ズッ…………ゴォン!!!
バアルから、再び容赦のない拳が襲い掛かる。
-絶対防御-の防御により、攻撃はブラックホールに吸い込まれ、俺は避けることで精一杯だった。
「さっきまでの威勢はどうした!! まだまだこんなものじゃないだろう!!」
ゴォン!! ゴォン!! ゴォン!!
何回と繰り出される拳、少しでも触れたら、人体ごと持っていかれる…………!!
このジジイ…………構えを取ってから、反撃する隙なんて一切与えてはくれねぇ…………!!
「優様、ここは逃げてください…………。私の力があれば、攻撃は当たらない。でも、勝てもしない。あなたがいても、正直戦力外です…………!」
「でも…………それじゃあ光太郎が…………!」
「ここで死んでしまったら、元も子もないでしょう!!」
――
「やっぱり凄いな、邪神様は……。でも、そんな相手にもう五分も粘ってる-絶対防御-……流石だね。俺も戦いたかったなぁ。あの男は生きてるのかな?」
「う、うわっ……! どこだここ……!!」
「おや、目覚めたかい? 君は今、俺に誘拐されているところなんだ。面倒だから、騒いだら殺しちゃうよ」
一瞬、恐れで声を発しそうになったが、湘烟のただならぬ殺気を感じ、光太郎は声を制した。
「なんで僕なんかを……? 天皇なんて、世界が統一なされた今、ただの肩書きに過ぎない……。日本として形作る為、なんの権力も権威も持たない、廃れた肩書きだ……」
「そんな肩書きでも、利用する価値のあるものなんじゃないのかな。ま、俺には分からないけどさ」
「僕がこのまま、黙ってアンタに誘拐されたら、どうなるんだ……?」
「そりゃあもちろん…………戦争が起こるさ。この地球だけじゃない、宇宙中の戦争のトリガーになってもらう」
その言葉を聞いた瞬間、光太郎はバタバタと暴れ始めた。
「そんなことになるなら!! 今ここで殺せ!! 僕のせいで人が死ぬなんて……絶対に嫌だ……!!」
それを見た湘烟は、嬉しそうに笑った。
そして、進む方向を真逆に変える。
「君、いいね……!! 殺されると分かって、ビビらずにそんな行動ができるなんて……!! 俺は強い奴が好きなんだ! 君は強くなれる素質がある……! こんなところでむざむざと、老人の道具になる器じゃない……!」
そうハキハキと喋ると、直様、誘拐現場である、海辺の別荘へと帰還した。
未だ、森からは轟音が鳴り続ける。
「光太郎様……!!」
出迎えに走ったのは、SPの佑希だった。
その後、ゾロゾロと佐久間、学、ルリアールがその場へと駆ける。
「この様子を見る限り……千羅は敗けたのか」
「あなたのお仲間は、拘束魔法で捕らえています。どうして誘拐犯であるあなたが……光太郎様を連れ戻しにやって来たんですか……!」
「だ〜から言わんこっちゃない」
すると、拘束魔法で縛られていたはずの千羅は、何事もなかったかのように二階から飛び降りて来た。
「船長……アンタの企みに乗ってやったんだ。今回は大人しく帰ってもらえるな?」
「何を言ってるんだ、千羅。こんな雑魚共に捕らえられていた癖に、俺に何か言える義理かな?」
「ちげぇ〜よ。わざと捕まってたんだ。邪神バアル様と大喧嘩なんざ、アンタ以外したい奴なんていないからな」
飄々としている千羅に、ルリアールはいつにもなく目を見開いて驚いた様子を浮かべる。
「ど、どうして私の魔法を……?」
「ああ、アンさんは異世界人だろ。宇宙の技術にあんな拘束力はないからな。魔力の仕組み、魔法のことはちんぷんかんぷんだが、前にも俺たちは異世界人や、それこそ侵略者たちと遭遇してる。拘束された時の対処法は、その時に感じたものを跳ね除ければいい」
これが、宇宙随一の戦闘種族の圧倒的センス……。
未知なるものを前にしても、五感、いや、おそらくそれ以上のものを駆使して、相手を穿つ方法を探る。
学も、ルリアールも、こんな奴らに勝てるビジョンが、全く見当たらなかった。
そんな中、森から勢いよく、優も駆けてくる。
