テラーノベル
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料理を取って戻ってきた執事達はケイティ達3人が話していた不穏な内容に眉をひそめて、自分の席に料理を置いてからケイティの周りに集まってきた。
19人に囲まれた少女の姿のケイティはいつもより小さく見えて、兄弟はここでケイティがしくじったら執事達の了承も得ずに無理矢理生き返らせることになるぞ、と冷や汗をかいていた。
✝️「先程のお話を盗み聞きしたようで申し訳ないのですが、俺達の「処刑」について詳しく教えていただいてもよろしいですか?」
🍷「2000年戦い続けた結果が「処刑」だなんて、こんなに救われないことはありません。いくら後で生き返ることになるとしても、どうして我々が殺されなくてはならないのでしょう…」
🕯️「主様が言っていたように別の世界に逃げる…例えば「処刑」の前にこの屋敷に逃げ込んで一時的に暮らすとか…そういうことはできないのかな?天使狩りが終わったら悪魔執事が人類の脅威になると判断されることは変わらないかもしれないが、暫く雲隠れしていれば悪魔執事の存在を忘れてくれるかもしれないだろう?」
💮「はぁ、「処刑」ねぇ…貴族達はどこまでも腐ってるな。要らなくなったらすぐにポイかよ。その「処刑」はどうやっても避けられないのか?ミヤジ先生が言うみたいに雲隠れでどうにかなる問題じゃないの?」
処刑をどうにか避けられないのかと室長たちが代表するかのようにケイティに問いかける。
K「一応2つくらいは処刑を避けられる方法はあるの。でも1つはとても大がかりな魔法陣が必要で、パレスをあの世界から切り取って1つの欠片にするって方法。でも、多分どんなに時間を稼いでも完成が間に合わない可能性が高いのと、失敗したらどこの世界にも属さない狭間の空間で永遠に彷徨い続けることになる…。狭間の空間に放り出されたら誰かに会える確率は天文学的な数字になる…つまり、独りぼっちで永遠の時を真っ暗な世界で過ごすことになるんだよ。耐えられる?何も持っていなければ死ぬことすら許されないんだよ?
あと、もう1つの方法は私達がさっき見つけた方法でね、新しい欠片をお屋敷にしてそこに皆で引っ越すの。欠片を作るのには1ヶ月くらいしかかからないから、絶対に処刑前に逃げることができるし成功率はほぼ100%だよ。私はこっちの方法がいいと思うんだ。デメリットがあるとすれば、皆には魔力がないから欠片から出られなくなることかな。食料とか必要な物は私達が仕入れて運んでくればいいんだけど、ちょっと森にお散歩に行こう、とか、街で本とかティーカップ見に行こう、とかいうことができなくなる。世界の全てがお屋敷と庭だけに限定されて、欠片の外に出ようとしても見えない壁に阻まれてしまう。これは前者の方法が成功しても同じだよ。皆に不自由を強いてしまうのは…私は嫌なの。それに、雲隠れしたとしても悪魔執事を知っている人間が全て死んでしまうまで…大体100年くらいかな?その間このお屋敷だけで過ごすのに耐えられる?」
そう説明すると、執事達は確かに屋敷と庭が世界の全てになってしまうことや下手したら独りぼっちで暗闇の世界で永遠の時を過ごさなくてはいけないというデメリットに、処刑される前に移住するのは後々苦しくなってしまうだろうな、と思った。
しかし、だからといって処刑される未来を受け入れるのには抵抗がある。一体どうしたら処刑を避けつつ生きられるのかと執事達は話し合うが、ケイティが具体的に提示してくれた方法しか現実的な案がないことに落胆することになった。
🌟「でも…嫌だよ…怖いよ…死にたくない」
🦋「俺だって死ぬのは嫌だよ…。普通に寿命だったり天使狩りで死ぬのなら諦めはつくけどさ、貴族達から「処刑」って形で殺されるのは許せない…」
🌹「俺達のことを散々こき使って、天使狩りがなくなったら殺せばいいっていう思考になる貴族達を許せないっす。そんな奴らに殺されてたまるかっていうもんっす」
