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――数日後。
箕輪城。
長野業正が、急いで城内へ戻ってきた。
「憲政様……ご無事でございますか?!」
そこへ方円が姿を見せる。
「業正殿、お帰りなさいませ」
「……方円殿。
憲政様は……」
業正の問いに、方円は落ち着いた様子で答えた。
「ご心配なく」
「景虎殿をすぐお側にお送りしたおかげで、ご無事でございます……」
「しかし、申し訳ございません」
「箕輪城に、血の雨を降らせてしまいました」
「……血の雨、とは……?」
方円は、城内の一角へ視線を向ける。
「……あそこのネズミの骸をご覧いただければ、お察しいただけるかと」
「…………」
業正は、惨状を目にして言葉を失った。
「……憲政様は、ご覧になられたのか?」
「申し訳ございません」
方円は静かに頭を下げる。
「ネズミがいた以上、駆除するしかございませんでした」
「兵を不安がらせぬよう、憲政様は笑って振る舞っておりましたが……」
「以後、気をつけまする」
業正はしばらく黙っていたが、ふと周囲を見回す。
「…………」
「そして……やけに忍びが多いが?」
方円は微笑んだ。
「ご心配なく」
「全て、うちの三ツ者です」
「そして、ここにいるのが透破の頭の――」
その隣に立っていた男が、一歩前へ出る。
「出浦盛清と申します」
「以後、お見知り置きを(^^)」
「…………」
業正は、なんとも言えない表情を浮かべた。
方円はそのまま、奥へと目を向ける。
「憲政様は、あちらにおられます」
「ささ、すぐに参られてくださいませ」
「業正様が帰られたと知れば、安心なさるでしょう^^」
業正は頷いた。
「……そうさせていただく」
「憲政様を守っていただいたこと、感謝いたす」
「では、失礼」
業正が去っていく。
その背中を見送った出浦が、方円を見る。
「方円様……( . .)」
そして、足元の骸へ視線を落とした。
「では、このネズミ……片付けてきますね^^」
方円は静かに頷く。
「この山を、これ以上憲政様に見せるのは宜しくない」
「ネズミにふさわしく、片付けておきなさい」
「はっ……おまかせを(^^)」
ーーーーーーーーーー
その頃――。
業正は、憲政のもとへ辿り着いていた。
「憲政様……」
「襲撃の知らせを聞いた時は、某、肝を……」
憲政は、業正の姿を見ると微笑んだ。
「……業正」
富来 えび
122
#自分用
富来 えび
20
һагυ_彡
238
「よく戻った……」
「成田は、どうなった?」
「はっ」
業正は胸を張る。
「味方につけて参りましたぞ」
「そうか……ほほほ」
「順調じゃの」
「大儀であっ……」
そこで業正が、静かに遮った。
「……今は、誰もおりません」
「…………」
「本当は、怖かったのではありませんか?」
「よく、立派に振る舞いましたな……」
憲政は、しばらく黙っていた。
「…………業正……」
「なりまさ…………」
そして、ゆっくりと口を開く。
「子を失った、あの時のように……」
「また誰かを失うのではないかと、怖かった」
「でも……」
「わしは、旗印じゃからの」
「恐れていては、皆ついてこぬと思って……」
「忍びが天井から落ちてきても……」
「お茶を飲んで、余裕を振る舞っておった」
「…………」
憲政の声が、震える。
「……怖かった……」
「業正……」
業正は、そっと憲政の前へ跪いた。
「これからは、そばにおりまする」
「必ず、お守りいたしますからな」
「……業正……」
憲政の目から、涙がこぼれる。
「…………泣」
ーーーーーーーーーー
その頃、少し離れた場所では――。
出浦が、方円へ声をかけていた。
「……方円様」
「お見立てどおりでございましたな」
「あんな恐ろしい目に遭って、平然としていられるわけではない」
「それを立てるため、気がつかないふりをした方円様も……^^」
「ですが……」
出浦は、憲政のいる方へ視線を向ける。
「上杉憲政も、素晴らしい人格のお方ですな……」
方円は、静かに微笑んだ。
「だからこそ、私はお立てしたいと思っているのですよ」
「あの方には、その器を持っておられますからね」
「これからも、よろしく頼みますよ。出浦」
出浦は、深く頭を下げる。
「……ハハッ」
コメント
1件
うわ、この回は胸に来るものがありましたね……。憲政様が「子を失ったあの時のように怖かった」って本音を漏らすところ、旗印として必死に余裕を装ってた反動がじわっと伝わってきて、ぐっときました。業正が「気づかないふり」で支える距離感も、方円の読みの深さも、大人の関係って感じで素敵です。ネズミの処理の冷徹さと、憲政への敬意が同居してるのも琴寧さんらしい世界観だなあ。続き、すごく気になります!