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「紀美さん、この度は貴重な証拠を入手して下さって誠にありがとうございます!」
ビジネス口調な航大さん。ほんと真面目な方だな。
彼にはクラウド保存した昨日の奥様の浮気現場の映像を渡しておいた。証拠を共有して、作戦会議を練ろうということになったのだ。
「紀美さんの近くのマンションで逢引していたなんて…驚きました。しかも相手は僕の元上司ですから」
上司…。家庭を壊している自覚のない人は地獄へ行ってもらいましょう。
「偶然でもいい証拠が撮れてよかったです」
「紀美さんのお陰で僕は目が覚めました」
航大さんはいつになくキリっとした雰囲気をしていた。浮気現場を目撃して吹っ切れたのかな。
「今日は僕の話を聞いてもらえますか」
「もちろんです。その前にドリンク注文しますね」
私は北斗さんにウーロン茶をお願いした。建真に残業だと言っている手前、お酒を飲むわけにはいかない。その隣で金さんはビールを注文していた。
なんでも売買屋の店番はいいのかな…?
「僕には今、幼稚園に通っている萌絵(もえ)という3歳の娘がいます。基本的に妻が子供の面倒は見ているのですが、時々用事だとか息抜きだとかで、夜、出歩くことがありました」
「3歳の子を置いて夜に出歩くなんて…」
時代も変わったものだ。私の子供時代ではあまり考えられなかった。
「家のことを頑張ってくれているので、自由にしてもらえばいいと思っていたのですが…どうやら違った目的があったみたいですね。信じられませんでしたが、腑に落ちました」
彼は既に怒りもせず達観しているように思えた。
「娘にはかわいそうなことをしました。母親からずっと父親(ぼく)の悪口を吹き込まれていて…。妻と一緒に僕を疎むようになってきて、ついに娘が僕のことをATMだと言い出したのです」
「ATMだなんてほんとにひどいです!! 許せないですね!!」
「共感いただきありがとうございます。紀美さんも五代さんからひどい目に遭わされていると聞いて、他人事には思えなくて…僕たち、境遇が似ていますね」
「ほんとに…!」
ああ~。これはサレ仲間だったのね!!
航大さんと気が合うのは納得した。
「昨日娘を迎えに行きまして、家に戻って話をしました。どうして僕のことをATMと呼ぶのか、と。萌絵は泣きながら謝ってくれました。お父さんから暴力をふるわれ、お母さんを困らせている、と。そんなひどい男は父親と認識せずにATMと呼ぶようにと妻に言われたらしいのです。僕と仲良くすると萌絵を家から追い出すとか、そういった類のことも娘に言っていたようで……」
ガアン
その時、ものすごい音がした。
北都さんが私のために持ってきてくれたおつまみの皿をカウンターにたたきつけたのだ。皿の中に入っていた豆菓子がはずみで金さんの方へ飛んで行き、彼の頭に当たっていた。
お皿…割れちゃいますよ…?(汗)