🐦⬛「オレが居なくなったらファミリーは多分崩壊してしまうだろうね。せめて後継者を育てる時間くらい欲しいものだ…」
🤍「……家族と渓谷の民達を捨てるしかない…か…」
🐾「せっかくベリアンが命懸けで守ってくれた命を無駄にしたくない…でも…」
執事達が悲嘆に暮れていると、ケイティはまだ話は終わっていないと声を上げる。
K「皆、聞いて!処刑は避けられなくても生き残る方法はあるし、屋敷の欠片から自由に出入りできる方法があるから!」
☔「…というと、先程話されていた「新しい入れ物」の話になるのでしょうか?」
ユーハンが考え込むような仕草をしながらケイティに問う。
K「そう!その通り!新しい入れ物に皆の魂を移したら私の魔力を使えるようになるから、欠片から出られるようになるし色んな異世界を見て回れるようになるからきっと退屈しないよ!…でも、そのためには一度死んでもらう必要があるんだよね…」
🧸「だから、処刑を受け入れろってことなんですね?」
K「…そうなる。もっといい方法があったら試したかったんだけど、私にできる確実で安全な方法はそれしかなくて…」
テディは死ぬことに関してはあまり気にしていないようで、ニコッと笑顔を作った。
🧸「主様が俺達を幸せにしようとしてくれてるなら、俺は喜んで死にますよ!そうすれば今の生活よりもっとラッキーでハッピーな生活ができるんですよね?」
テディに賛同するようにロノ、ナック、ラトが目配せをしてから話し始めた。
🍽️「俺は異世界で楽しく暮らせるようになるなら、一度くらい死んだって構わねぇ。生きていたら絶対に食べられない料理だって食べ歩くことができるってことだろ?そっちのメリットの方がデカいだろ!」
🔑「私達の世界では絶対にできないことができる、というメリットは大きいかと。それに、一度「処刑」という形で死ぬことで貴族達や民衆も満足することでしょう。その後は自由に過ごせる…そう約束していただけるというのなら、「処刑」されるのも必要なことだと割り切れます」
❤️🩹「正直、貴族達や民衆を壊し尽くせば私達が殺されることはないと思っていたのですが…主様の提案に乗ってみたほうが楽しそうです。外に散歩に行けないだなんて耐えられませんし。それに、死ぬという経験もある意味新鮮で楽しそうではないですか?」
ラトがくふふ、と楽しそうに笑うと絶対に死にたくないと言っていた執事達の表情が少し柔らかくなった気がする。マイペースで他人を巻き込むラトの可笑しくなるほどいつも通りの言動に、少し死への恐怖が薄れたのかもしれない。
今なら追い打ちをかければ賛成派に傾く執事も多いのではないだろうか?ケイティは賛成と反対が対立しだした執事達の声を聞きながらそう感じた。
K「そうそう!追加情報も補足させて!一旦ストップ。いいかな?」
これ以上情報を貰ったとしても死にたくないのは変わらないと思っている執事達は怪訝な表情で押し黙り、メリットが大きいなら死んでもいいと思っている執事達は反対派を賛成派に引きずり込ませられるのではないかと期待を目に宿してケイティを見つめた。
K「一回死んで新しい入れ物に魂を入れたら自由に異世界を行き来できることは話したよね?」
🫖「ええ。ですがそれだけでは私は…死ねません…怖くてしょうがないのです」
⚔️「ベリアンさんの気持ちも分かる。だが、「処刑」前に逃げてしまえば自由がなくなって、「処刑」後ならば自由に楽しいところにいつでも行ける。それなら死んでもいいのではないかと思う。勿論怖いことには変わりないが、俺は死んだらジェシカとまた会えるから死ぬことは悲観的には捉えていない」
絶対反対派のベリアンと中立に近いバスティンの言葉に、ケイティはもっとメリットを積み上げれば反対の足場をある程度崩せると踏んで説得に入る。
K「あのね、新しい入れ物に魂を入れることで皆にとても素晴らしい恩恵があるんだよ!
1つは悪魔化しなくなること。新しい入れ物は私以外の何者とも契約していない状態にできるから、悪魔の力に怯えることは無くなるんだよ!
