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欲 。
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#禪院甚爾
欲 。
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五条悟の放った規格外の術式「虚式・ 茈」が、甚爾の身体の左半分を無慈悲に吹き飛ばした。大量の鮮血が飛び散り、圧倒的な肉体を誇った「術師殺し」の命が、今まさに尽きようとしていた。遠のいていく意識、急速に冷たくなっていく世界の中で、甚爾の脳裏に最後に去来したのは、かつて自分が捨て去った過去の記憶だった。
(言い残すことはあるか、と問われりゃ……)
真っ先に思い浮かんだのは、息子の恵の姿だった。あいつを禪院家という泥沼に渡してなるものか、という五条悟への遺言。そして、その次にもう一つだけ、甚爾の胸にどうしても消えない「棘」のように残っている顔があった。あの日、冷たい雨の中で、着物の袖を千切れんばかりに握りしめて泣いていた十六歳の直哉の姿。
「『裏でどれだけ吐き気がしてたか、教えてやろうか?』……なんてな」
甚爾は溢れ出る血を吐き出しながら、自嘲気味に、誰にも聞こえない声で呟いた。あの言葉は、直哉を自分の泥沼に巻き込まないための、最低最悪の「嘘」だった。呪力を持たない自分を盲信し、世界の頂点すら捨ててついて行こうとした愚かなガキ。もしあの時、優しい言葉を一つでもかけて連れて行っていれば、直哉は今頃、自分と一緒にこの掃き溜めで惨めにの垂れ死んでいただろう。
(お前を冷酷なエリートに育てるために、俺は悪者になってやったんだ。……恨めよ、直哉)
甚爾はゆっくりと瞳を閉じた。自分を憎むことで、あいつは傷を鎧に変え、禪院家で生き残るための牙を手に入れた。自分のついた嘘が、直哉という男の「強さ」を完成させたのだ。それでいい。愛された記憶などより、憎悪の記憶の方が、あの地獄のような家を生き抜くためにはよっぽど役に立つ。
――その頃、禪院家の屋敷にいた直哉は、突如として胸を襲った激しい痛みに、思わず胸元を強く押さえていた。
「な、なんやこれ……。息が、苦しい……」嫌な汗が全身から吹き出る。まるで、自分の魂の半分がどこかで消え失せてしまったかのような、決定的な喪失感。数日後、直哉の元に「甚爾の死」の報せが届くことになる。直哉はそれを聞いた時、涙すら流さなかった。ただ、あの雨の日からずっと張り付け続けてきた冷酷な仮面が、二度と剥がれないほどに皮膚にこびりつくのを感じていた。
「死んだんか、甚爾くん。……最期まで、俺に謝りもしないで、勝手に逝きよって」直哉は冷たく笑った。甚爾の嘘は、完璧だった。直哉は死ぬまで、自分が甚爾に「嫌悪されていた」と信じ続けるだろう。けれど、その届かない憎しみと愛の裏返しだけが、甚爾が直哉の人生に遺していった、誰にも消せない唯一の「爪痕」だった。呪いのような嘘を胸に抱きしめたまま、直哉は男のいない冷たい現世を、一人で傲慢に歩み続けるのだった。
コメント
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第3話、読み終えたよ……。 甚爾の最期の嘘、めっちゃ胸にきた。「恨めよ、直哉」って、全部愛の裏返しなのに、直哉には一生伝わらないままなのが切なすぎる……。直哉が胸を押さえるシーンで、もう苦しくなった。欲。さんの描く重い感情、本当に丁寧で好き。続きも静かに待ってるね🥀