今まで当たり前にあったはずのものが、その顔から消えてなくなっていた……。
「あっ……起きていたのか、もう」
彼の方も、私が起きていたことが予想外だったのか、部屋の真ん中で驚いたように足を止めると、
それがあったはずの口元を片手で覆い隠した。
「……。……剃っちゃたんですか?」
口をぽかんと開けて見つめる私に、
「ああ…」とだけ、彼が短く頷く。
「あっ、あのもしかして、私がチクチクしただなんて言ったからでしょうか? そ、そんなつもりじゃなくて……」
とっさに身体を折り曲げて、「ごめんなさいっ!」と、謝ると、
「ああ、いや謝ったりしなくてもいい。君に言われたのもあるが、それだけではないからな」
彼がそう言って、私の頭にぽんと手の平を乗せた。
「だけど……、」それも彼の優しさで、最初から他の理由なんてないんじゃないのかなとも思う。
「そんな風にしょげないでいい。本当は眠っている君をびっくりさせるつもりだったんだが、ほら顔を上げて、ちゃんと見てくれないか?」
両肩が捕まれて、顔が向き合わされると、
「……かっこいいです」
本音がぽろっと口をついてこぼれた。
コメント
1件
言われたことだけが、お髭を剃った原因じゃないとしても優しいな〜❤️