「あれっ…………光太郎…………!!」
「わぁ! 生きてたぁ! 凄いな、流石に-絶対防御-がいても、あのお爺ちゃん怒らせたら逃げ出せないかと思ったけど」
「わ!! お前!! 誘拐犯!!」
それから、追うように-絶対防御-も現れる。
「メテオロス!! 捕まえるぞ!!」
「げ……! 噂をすればだ……!」
「じゃあ今戦ってんのは…… “アイツ” か……」
「ま、細かいことは後だよ! 逃げるぞ、千羅!」
そのまま、メテオロスの二人は瞬時に逃げ出した。
-絶対防御-には、俺たちを守る命もある為、後を追うことができなかった。
「でも、どうしてお二人がここに……? 今、戦っている人は一体……?」
困惑する学に、俺は事のあらましを説明した。
「宇宙海賊メテオロスに指示を出してたのが、神族の邪神バアルって奴だったんだけど、そいつを追ってたのが天界人のアブソルって人みたいでさ。その人の指示で-絶対防御-が来たらしいんだけど、その後すぐに、そのアブソルって奴もやって来て、今バアルと戦ってんのはそいつなんだよ」
サラっと説明するが、佑季さん、佐久間さん、光太郎、学は、呆然と口を開けて目を見開いた。
「その……アブソル様って……宇宙中を束ねている宇宙の王って言われている、天界人の第一皇子では……?」
「え、マジで!? -絶対防御-、そ、そうなのか!?」
「そうですよ。まあ、あの人、テレビとか出ないから、いざ目の前に現れても、貫禄みたいなの、ないですよね。先程、優様の目の前に現れたのは、正真正銘、宇宙の王と呼ばれる天界人の第一皇子にして、UT技術を地球に持ち込んだとされる四皇の一人、アブソル様です」
その内、戦闘は静まり、半壊した森の中からは、白髪の透明感溢れる肌に、静かな面持ちの少年、アブソルが現れた。
「やあ、無事でよかった。メテオロスにも、バアルにも逃げられてしまったけど、光太郎くんも無事だったね」
その瞬間、アブソルの立場を知っている全員は、その場に膝を着いて頭を下げた。
「えぇ!? そんなに偉い人だったのか!?」
「僕はただまとめ役なだけだよ。君たちも、そんなに畏まる必要はない。それよりも、光太郎くん、君たち日本の皇族に話したいことがあるんだ」
そんなアブソルの眼光に、光太郎はギクリと汗を垂らしていた。
その後、安全な車に乗り、全員で皇族の屋敷へと向かった。
アブソルの姿に、日本で一番偉い一族、天皇陛下たちもこぞって頭を下げた。
「久しぶりだね、皇族の皆さん。前天皇の由紀夫さん、そのご妃である喜美子さん。あなたは……バアルのことを知っていますね……?」
「ふふ、随分と久しい名ですね。バアル様……お元気にしておられると良いのですが……」
光太郎のお婆ちゃん、前天皇のお嫁さん、喜美子さんは、そう言うと、朗らかな笑みを浮かべた。
まるで、邪神バアルを信仰しているかのように。
「あなたがバアルと出会った時のこと、覚えてる範囲でいいので、詳しく話してもらえますか?」
「えぇ、もちろん。皆さん茶の間に来てください。玉露の良いお茶が入ったばかりなんです」
そして、全員で皇族の屋敷にある茶の間へと向かった。
――
◇緑一派
鯨井・LU・優(元異世界の魔王の息子)
ルリアール=スコート(異世界の自称最強魔法使い)
佐藤 学(新米技術士)
◆天界人、その配下、対UT特務班
アブソル(天界人の第一皇子、宇宙の王)
-絶対防御-(対UT特務班No.2、元魔王軍四天王)
◇皇族
光太郎(現天皇の息子)
由紀夫(現天皇の父)
喜美子(現天皇の母、邪神バアルと縁がある)
佑希(光太郎のSP)
佐久間(光太郎のSP)
◆神族、宇宙海賊メテオロス
邪神バアル(アブソルが追っている邪神)
湘烟(メテオロスの船長、バアルの手下)
千羅(メテオロスの服船長、湘烟の部下)
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