テラーノベル
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夜通しの「仕込み」を終えた翌朝。絶望の樹海の入り口前は、張り詰めた緊張感と殺気に満ちあふれていた。
参加する候補生たちは皆、身の丈ほどの重厚な甲冑を纏ったり、巨大な杖を構えたりと、気合十分に魔力を練り上げている。
「あのハーフの姿が見えないが……怯えて逃げ出したか?」
「ハッ、当然だろ! 樹海の中じゃ教官をハメたような不意打ちは――」
群衆の中でセリスもまた、腕を組んで不機嫌そうに入口の門を見つめていた。
(……あいつ、本当に逃げたの? 私の前にすら立たずに?)
胸の奥に引っかかる不快感。だが、教官が「サバイバル戦、開始三分前!」と大声を張り上げたその時――。
「ふわぁぁあ……ぁ……」
静まり返る開会直前の会場に、不釣り合いすぎる盛大な欠伸(あくび)が響き渡った。
「すまん、すれすれだったか」
目の下にうっすらとクマをつくり、外套のフードを深く被ったクロードが、だるそうに肩をすくめながら歩いてくる。手には温かいスープの紙コップ。あまりにも緊迫感のないその姿に、周囲の候補生たちから一斉に怒号が飛んだ。
「な、なんだアイツは!?」
「試合直前に欠伸だと!? 命懸けの予選をナメているのか!」
「クロード……ッ!」
セリスが額に青筋を立てて歩み寄ってくる。周囲にはピキピキと凍てつく冷気が漏れ出していた。
「アンタ、正気なの!? これから全校生徒が見守る生き残り戦が始まるというのに、その体たらくはなちなちなのよ! 徹夜で怯えて夜眠れなかったとでも言うつもり!?」
「いや、準備に忙しくてな。完徹だ」
スープをひとくち飲み、クロードは短く答えた。
彼が昨夜一晩かけて行っていたこと――それは、配給された広大な樹海のマップを完璧に頭に叩き込み、危険地帯の選定、そして闇商人ハンスから届いた「大量の特殊ワイヤー」と「C4爆薬」「指向性対人地雷」の設置ポイントの割り出しだ。
睡眠時間をまるまる削り、誰にも知られず樹海の主要ルートへ「極小の時間遅延魔法を掛けたトラップ」を張り巡らせていたのである。
「準備……? 魔法の鍛錬もせず、一体何をしていたというの……」
呆れ果てるセリスの横から、雷鳴のエレナと爆発のシャーロットが興味津々に顔を覗かせる。
「ねえクロード、本当に大丈夫? クマすごいよ?」
「あたしが気合いの爆破で目を覚ましてあげようかー?」
さらに影からひょっこり現れた風のシエルが、クロードの袖を引っ張ってボソリと呟いた。
「……クロードの匂い、硝煙と……鋼鉄の匂いがすごくする。楽しみ」
「――そこまでだ! 全員、スタートラインにつけ!」
教官のダミ声が樹海に轟く。重厚な大門が音を立てて開き、広大な密林の闇が候補生たちを呑み込もうと広がった。
「カウントダウン……三、二、一――始めッ!!」
合図と同時に、雄叫びを上げたエリート魔族たちが一斉に樹海へと雪崩れ込んでいく。大地を揺るがす炎や雷の魔法が先行して打ち上げられ、派手な戦闘の口火が切られた。
しかし、クロードだけは走り出そうともせず、紙コップをゴミ箱に捨てると、だるそうに首を鳴らした。
「さて……罠にかかった獲物を回収しに行くか」
「は……? 罠……?」
セリスが不審そうに眉をひそめた、次の瞬間。
――ドドドドドォンッ!!!
樹海の奥深く、候補生たちが殺到した主要ルートから、大空を揺るがす凄まじい連鎖爆発音が響き渡った。
高火力の爆風と、目視不能な鋼鉄ワイヤーに脚をすくわれたエリートたちの悲鳴が、遥か遠くから風に乗って聞こえてくる。
「な、何が起きたの!? まだ開始して数秒よ!?」
目を見張るセリスやサブヒロインたちを余所に、クロードは静かに外套の中から拳銃を引き抜き、安全装置(セーフティ)を解除した。
「言っただろ、足元には気をつけろって。……じゃあ、一仕事してくる」
眠たげだった瞳に冷徹な暗殺者の光を宿し、クロードは悲鳴の上がる樹海の闇へと、静かに消えていった。
#能力
#初投稿
コメント
1件
ああ、もうこの話、めっちゃ好きだわ……! クロード、夜通しで樹海に罠張りまくってたんか(笑)。開始数秒で連鎖爆発起こすとか完全に戦術家やん。眠そうにスープ飲んで登場したと思ったら、一気に冷徹な目になるギャップがかっこよすぎる。「足元には気をつけろって言っただろ」の流れ、痺れたわ。セリスのツッコミもいい味出してるし、続きが気になりすぎる!