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「こんなこと? まだ何もしていない。何かするのはこれからだ。映山紅のことでいろいろ聞きたいこともあるしな」
父親が伸びてきた陸の手を鷲づかみにすると、途端にボキボキと嫌な音が響いた。指の骨が何本か折れたようだ。
「ぎゃああああ!」
断末魔のような陸の悲鳴が上がる。
「陸!」
駆け寄ろうとした雅人と圭太は菊多に一瞬にして倒された。彼女の父親はレスリングの元選手で、菊多は父にレスリングを教わる柔道部員。陸はケンカの強さで有名だったが、格闘家の足元にも及ばない井の中の蛙でしかなかったようだ。
「君が呼んだの?」
「わざと殴らせて被害届を出すと夏梅は言っていたが、ボクは君に大ケガしてほしくないんだ」
「いいの? 今まで家族には陸たちとのことは隠してたんだよね?」
「いいんだ。今は何より君の身が大事だ」
陸の巨体を引きずりながら、父親が通りすがりに声をかけてきた。陸は手の指を折られたあと絞め技で落とされたらしく、さっきまでの威勢が嘘のように気絶している。
「映山紅」
「うん?」
「去年の暮れに法事で学校を休んだとは初耳だ。あとで詳しく事情を教えてもらうからな」
「はい……」
彼女は困ったように口ごもった。ということは、そのときに中絶手術したんじゃないかという陸のゲスな勘繰りがまさかの正解だったということ? さすがに僕もドン引きした。一方彼女は僕と目を合わせたくないのか、陸たちが車の後部座席にゴミのように放り込まれていくのをじっと見ていた――