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夢腐腐な碧音
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tako
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「り……凛くん!? な、なんでここにいるの?」
まだ覚醒しきっていない頭をフル回転させて、なんとか事態を把握しようとする。
覚醒しろ、私の思考。
正直、これは想定外だ。
気持ちよさそうに寝息を立てる綺麗な寝顔を、開きすぎて乾燥し始めた目でしばらく見つめる。
いや。
見ている場合じゃない。
私は意を決して、
想定外の主をそっと指先でつついた。
「凛くん……? あの、起きて?」
「……ん……」
まだ起きたくないと言わんばかりに、
眉間の皺がさらに深くなる。
「凛くん、起きて!」
今度は肩を掴んで、ゆさゆさと揺らした。
「……うるせぇ」
「え?」
覆いかぶさっていた身体から、
さらに力が抜ける。
重い。
というか――。
「い、痛い痛い! 締まってる、凛くん!」
ぎゅう、と私を抱えていた腕に力がこもった。
「ぐっ……ギブ! ギブだから!」
腕をばしばし叩いて、
私は抱き枕じゃないと必死に抗議する。
手強い。
寝起きが悪いタイプだ、これは。
人のことまったく言えないけど。
「ほんとに、くるし……っ」
そろそろ限界、
というところで、ようやく腕の力が緩んだ。
「……あれ?」
起きた?
「凛くん? 起きた?」
「寝てる」
「いや起きてるじゃん!」
「……黙ってろ」
そう言いながら、離れる気配はない。
むしろ、またぎゅっと抱き寄せられた。
「…………?」
え。
なんで?
起きてるよね?
処理能力の限界を迎えた私は、そのまま固まった。
「……熱」
「え?」
すっと伸びてきた手が、私の額に触れる。
「昨日よりマシだな」
まだ眠たそうな声。
顔を上げると、
思った以上の至近距離でぱちりと目が合った。
「…………」
「…………」
近い。
その事実を認識した途端、一気に頭が覚醒する。
一方の凛は、確認は終わったと言わんばかりに、
また目を閉じようとしていた。
――待って。
これ、また寝るやつ!
「凛くん! 二度寝ダメ、絶対!」
「……うるせぇ」
こうして私は、大怪獣の二度寝を阻止し、なんとか布団から引き剥がすことに成功した。
⸻
不機嫌そうな凛くんを半ば引きずるようにして、リビングへ連行する。
「凛くん。聞きたいことは山ほどあるんだけど、まずこれだけ聞かせて」
「……」
「なんでうちにいるの? あと、どうやって入ったの?」
「……」
「凛くん?」
しばらく黙ったあと。
「お前が悪い」
「……はい?」
おもむろにスマホを操作すると、その画面を私の目の前へ突き出した。
「……え」
画面を見る。
「えええっ!? なにこの着信履歴!!」
同じ名前。
同じ名前。
同じ名前。
ずらりと並んだ、おびただしい着信履歴。
怖っ。
ストーカーも裸足で逃げ出すわ。
「出ねぇお前が悪い」
「いや怖いよ、この着信量! びっくりして目玉出るかと思った!」
「馬鹿か。出るわけねぇだろ」
ゴミを見るような目を向けられた。
いや、そういう話じゃない。
「そもそも! 電話に出なかったとしても、どうやって家に入ったの?」
「何言ってんだ」
凛は面倒くさそうにポケットへ手を入れる。
「鍵使ったに決まってんだろ」
「…………鍵?」
取り出されたものを見て、固まる。
見覚えのあるキーホルダー。
見覚えのある形。
「…………それ」
嫌な予感がする。
「お前が持ってけって言っただろ」
「私が!?」
私は糸師凛に合鍵なんて渡していない。
絶対に。
……いや。
待って。
まさか。
「あーーーーーーーっ!!」
収納クローゼットへ猛ダッシュする。
一番上の棚から、黒歴史の詰まった箱を引っ張り出した。
中身をひっくり返す。
ない。
「ない!!」
やっぱりない!
「ちょ、待って! そう来ると思わなくない!?」
たしかに言った。
『その箱の中に欲しいものあったら持って帰っていいよ』
言った。
確かに言ったけど!
凛くん!
それは!
それは普通、グッズの話でしょうが!!
「予想外すぎるんだけど!!」
私が一人で慌てふためいている横で、凛は何事もなかったかのようにポットを傾けている。
コポコポ、と音がして、美味しそうなお出汁の香りが立ちのぼった。
いや、マイペースか!
