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退屈だ。

毎日が退屈で仕方ない。


12年間、必死に子育てだけをしてきた。


いつの間にか身だしなみも気にしなくなった。

若者が歌う恋の歌もピンとこなくなった。

心が鈍くなった分、生きるのだけは楽になった。


とにかく退屈だ、という以外には。


子供も手がかからなくはなったが、反抗期なのか生意気なことばかり言う。


しかしママ、ママと離れなかった2.3歳頃は大変だった。


自由が欲しかった。


しかし、いざ子供の手が離れ自分の時間が出来ると、特にしたいことなど無いのだ。


まだまだ子供にもお金がかかるし、主人の給料も減ったため働きには出ることにした。

働いている方がいくらかマシだ。

家で鬱々しているぐらいなら、気も紛れるしお金も入る。

ただ、お金を使いたいこともないのが厄介だ。


おしゃれをして出掛けることもないから、服は要らない。

人付き合いも苦手な方なので一人で居たい。


世の中には40代でも綺麗にして、人生を謳歌しているキラキラママとやらがいるらしいが、彼女たちから見たら私は底辺主婦で嘲笑の的だろう。


まあ、でも他人からの評価もどうでも良かった。

それぐらいに自分の人生に意味など見出だせなかった。


子供が巣立ったら、いよいよ私の存在意義などなくなる。

そうなったら、いつ死んでも特に後悔はないと思っていた。

日本でも安楽死が合法になれば良いのに。


ネットで「安楽死」を検索し、スイスなら200万ぐらいで出来るのか、貯金で何とかなりそう…

なんて、無為な予定を巡らす。


実際は死ぬことなんて怖い。


だから今日も死んだような眼でダラダラと生きている。


貧困国より、日本の自殺率が高いのもわかる。


ある程度の満足できる暮らしに慣れすぎて、幸福感が得られない。

贅沢病だ。


以前、テレビで洪水の被害にあった貧困国の家族の暮らしを観たが、家は壊れ3人の子供を抱えた夫婦が無表情で何をする訳でもなく1日を過ごしていた。

暑い中クーラーもなく砂の上に座り、寝て食べて、ただただ生きる。

小麦粉を水で溶いたようなものを焼く。

それが1日の家族5人の食事。

小麦粉にも蝿がたかっていた。


ジャーナリストが聞く。

「ずっとここで暮らすの?」

呆れたように夫婦が答える。

「他に行くところなんてないよ」


ああ、この人達は努力や思考することも鼻から放棄しているのだ。

どうしようもないから、政府も何もしてくれないからと日がな一日外で座って過ごす。

仕事ももちろん無い。


洪水は気候変動のせいだよ、先進国のせいさ。

旦那さんが言う。


日本人のジャーナリストは黙ってしまった。


その日本で暮らしている私が、現在彼らと同じ表情をしているのが皮肉だ。


私、櫻田涼子はとにかく枯渇していた。

同じ毎日を繰り返し、朝からため息をつく。

働くことも家事をすることも面倒。

主婦失格。

最後に心から笑ったのはいつだろう。


42歳。

更年期も相まっているのかもしれない。

得体の知れない虚無感でただただ今日も足だけは職場には向かう。


幸い、東京とはいえ田舎の方に住んでいたので通勤電車は空いている。

都内とは逆方向に向かうので、だいたい電車で座ることが出来る。

電車の座席に座り、また退屈を紛らわすためとりあえずネットニュースを観る。


他国の戦争のニュースが目に入る。

なかなか終わらないな…。

それこそ兵士達は毎日が生と死の狭間で、退屈なんて言っていられないだろう。


だから、食べる事が出来て温かい家があり、ベッドで眠ることが出来る…

私の暮らしは十分幸せなのだと言い聞かせてみる。

電車の揺れに耐えられなくなり、私はいつの間にか眠ってしまった。




ハッと目が覚めるとちょうど降りる駅だった。

急いで電車から降りる。

生真面目なだけが取り柄なので遅刻は嫌だった。

いや、上司から蔑まれるのが怖いだけか。


駅に降り改札に向かう。


まだ寝ぼけているのか。

いつもの景色が白くモヤがかかったように見える。


改札を出るとギョッとした。

見慣れた街が様変わりしていた。


ものすごい霧。

街が見えない。

いや、どんなに目をこすってみても


見えたのは



遠くに巨大な工場のような建物だけ。


それも霧がかかって、うっすらと…。



あんな建物、昨日までなかった…。


周りはアスファルトの道路があるだけ。


いつも珈琲を買うコンビニは?

見慣れたファストフード店も無い。

バス停は?銀行は?


まるでミサイルでも落とされた後の荒廃した街のような…


異国のような情景だった。


そんなおかしな状況なのに、私は冷静だった。

子供の頃から、恐怖を感じる時ほど私は冷静になるのだった。


まだ夢を見ているのか?

昼寝のときなどに見る悪夢のようだった。


まだ電車の中で見ている夢なのか?

覚めろ覚めろ。


しかし、恐怖と共に何故かこの状況を受け入れている私がいた。


周りを見ると、全く知らない人達が数十人、その大きな建物に向かって歩くのが見えた。


あの建物はいったい…


私は行きたくもないのにその建物に導かれるよう、身体が勝手に動いてしまい、その行列について行くしかなかった。

貴方も退屈しているの?

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