もう1つは今まで通り不老の身体を維持できること。これはもう説明しなくても嫌というほど分かってるよね?周りが歳をとっていくのに自分達だけが時間が止まったかのように感じるだろうけど、私もお兄ちゃん達も不老だし…なんなら私は不老不死だし…同じ時間をずっとずーっと過ごせるのって嬉しくない?」
ケイティがそう言うと死の恐怖に怯えていたフルーレが恐る恐るという様子で確認のために口を開いた。
🪡「本当に…本当に悪魔化を避けられるんですか?魔導服に飲み込まれることもなく、本当にずっと生きていられるんですか?」
K「そうだよ!一度死んでしまえばもう死の恐怖に怯えることはなくなるの!命懸けの戦いをする必要もなければ、魔導服の力や悪魔の力に怯えることもなくなるし、本当に全てのことから解放されて自由で楽しく生きられるようになるんだよ!」
ケイティがそう力説すると、死ぬのを怖がって反対していた執事達に戸惑いの様子が見えた。後もう一押し欲しいところだ。
K「…じゃあ…せっかく全員集まってる訳だし、見てみる?未来の皆の姿」
ケイティが椅子の上に立ち上がり、両手を広げた。すると、テーブルの上に大きな鏡が現れた。
K「これが私の望む皆の未来の可能性。ここまで漕ぎ着けるの、結構大変だったんだよ?」
ケイティが大きな鏡を指先でつつくと、水面に水滴を垂らしたときのように波紋が広がり、大きな墓の前に立つ少女と2人の男性の姿が映し出された。
ケイティは鏡の横のテーブルに座り、足をぶらぶらさせながら、これできっと反対派も賛成派になってくれるだろうとワクワクしながら鏡を覗き込む執事達の様子を見守った。
鏡に映った人物たちはよく見ると恐らくケイティと兄弟であることは分かった。しかし、あの大きな墓は何なのだろうか?と執事達が思っていると、墓の前に立っている少女…ケイティが空中から杖を取り出して構える。そして何か小さく呟くと杖につけられた宝石が眩い光を放ち、光が周囲に広がっていく。光が通り過ぎた跡には美しく鮮やかな花々が咲き誇った。
K「これで誰も墓参りに来てないかもっていう寂しさは紛れるかな」
N「一応墓に供えてあった食い物はあったから誰も来てない訳じゃないけど、それにしても少ないよな」
ノワールがお供え物であろう饅頭を食べながらそう言う。
B「世界を救った英雄たちにする仕打ちじゃないよね。僕はこんな扱いをされること、許せない」
対してブランは珍しく感情的になって、怒りで震える手をぎゅっと握りしめていた。
K「お兄ちゃん達も気に入ってたんだね、皆のこと。そうだよね、私も皆が処刑されてパレスの庭に適当に埋葬されて大きな墓石を置いただけの墓に入れられたの、許せないよ。
でもさ、これからは皆で幸せに暮らせるんだから!明るくいこう!ね!」
ケイティが兄弟を振り返って笑顔を見せると兄弟はケイティの両隣に立ち、真ん中に居るケイティの肩に片手を置いた。
N「1人じゃ扱えないほど大がかりな魔法を使うなんて何年ぶりよ?」
B「さぁ…?ここ数十年はなかったんじゃない?」
K「もー!早く始めたいから早く魔力貸してよ」
ぷくっと頬を膨らませたケイティに軽く謝ると、兄弟は目を瞑りケイティの肩に乗せた手から柔らかく光を放つ魔力を送り込む。
K「さぁ、19人分一気に私に縛り付けるからね。飛ばされないように踏ん張ってよ!?」
ケイティがそう言った瞬間墓石よりもずっと大きな魔法陣を展開した。その副作用で起こった強風はケイティの髪を靡かせ、咲き誇った花々を散らし、兄弟を吹き飛ばすほどの威力があった。
じわじわ大きくなった魔法陣が完成した瞬間、19個の光が墓の下から浮かび上がりケイティの髪に吸い込まれていき、ケイティの黒い髪がどんどん白く染まっていく。
魔法陣が力を失い高速で霧散していく中、兄弟は疲れ果てたらしく花畑に倒れ込んだ。一方ケイティは黒から白に変わった髪を片手で持ち上げてバサッと空中に放してゆっくりと落ちてくる髪が真っ白に染まっていることを確認した。
K「これでとりあえず私との契約は成立。私の側で生きるという約束は守ってもらわないとね。さぁ、入れ物に一つずつ魂を移さなくちゃ。お兄ちゃん達、回復したら私の図書館に来てね」
