テラーノベル
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来たる約束の土曜日。洗面所の鏡の前で何度も自分の姿を確認する。
鏡に映るのは顔色の悪い自分。
不安な気持ちを払うように、頭をふるふると振る。
「…」
寝癖は直した。服だっていつもよりいいやつ着てる。
自分の頬をバチンっと叩いて気合を入れる。
大丈夫、俺なら言える…
言い聞かせるように心の中で何度も唱えた。
時計を見ると、約束の時間の30分前になっていた。
ゆっくり深呼吸をして、ドアを開ける。
ずっと拗らせてきた片思い。
今日で終わりにしよう。
そう決意して、1歩踏み出した。
休日の駅はたくさんの人で賑わっていた。
「…」
そういえば、昼に呼び出されるのは久しぶりだな。呼び出しは夜や深夜が主だったし。
そんなことを考えながら、待ち合わせ場所の駅前の噴水広場でBroooockを待つ。
Broooockは少し遅れてくるらしい。
トーク履歴を見ながら、小さくため息をつく。
Broooockは、時間を守らないことが多い。
本命の子にだったら絶対遅れないんだろうな、なんてマイナスなことを考えてしまう頭を振り払う。
余計なことは考えるな。
大丈夫、はっきり伝えて帰ればいいだけ…
数分で終わる。
話してすぐ帰ろう。
そう決めて、スマホをしまったとき。
「やっほ。」
「うわっ…!」
背後から肩をポン、と叩かれた。
びっくりして振り返れば、ニコニコと笑みを浮かべながら立っているBroooockがいた。
「待ったよね、ごめんね?」
「いや…」
…今だ。
伝えるなら、今しかない。
バクバクと跳ねる心臓を抑えて、言葉を紡ぐ。
「あ、あのさ、ぶるーく…」
「じゃーん!」
「!」
俺の声に被せるように言葉を出したBroooockが俺の前に差し出したのは、紙袋だった。
「え…?」
首を傾げる俺とは対照にBroooockは変わらずニコニコと笑み浮かべる。
どうやら最近話題になっているドリンク屋のやつらしい。
「どうしたのこれ…」
「きんさんこの間飲みたいって言ってたじゃん?だから買ってきちゃった!」
「えっ…」
「はい、きんさんのこっちね。」
固まる俺の手に握らされたのは、紙袋から取り出されたカップ。
生クリームの上にチョコレートソースがかけられているフラペチーノ。
それは確かに俺がBroooockに飲みたいと話していたものだった。
「いいの…?」
「うん、僕も飲みたいって思ってたし~!」
俺が遠慮がちに受け取ると、Broooockはフワッと甘く笑った。
…確かに、飲みたいとは言ったがその話をしたのは結構前のはず。
まさか、その話をBroooockが覚えてるなんて…
「お金返すよ…!」
「いーよ、今日ぐらい奢らせて?」
俺の言葉をBroooockは柔らかく断る。
どうしたんだろう…いつもはこんなこと…
「それよりさ、」
Broooockの手が俺の手に触れる。
そのまま触れた手が俺の手に絡まった。
手から伝わった体温に呼吸が止まる。
「え…」
「デートしよ?」
そう言ったBroooockに手を引かれる。
ダメだ、はっきり言わなきゃ。
この関係を終わらせようって、言わなきゃダメなのに…
「あ、映画行かない?観たいやつとかある?」
…こんなの、断れない。
沼に落ちていく感覚を肌に感じる。
その感覚には気づかないフリをして、俺はBroooockの言葉に頷いた。
駅から歩いてすぐの映画館。
土曜日だからか、子供連れの家族や学生などでよく賑わっていた。
「何観たい?」
「俺、前から観たいやつあったんだよね。」
「え、いいじゃん。それ見よ。」
映画館について、さっそくふたりでチケットを買う。
「これ。この映画。」
「えー、はじめて見る~!恋愛系のやつ?」
「うん、面白いやつらしいよ。」
「やった!僕そういうの好きなんだよね~!」
一緒にチケットを買って、ポップコーンを買って、手を繋いで…
珍しくBroooockが映画代もご飯代も全部奢ってくれた。
傍からみたらカップル見たいに映るこの状況が嬉しくて、なんども頬が緩む。
「ふふ、きんさん今日ご機嫌だね?」
「…そう?」
「うん、かわいい。」
Broooockの手が俺の頬を撫でた。
固まる俺を見て、Broooockは優しく笑う。
まるで彼女に向けるような優しい笑顔に心臓がドキッと跳ねた。
顔に熱があつまって、それを隠すように少し俯く。
