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昼下がりの病室。
検査も終わって、点滴をつけたまま
ぼんやり外を眺めていた俺は、
不穏な気配に気づいた。
——ガラッ。
「大森くん、ちょっといい?」
入ってきたのは、
病棟でも目立つ看護師さん三人組。
いつも若井先生の回診にキャーキャー言ってる
「ファンクラブ」
の中心メンバーだ。
にこにこと笑ってるけど、目が笑ってない。
「…なんですか?」
「ねえ、大森くん。先生と仲いいよね?」
「この前なんか、
額に手を当ててもらってたでしょ〜?」
「他の患者さんにはそんなことしないのに……特別ってこと?」
にじり寄ってくる視線に、俺は布団の端を握りしめる。
確かに、あれは特別に見えるかもしれないけど……。
「……べ、別に。俺はただの患者で」
「ふふ、謙遜しちゃって。
ねえ、先生に何かした? どうやって気を引いたの?」
一人の看護師さんがぐっと
身を乗り出して、俺の顔を覗き込む。
胸の奥がぎゅっと縮んで、声が出ない。
そこに——
「——おい、何してんだ」
低い声と一緒に、白衣が翻って入ってきた。
若井だ。
看護師さんたちの顔が一斉に引きつる。
「わ、若井先生! いえ、その、大森くんの様子を……」
「様子見るなら俺がやる。
お前らはナースステーション戻れ」
「で、でも……」
「—俺のに、余計なことすんな」
短く、けれど強い声。
ファンクラブの三人は何も言えなくなって、
小さく会釈して出ていった。
病室が静かになった途端、俺は一気に息を吐いた。
「……っ、こわかった……」
情けない声が漏れると、
若井がため息をついて
俺のベッドに腰掛けた。
「元貴、あいつらの言葉なんか真に受けんな。
俺が気にしてんのはお前だけだから」
不意に頭を撫でられて、視界がぼやける。
怖かったのと、安心したのとで、
涙がにじんで止められなかった。
「……先生」
「泣くな。ほら、泣いてる顔、
かわいいの俺しか見ちゃダメ」
そんなことを平然と耳元で言うから、
余計に涙が溢れて困る。
隣のベッドの涼ちゃんが、
仕切りの向こうで小さく笑っていた。
「大森くん、先生に守られてるんだね。ちょっと妬けるな」
……俺は、何も言えずにただ毛布に顔を埋めた。