そう言ってケイティは墓の前から消え、残ったのはゼイゼイと肩で息をしている兄弟と無残にも散ってしまった花々と沈黙を守り続ける墓石だけだった。
鏡がキラリと光って場面転換が起こり、ケイティが魔導書を集めているという図書館が映った。そこには床に等間隔に執事達の遺体(?)が置かれていた。
K「ふふっ、我ながら上手に作れたよね。これなら新しい身体になっても違和感なく暮らしてもらえそう」
ケイティの独り言で遺体に見えたものが魔法で作った新しい入れ物だと分かって、執事達はざわめく。
鏡の中のケイティは一番端に寝かされていたベリアンの入れ物の横に膝をつき、優しく頭を持ち上げて額にキスをした。
K「…ベリアン、ベリアン。起きる時間だよ」
すると、ケイティの髪が光って人魂のような形をした魂が出てきてベリアンの入れ物の胸に入っていく。そして、ベリアンの入れ物が光を放つと、ベリアンが目を開ける。
🫖「…?あるじ、さま?」
ケイティはぼんやりしているベリアンの頭を優しく撫でてそっと床に戻した。
K「あと18人分やらないといけないから、暫く休んでて。全員分終わったら欠片に案内するね」
ケイティはそう言って隣に寝ている入れ物の横に移動して同じような儀式を始めた。
また鏡が光って場面転換が起こった。
今度は見慣れぬ狭い部屋の扉が開かれてフルーレが駆け込んでくるところが映し出された。
🪡「あ!これって…!欲しかった最新のミシン!?それに、この部屋…本当に裁縫のために使っちゃっていいんですか?」
フルーレは新品の輝きがあるミシンに飛びつき、部屋をぐるりと見回した。後から部屋に入ってフルーレの様子を見守っていたケイティは微笑みながら頷く。
K「執事達の欲しいものを1人1つ与える…それが私が執事達を縛り付けるための契約の内容だからね。
フルーレには「理想の仕事部屋」を用意したの。気に入ってもらえた?」
🪡「はい!とても!…でも、本当にいいんですか?契約って俺達に条件が課されるんじゃ…」
K「そんな下級な契約なんてするはずないでしょ?これはね、私の執着、私の愛。それを形にして皆を巻き込んだ。だから私に条件が課されるのが当然でしょ?」
🪡「そう…ですか。えーっと…なんだか照れくさいですね。あ、そうだ!他の皆への贈り物も見たいです!ついて行ってもいいですか?」
K「勿論!」
次に向かったのはキッチン。
ロノが嬉しそうに分厚い冊子を開いて目を通していて、バスティンはあちらこちらを物色しているところだった。
K「ロノ、「異世界の文字を全て読めるようになる能力」はどう?」
🍽️「あ、主様!めちゃくちゃ嬉しいですよ!これでどの世界のレシピ本も読めますからね!勉強したら今まで作ったことのない料理に挑戦するつもりです!」
キラキラの笑顔を浮かべるロノに対してバスティンは少々不満げな顔をしていた。
⚔️「主様、俺の欲しいものは何処にあるんだ?見たところパレスの厨房が綺麗になっているくらいしかない…まぁそれでも納得はできるんだが…」
K「あぁ、バスティンのはね、外にあるのよ。馬小屋を覗きに行ってご覧。きっと欲しいものがあるよ」
⚔️「そうなのか。俺の欲しいものは馬…?それとも別の物か…?とりあえず行ってくる」
キッチンを出ていくバスティンを見送り、フルーレはケイティにバスティンの欲しいものは何なのか尋ねた。
K「バスティンにはね、「落ち着いて作業できて、いつでも寝られる部屋」を用意したの。馬も彫刻刀も簡易ベッドも木材も全部用意したよ。大盤振る舞いでしょ?」
いくらケイティが契約を果たさなくてはいけないとは言ってもやりすぎではないだろうか?フルーレとロノは顔を見合わせて首を傾げた。
それからケイティは全員分の「欲しいもの」を執事達に与え、フルーレはやっぱりやりすぎだと頭を抱える羽目になった。
別邸にちゃんとしたキッチンができたのはいい。
しかし、まさかピザ窯とデカい燻製器まで備え付けるのは如何なものだろうか?しかも別邸にも地下が追加され、ハナマル専用の酒の貯蔵庫ができていた。
