き締めたまま。京介は先程車内で石矢からミラー越し、『カシラ、そういうことは目を見て言うもんです』的な非難がましい目で見詰められたのを思い出して密かに苦笑する。
「芽生」
それで観念したように芽生の名をそっと呼べば、芽生が不安に揺れる瞳でじっと京介を見上げてきた。
「俺、お前を娶るって約束しただろ? 今更手放してなんてやれるかよ」
そこまで言って、ついいつもの癖。
気まずさに視線を逸らしそうになって、それをグッとこらえると、京介は言葉を紡いだ。
「芽生。俺はお前を失ったら生きていける気がしねぇ。頼むから……これからもずっと俺の傍にいてくれ」
京介が芽生に贈ったピンク色のチューリップには、先程『Écri Bijou』のショップ店員が告げた【誠実な愛】という花言葉の他に、【愛の芽生え】というものもある。
京介は、芽生用に指輪をオーダーした時、柄にもなく、花言葉なんてものまで調べてしまってそれを知っていた。
芽生に贈るのに、これほど相応しい花はないと思ったし、もっと言えば自分の中に芽生えた気持ちを込めるのにもおあつらえ向き過ぎて笑えるな、と嫌になったのだって覚えている。
「……お前のことになると、どうかしちまうんだよ、俺。……もう、好きとかそういう域、とっくに通り越してんの、分かんだろ? っていうか分かれ」
初めて芽生の目を見つめて……それこそ「愛してる」と一言告げれば済むことを、照れが勝って可愛げのない言葉を並べ立てた京介だ。だが、逆にそれが盛大な愛の告白になってしまっていることに、本人は気付けていない。
そんな京介の腕の中。芽生が、花が綻ぶみたいに嬉しそうに微笑んだのも無理はないだろう。
芽生の大きな瞳から次から次、ポロポロと涙が溢れてはこぼれ落ちるのを見下ろして、
「ホント、お前は泣き虫だな」
苦笑まじりに指先でそれを拭ってやりながら、京介は心の中、(お前を泣かしていいのも笑顔にしていいのも、全部俺だけだ)と思った。
コメント
3件
芽生え、って芽生ちゃんの名前じゃん♥
なんたる独占欲!←好き!
うわあああ第33話…!🌸💕 京ちゃんの「手放す覚悟」から「絶対離さない」への感情の揺れがマジでエモ過ぎて泣いた……😭💦 指輪の花言葉が【愛の芽生え】って知ってるのずるすぎるでしょ〜〜!!本人は自覚ないけど盛大な愛の告白になってるのも可愛いし、最後の「お前を泣かしていいのも笑顔にしていいのも全部俺だけだ」って独占欲全開なところ、最高に滾りました🔥✨ れんさん、尊い時間をありがとうございます…!!!