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えみ
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夕暮れ時のダンススタジオ。鏡に映る自分の姿を見つめながら、ふみのりは深くため息をついた。
普段なら、グループのリーダーとしてメンバーをまとめる立場にいる。けれど、ここ数日どうにもやりづらい理由があった。視線の先にいるふたりの弟分——ふみやとしゅーとの距離感が、あからさまにおかしいのだ。
「ふみくん、次の曲のカウント合わせ、僕と一緒にやってくれない?」
汗を拭いながら歩み寄ってきたふみやが、いたずらっぽく微笑んでふみのりの腕を引く。
「ちょっと待ってよふみや。ふみくんはさっき僕と次の振りの確認するって言ってたじゃん」
すかさず割り込んできたのはしゅーとだった。ふみのりの反対側の腕を掴み、真っ直ぐな瞳でふみのりを見つめてくる。
「え、あ……いや、ふたりとも……」
挟まれたふみのりは思わずタジタジになる。最近のふたりは、とにかくふみのりの隣を奪い合っていた。移動の車内、楽屋のソファ、果てはご飯を食べる順番まで。グループの絆が強いのは良いことだし、ふたりに慕われるのは純粋に嬉しい。けれど、ふたりの「僕のふみのりくん」と言わんばかりの激しいアピール合戦に、正直ふみのりの心臓は持ちそうになかった。
「ふみくん、今日はこのあと一緒に帰ろ? 美味しいカフェ見つけたんだ」
「ダメ。僕が先にふみくんとご飯行く約束してたから」
「そんな約束聞いてないよ、しゅーと!」
「言してないもん。心の中で決めてたの!」
バチバチと火花を散らすふたりを見て、ふみのりはとうとう頭を抱えた。
「ちょっと待った!!」
通る声で叫ぶと、ふたりはピタリと動きを止めた。
「ふたりとも、なんでそんなに俺を挟んで喧嘩してんの!? 俺はひとつしかないんだから、分身なんてできないよ!」
ふみのりが困り顔で本音を吐き出すと、ふみやとしゅーとは顔を見合わせた。
「……だって、ふみくん、最近しゅーとばっかり構うから」
「そんなことないよ! ふみくんはふみやとばかり楽しそうに話してるじゃん」
ふたりが子供のように頬を膨らませる姿を見て、ふみのりは拍子抜けしてしまった。お互いがお互いに羨ましがって、自分を独占しようとしていただけだったのだ。
「……はあ。ふたりとも、本当に可愛いなあ」
ふみのりはぽつりと呟くと、ふたりの頭をポンポンと優しく叩いた。
「俺さ、ふみやのダンスに対する熱量も頼もしいところも大好きだし、しゅーとの努力家で甘えん坊なところも大好きだよ。どっちか一人なんて選べるわけないでしょ?」
予期せぬストレートな言葉に、ふみやとしゅーとの顔が同時に赤くなる。
「だからさ、ふたりで俺を取り合うのはもうおしまい。これからは3人で一緒にいればいいじゃん」
ふみのりはふたりの手をギュッと握りしめた。
「三人で美味しいカフェ行って、三人でご飯食べて、三人で最高にカッコいいダンス作ろうよ。ダメかな?」
しばらくの沈黙のあと、ふみやがぷっと吹き出した。
「……ふみくん、ズルいよ。そんな風に言われたら、何も言えないじゃん」
「ほんとだよ。最初から三人でいればよかったんだね」
しゅーとも照れくさそうに笑い、ふみのりの手を握り返した。互いの視線が交差し、スタジオに気まずい空気はもうどこにもなかった。
「よし! じゃあ決定。今日の帰りは三人が大好きなあのラーメン屋ね!」
「えっ、カフェじゃなくてラーメン!?」
「いいじゃん、みんなでガッツリ食べようよ!」
無邪気に笑い合う三人の声が、スタジオいっぱいに響き渡る。お互いを大切に想う気持ちが重なり合い、三人の絆はこれまで以上に強く、温かいものになっていた。