Broooockと過ごす何気ない日常全部が俺には凄く幸せに感じた。
…ずっと、この時間が続けばいいのにな。
「ねぇ!めっちゃホラーだったんだけど!?全然恋愛系じゃないじゃん!!」
映画館を出るなりそう叫ぶBroooock。
予想通りの反応を見て思わず笑う。
「はは、でも面白かったでしょ?」
「まぁそうだけどぉ…結構グロかったし…」
騙されたのが不服なのか、不貞腐れたような顔してブツブツと文句を言うBroooock。
その様子が面白くて頬が緩む。
「もー次は恋愛系にしてよね。」
「…気が向いたらね?」
頬を少し膨らませながら言ったBroooockに、笑ってそう返す。
楽しい。
『次』があるのが嬉しい。
幸福感に包まれて、心がふわふわと浮いているような感覚がする。
視線を下げれば、目に入るのは変わらず繋がれている手。
Broooockの高い体温が手から伝わった。
「お腹空いたし何か食べる?」
「あー、確かに。」
Broooockが立ち止まってスマホで近くのカフェを検索する。
「きんさんは何食べたい?」
「俺は…」
俺も画面を覗き込んでいると、Broooockがそう言った。
画面に映るのは色んな美味しそうな料理。
ボーッと見ているとある1つの料理が目に止まった。
「「パンケーキ…!」」
同じ単語がBroooockの口からも出てきて思わず顔を見合わせる。
それが面白くて2人して吹き出した。
「あは、考えてること同じだね~」
「だね。」
Broooockの言葉に笑って頷く。
「ここから近いし、食べ行こっか。」
Broooockが優しく俺の手を引いた。
街灯に照らされてふわふわと笑うBroooock。
その笑顔を見ると、やっぱり好きだなって心の底から思ってしまった。
カフェでパンケーキを食べたあと。
Broooockが行きたい場所があるらしく、そこに2人で行くことになった。
言われるがまま、Broooockの後をついていく。
さっきまで昼間だったのに、日はすっかり落ちていた。
薄暗い夜道をふたりで歩いていると、冬の冷たい風が首をくすぐる。
「パンケーキ美味しかったね。」
「ね、カフェラテも美味かった。」
「それな?美味しかったし、また食べ行こ?」
「うん。」
そんな話をしながらBroooockと歩く。次第に寒さなんてどうでもよくなってきた。
「あ、ついたよ!」
しばらく歩いていると、街から少し離れたところにある高台についた。
住宅街に囲まれたところにある小さな広場。
近くをみれば『展望台』とかかれた看板があった。
どうやら、ここは展望台らしい。
着くなり、Broooockが柵の方まで走って行く。
(なんで展望台…?)
「きんさんちょっとこっち来てよ!」
俺が首を傾げていると、前にいたBroooockが手招きをした。
誘われるがまま、展望台の柵の方まで向かう。
「うわ…」
柵の先に見えた景色を見て思わずため息がもれた。
目に入ったのは煌びやかに光る夜の街。
夜景をじっくり見るのは初めてで、その景色に釘付けになる。
魅入っているとそんな俺を見たBroooockが小さく笑った。
「綺麗でしょ?きんときにも見せたかったんだ~」
「…うん。めっちゃ綺麗。」
「でしょ~!」
ふたり並んで夜景を見る。
展望台にいるのは俺とBroooockだけ。
風の音以外は何もしない静かな空間が俺を落ち着かせた。
綺麗な夜景を見下ろしていると、今日の楽しい思い出が蘇ってくる。
「…今日はありがと。色々奢ってくれて…」
「まぁきんさんにはいつもお世話になってますし?」
Broooockの言葉にフッと笑みが溢れる。
ダメだと分かっているのに、どんどん大きくなるBroooockへの感情。
終わらせるって決めたのに、もう好きにならないって決めたのに。
「いつもありがと。」
そう言って優しく笑ってくれるこの男ことが…Broooockのことが好きになってしまう。
まるで麻薬みたいな優しさを前にしたら、決意なんて一瞬にしてなくなってしまった。
彼女に向けるような優しい目。甘い笑顔。
Broooockが彼氏になったような体験をしたあとに、あの話をする勇気は俺にはなかった。
…結局今日は何もできていない。
残ったのは、体全体にのしかかる重い罪悪感。
そして、それを上回るBroooockへの想いだけだった。
コメント
2件
あーあーあー、、きんさんが堕ちて行ってるの見てるの辛いなぁっ、、辞めたいのにやめられないから、、、きっと辞められることをいのる!!!