「凛くん!」
「何だよ」
「返して」
じろりと見られる。
「……」
無言でカップを差し出された。
「え? あ、ありがとう」
反射で受け取ってしまった。
いや違う。
そうじゃない。
心なしか目を合わせようとしないあたり、よくないことをしている自覚はあるらしい。
「凛くん?」
諭すように名前を呼ぶ。
「……持ってっていいって言った」
「まあ……言ったけど」
「欲しいものは何でも持ってっていいって言った」
「言った。言ったけど!」
そこまで言い切ってから、改めて凛を見る。
「まさかスペアキーを持って帰ると思わないじゃん!」
「……」
「そういうのって、普通は……家族とか、恋人とかが持つものでしょ?」
凛の視線がこちらに向く。
「……ダメなのか」
「うっ」
やめて。
そんな顔で見るな。
私が悪いことをしているみたいじゃないか。
ダメ。
ダメなんだけど。
連絡がつかないからって、わざわざ様子を見に来て。
昨日は看病までしてくれて。
正直、助かったわけで。
「…………」
ダメだ。
断れない。
この選択をいつか後悔する気が、ものすごくする。
「……わかったよ」
凛の目がわずかに動いた。
「持ってていい。でも!」
私は人差し指を立てる。
「私の許可なく勝手に使っちゃダメだからね!」
凛は少しだけ考えてから、こくりと頷いた。
「……わかった」
そして大事そうに、鍵をポケットへしまう。
……本当に大丈夫か?
ものすごく不安なんだけど。
まあ。
ひとまず様子を見るしかない。
そこでようやく、私は大事なことを思い出した。
「あ」
「何だよ」
「そういえば私、まだちゃんと言ってなかった」
「……?」
「看病してくれて、ありがとう」
凛が黙る。
「本当に助かった。言うの遅くなってごめんね」
「……ん」
ほんの少しだけ。
凛の口元が緩んだ。
やっば、尊い、ずるい。
ドクン、と心臓が跳ねた。
胸の奥をぎゅっと掴まれたみたいに痛い。
……なにこれ。
「な、なんかお礼しなきゃね!」
誤魔化すように声を上げる。
「私にできることなら、なんでも言って」
言ってから。
しまった、と思った。
凛がこちらを見る。
「……なんでも?」
「生命とモラルに関わるものは禁止!」
「…………」
凛はしばらく私を見ていた。
何かを考えている。
嫌な予感がする。
「……じゃあ」
「な、なに?」
「治ったら付き合え」
「…………はい?」
付き合う。
その単語だけが妙に大きく聞こえて、一瞬、息をするのを忘れた。
「ど、どどど、どういう意味の付き合う!?」
「何焦ってんだ」
「焦ってなんかないよ!」
凛は呆れたように眉を寄せる。
「海」
「……海?」
「ああ」
「海に、付き合う?」
「そう言ってんだろ」
拍子抜けしたような。
少しだけ残念なような。
自分でもよく分からない感情が胸の中に落ちる。
「……海、見たいの?」
「別に」
「別にって何!?」
「行きてぇ場所があるだけだ」
凛はそう言って、一瞬だけ視線を逸らした。
「……鎌倉」
「鎌倉?」
「ああ」
海。
鎌倉。
凛くんと二人。
頭の中でその三つを並べてみる。
「……それって」
デート、では?
思い浮かんだ答えは、速攻で打ち消した。
ダメだそれはない。
それは、、、だめなんだ。大人として。
「わかった」
「……」
「行こう、鎌倉」
そう答えると。
凛はほんの少しだけ目を細めた。
「……忘れんなよ」
「忘れないよ」
「ならいい」
それだけ言って、凛は立ち上がった。
「てか、お前いつまで喋ってんだ。とっとと寝ろ。俺は帰る」
「あ、もう大丈夫だよ! だいぶ元気になったし。玄関まで――」
「はぁ? 強制送還されてぇのか。寝ろ」
「……はい」
「とっとと行け」
しぶしぶ寝室へ戻る私を、ご丁寧に最後まで見届けてから。
大怪獣様は玄関へ向かった。
しばらくして。
パタン、と扉の閉まる音がする。
急に静かになった部屋で、私は布団の中へ潜り込んだ。
ついさっきまでうるさいくらいだったのに。
いなくなった途端、なんだか少しだけ物足りない。
「……体調悪いからだよね」
誰に言うでもなく呟いて、布団を鼻先まで引き上げる。
鎌倉。
海。
それから、凛くん。
胸の奥が、また少しだけ熱くなった。
さっき跳ねた鼓動も。
いなくなって寂しいと思ったことも。
きっと全部。
タチの悪い感染症のせいだ。
あとがき
コメント、本当にありがとうございます!
私の書いたものにコメントがついてるだと!
びっくりしすぎて嬉しすぎて、何て返そうって考えすぎてしまって、ちゃんとお返事する勇気が出ず……!笑
でも、ひとつひとつ噛み締めながら読んでます。
本当にめちゃくちゃ嬉しいです。
ニヤニヤしてます!
そのぶん、お礼の代わりに続きを頑張って書きます!
(AIでもリアルの方でも嬉しいものは嬉しいです笑笑)
コメント
1件
わあ、第27話……もうデートの約束まで進んだんですね! 凛くんの不器用な優しさがもう本当にツボです。「寝てる」とか言いながら絶対起きてるし、合鍵持ってきちゃうところとかずるすぎる😭 最後の「鎌倉」はもうデート確定じゃないですか! でもお互いに認めたくない感じがまたもどかしくて可愛い……「感染症のせい」って自分に言い聞かせてるところ、胸がぎゅっとなりました。 次のお話も楽しみに待ってます!