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said~⚡~
「あの…。」
仕事を終えて、やっとの思いで帰宅してきたというのに、招かれざる客が二人。金品を物色していた。
俺はというと、それを傍らで見守る形で放って置かれてしまっている。かなり固くロープで結ばれているため、簡単に解くことが出来ない。それに手が痛い。
抵抗されると思っているのか、必要以上に巻かれている。
「なぜ、俺の部屋に入ったんですか?もっと金持ちの家たくさんあるやろ?」
「……本当に何も無いんだな。あんたの部屋。」
勝手に忍び込んでおいて、そんな事を言われても困る。俺はもうこの部屋に戻ってこないつもりで今日、帰宅したのだから。
「本当に、金は無いのか?殺されたくなければさっさと吐け!」
そう言って、どこから奪ってきたか分からない拳銃を突き付けてきた。
「……あるわけないやろ。給料日前やし。」
「死にたいのか?少しの金くらいあるだろう。」
「あるかもね。例えば、財布の中とか。」
そう言うと鞄を引ったくり、数千円を手に取った。
「あとはそうだな……。条件付きで良いなら、二人に大金をあげるよ。」
「…条件って、警察にチクる……とか?」
『大金』という言葉に、二人が食いついた。やっぱり。欲にまみれていない人間なんて存在しないんだ。面白いな……。
そんな事を考えていると、早く言え。と念を押されるように銃を持つ手に力が込められたのを感じた。
「今、君が持っているその銃で、俺を一発で殺してくれるなら、君らに全額保険金を払ってやる。……どうや?」
そんな事を言われるとは予想もしていなかったのか、一人は冷や汗を大量にかき、もう一人は膝が笑っていた。
「大金。要らないんか?」
「そこまでして欲しいとは…。」
「ハハッ…殺す覚悟も無い癖に、人の家に物色しに来るなんて腰抜けやな。」
乾いた笑いと共に冷ややかな目線を送る。
「ッ…うるせぇ!」
「手に持ってるそれは、ただの脅しの道具やないって言っとんねん。お前らに選択肢なんか無いやろ。それで俺を殺して逃げるもよし、保険金を貰うもよし。ほら早く。簡単やろ?」
他の選択肢を与えないように、心の中を覗くように問いかけていると、突然玄関の扉が開き、何やら缶が転がってきた。
そう言えば、玄関の鍵をかけるの忘れていたかも。
そんな事をぼんやりと考えていると、いつの間にか部屋全体に煙が充満していた。
あ、これは睡眠ガスや。と思った時にはもう、体に力が入っていなかった。
薄れゆく意識の中で唯一覚えている事は、あの部外者達以外の誰かの声と、縄を解いてくれた優しい手だった。