貯蔵庫を見たユーハンはハナマルの胸ぐらを掴んで今にも殴りかかりそうな勢いで罵倒していた。ユーハン曰く、「主様に悪事の片棒を担がせるようなことをさせて許されるとでも思っているのか」ということらしい。ハナマルに与えられたのは「好きなだけ酒が飲める場所」であったため、ユーハンは地下に入れないようになっている。それがとても腹立たしかったのだろう。
しかし、ユーハンに蕎麦打ちの道具と饅頭を蒸す蒸籠を一式用意したとケイティが言えば機嫌が直った。
☔「主様が下さった物は大切に使わせて頂きます。今度蒸したてのあんまんを一緒に食べましょうね」
ユーハンはさっきとは打って変わって幸せそうに笑いながら見送ってくれた。
K「じゃあ最後の大トリに行こうか!」
🪡「えっ、まだあるんですか!?」
ケイティはフルーレを連れて本邸に戻り、図書室の扉を開いた。
🦋「あ!主様!もしかしてここって、「主様が集めた本が全部読める部屋」ですか!?」
上が見えないほど積み上げられた本棚と、本を取るために張り巡らされた梯子を確認していたフェネスが駆け足でやってきてケイティに尋ねる。
K「おお~大正解!ちなみにこの部屋に居ればどの文字も読めるようになるおまけ付きだよ〜。ロノに「異世界の文字を全て読めるようになる能力」をあげちゃったからフェネスはこの部屋限定になっちゃったの。でも文字は私かお兄ちゃん達に教われば読めるようになるから大丈夫よ!フェネスは賢いもの!」
🦋「こ、光栄です…」
フェネスは顔を赤くしてもじもじとしている。元の世界では褒められることがなかなかなかったので耐性がないのだろう。
ケイティは恥ずかしそうだけれど嬉しそうなフェネスの顔を見て満足そうに頷き、図書室を出た。
K「それじゃ、全員分見て回ったから解散しようか。またね、フルーレ」
🪡「はい!主様、またお会いしましょうね」
フルーレに手を振るケイティが映って鏡はブラックアウトした。
K「…どう?死ぬ気になった?」
🫖「これは…確かに魅力的ですね…」
🌟「こんな未来があるなら…死ぬのを我慢して受け入れようかな…?」
🦋「俺はもう絶対に死にますよ!もう覚悟はできました!」
絶対に死にたくない、怖い、と言っていた執事達もあまりにも魅力的すぎる未来を見て心が揺らぐ。それを見たケイティは悪い笑みを浮かべて鏡を消して床に降りた。
🔑「ですが…私への贈り物が主様の全財産だというのはちょっとやり過ぎかと。確かに会計係として仕事をいただいておりますが、お金そのものが好きなのではなく、限られた予算の中でどうやりくりするのかを考えるのがある種の楽しみでもありました。ですので、私には「無限に書ける帳簿」などを頂けると嬉しいのですが…できますでしょうか?」
ナックもフルーレと同じように絶対やり過ぎだと思ったらしく、控えめな望みを口にした。
K「そんなのでいいの?本当に欲しいもの…私が用意できる範囲にはなっちゃうけど、何でも用意するよ?」
🔑「私の欲しいもの…欲しかったものはもうどこにもありませんから…。ですが、悲観的に捉える必要はございません。私は十分幸せです。これ以上の幸せは望んでしまったら破滅に向かってしまいそうで、それが怖いのです。ですから本当に私の欲しいものはお金でも帳簿でもなく、「日常の些細な幸せ」とでも言うべきでしょうか。つまり、主様が作ったお屋敷に全員が揃う…それだけで私の願いは叶うのです」
K「ナック…分かった、私の魔法の集大成になるくらいすっごい帳簿作るね!」
ナックには話したがらない過去や誰にも見せたくないという傷が沢山ある。そんな重いものを抱えながら、日々帳簿とにらめっこして、ラムリを叱って、交渉に行って、不寝番もしてくれている。そんな働きづめの生活なのに幸せだと言い切った。ケイティはそれだけでナックの心に空いた穴を埋められることはないんだと、何を買ってあげてもお金を渡しても満足することはないんだと、チクリと胸が痛んだが、ケイティは空気を重くしないためにわざと元気に返事をしてみせた。
🫖「あの…それでしたら私も変更をお願いしたいのですが…」
ケイティが感傷に浸っていると、ベリアンがおずおずと手を挙げて変更のお願いをしてきた。
K「うん、いいよ。ベリアンは何が欲しいの?」
