テラーノベル
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その巨大な建物だけが切り取られて、灰色の背景に合成されているような。
異様な光景だった。
建物の近くまで来ると、他の人は全員無言で中に躊躇せず入っていく。
私もそれに続いた。
中には巨大なエレベーターがあり、100人位は乗れそうだった。
貨物用なのだろうか。
何人かでエレベーターに乗り、上に上がっていく。
誰かボタンを押したのか。
7階が点滅していた。
7階に着くとオフィスがあった。
扉が開いたままの部屋にゾロゾロと入っていく。
部屋の中には私達意外にも人がいた。
外観のイメージからは想像できない綺麗なオフィスだ。
デスクにパソコン、観葉植物なども飾られていた。
皆が当たり前のように、何年も前から出社していたかのようにデスクに座る。
私も初めて来る場所なのに、何故かここが私の席だと分かり壁側の席に座る。
この不思議な感覚。
やはり、私はまだ夢を見ているのか。
しばらくすると「おはようございます」と野太く低い声が聞こえた。
オフィスの一番前、上司席らしき方に目をやる。
女が一人いた。
真っ黒なワンピースとマントに身を包み、髪はロングでパーマをかけている。
口紅なのか、唇も漆黒。
それだけでも私には異常に感じたが、身長は2メートルはゆうに超えていたであろう立派なガタイ。
それだけで恐怖を感じる。
嫌な予感だけが私の心を支配する。
私はこれからどうなるのだ。
「今日の仕事を始めて下さい」
女が言う。
そしてサラリーマン風情の青白い顔をした初老の男性が全員に段ボール箱を配り始める。
この女の部下なのだろうか。
この段ボールを開けば良いのか?
仕事ってなんだ?
そもそも何故私はこの会社で働かなければいけないのか?
私はシャンプーを作る小さな工場の事務をしていたはずだ。
今になって頭が混乱してくる。
隣の人を見ると多分同じ歳位の女性だった。
それに少しだけ安堵した。
彼女が段ボールを開ける。
中から取り出したものを見て、私は驚愕した。
拳銃だった。
その彼女が少し笑顔を浮かべて私に言う。
「あなた、新人さん?」
話しかけられて少しホッとする。
「はい…あのここって…」
いろいろ聞きたかったが、遮って彼女が仕事の説明をする。
「このネジをここにはめていくだけだから」
と言って、拳銃にネジをはめていく。
何故。
何故、拳銃?
自分に配られた段ボールを恐る恐る開ける。
やはり、拳銃が箱いっぱいに入っている。
やはり、夢だ。
こんな事あるわけ無い。
悪夢から目覚められない時は、だいたい私は金縛りにあうので、体に精一杯力を入れ「うわぁっ」と声を出した。
まだ目は覚めない。
隣の彼女は黙ったまま作業を黙々と続けている。
その時近くに黒い影を感じた。
あの奇妙な女が私を見下ろしていた。
ここにいてはダメだ、ダメなのに身体が動かない。
「日本人はキンベン」
勤勉?
カタコトのように女が喋る。
逃げなければ。
恐怖で足が重い。
早く逃げたい。
上司席の後ろは広い窓があり、7階なので当然空しか見えない。
モヤがかかった空の奥に小さな黒い影がいくつか見えた。
パラパラパラ…奇妙な音がする。
こちらにどんどん近づいてくるそれらを見ると、戦闘機のようなものだった。
その戦闘機から、こちらに向けて銃弾が降り注がれる。
恐怖なんてものじゃない。
逃げなければ、と席を立ったが身体か頭に何かが当たった気がした。
不思議と痛くはなかったが、激しい光を感じたと同時に視界が真っ暗になった。
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