🫖「私は「ティーカップを並べる棚」が欲しいです。勿論、主様が用意しようと考えていただいている「異世界でしか手に入らない希少な紅茶の茶葉の詰め合わせ」も魅力的ではあるのですが、実際に香りを嗅いで色を見てどのくらいのお値段なのかを確認して…そうして買い揃えたいのです。それに、ティーカップは今ある棚も部屋に送っていただけるようですが、異世界でしか手に入らないデザインのティーカップも自分の目で見てから気に入ったものだけを揃えていきたいんです。主様のご厚意を無碍にする形となってしまって申し訳ありませんが…」
K「ううん、我儘を言ってくれたほうが嬉しいよ。ベリアンは「ティーカップを並べる棚」ね。沢山飾れるように大きくて正面がガラスになってるやつを用意するね!」
ケイティは忘れないように手帳をボケットから取り出してメモを取った。
K「他にさっき見せた未来を変えたいとか、何でこうなるのかな?みたいな疑問とかない?」
メモを終えるとケイティはこれ以上変更することがないかどうかを確認した。
執事達はケイティとの契約の内容が自分達に全く負担がなく、ケイティが果たさなくてはいけない条件しかないことや、新しく作るという欠片の世界と異世界でちゃんと幸せに暮らせるだろうかということを心配していたが、ケイティが「絶対に執事の皆は守ってあげる!何があっても皆が笑顔で暮らせるようにするから!」と声高らかに宣言したので、心配しなくても多分大丈夫だろうと全員が一旦納得した。
🐦⬛「…それでさぁ、ご主人サマ。オレのファミリーをまとめる後継者を育てたいんだけど、猶予はどのくらい貰えるのかな?その期間が短ければかなりスパルタ教育をしないといけなくなるから確認したくて」
何が欲しいのかよく分からず、とりあえず「金目のもの」を渡すことにしたクロウザーからプレゼントの変更ではなく処刑までの猶予を訊かれて、ケイティはクロウザーが本当に欲しいものは「ファミリーの安全と幸せ」だったのかもしれないと思った。
K「短くて3ヶ月、長くて1年だよ。できるだけ天使狩りを長引かせて、交渉を難航させて時間を稼いでも1年が限界なの。それで足りる?」
クロウザーの望みを叶えるために協力できることはしたかったが、ケイティも兄弟も普通の人間とはかけ離れた存在であるため、クロウザーのファミリーのことはクロウザーに全て任せる他ない。
ケイティがクロウザーを見上げて不安気に回答を口にすると、クロウザーはフッと笑った。
🐦⬛「1年か…うん、まぁそれだけ時間があれば大丈夫。ご主人サマ達が頑張ってくれるなら、オレも頑張らないといけないからね。ちゃんと後継者を育ててから消える…そんな我儘を叶えてほしいだなんて強欲かな?」
K「強欲なんかじゃないよ。クロウザーがファミリーのことを大切にしてるんだって、守りたかったんだって、分かるから。私には用意できないものが欲しいと思うことは、私に引け目を感じたりする必要なんてない、自然なことだよ。処刑がなければクロウザーはずっとファミリーのボスであり続けたはずでしょ?その未来を奪ってしまう私を許してね」
ケイティが少し寂しそうに笑ってみせると、クロウザーはケイティの頭を撫でてくれた。
🐦⬛「可愛いご主人サマのためならなんだってするさ。気に病む必要はないよ?」
K「…うん、ありがとう」
そうして、タイムリミットを見据えて行動することが決まった。
ケイティには、ホールに置かれた振り子時計の秒針が進む音が嫌に耳に響くように聞こえた。
コメント
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第12話、読み終えました…! ケイティが執事たちの未来を魔法の鏡で見せて、一人ひとりの「本当に欲しいもの」を丁寧に聞き出していくところ、すごく好きです。特にベリアンが「ティーカップを並べる棚が欲しい」って自分の目で選びたい気持ちを伝えた場面、胸がじんわりしました。処刑という重いテーマに向き合いながらも、ケイティが「私の執着、私の愛」と言って贈り物を用意するのが美しくて。死の先にある希望を信じたくなるお話でした🌷
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