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屋上の親友

10 - 本当の姿

2025年10月07日

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「ルイに会いに行こう!」


想像の斜め上を行く彼の発言に僕の思考は動きを止める。

僕は腑抜けた声で、は?と聞き返す。


「待ってても会えないのなら、こっちから会いに行っちゃおうよ」


そのような発想は無かった。

そうだ、その通りだ。岸田さんに言われるまで全く思い浮かばなかった。しかし、こちらから会おうとしてもルイは学校のどこを探しても見つからない。ルイの連絡先を持っている訳でも無いし、どうすればいいのだろう。僕が頭を捻らせていると…


「とりあえず、今度の土曜日ここに集合!」


やけに明るい声色で話を進める岸田さん。

あまりの自信ありげなその表情に僕は引き攣った笑顔を浮かべる。


約束の土曜日。

指定された時間に待ち合わせ場所の本屋の前で彼を待っていると前方からオレンジ色の自動車が迫ってくる。自動車は僕の前で停車し、助手席の窓が開かれた。


「おまたせ」


運転席から身を乗り出したのは予想通り岸田さんだった。僕は軽く挨拶をし助手席へ乗り込む。車内は掃除も行き届き、清潔を保たれていた。

窓からの景色が一瞬にして過ぎ去っていく。運転席に座る岸田さんはなんだかいつも以上に年上のお兄さん感が漂っている。普段働いている際に着用している白いシャツにモダンなエプロンとはまた違った雰囲気の私服姿にどことなく緊張する。その上、車を走らせスマートにハンドルを握る姿がこれまた様になっている。ほんと罪深い男だ。

それから30分程車に揺られ、本日の目的地に到着。 そこは何の変哲もない一軒家だった。

本当にここで合っているのか不安を抱えながらも岸田さんの後ろを着いて歩く。

塀の前に立ちインターホンを押そうとした岸田さんがこちらを向いた。


「ここはね、ルイの両親やおばあさんとおじいさんが暮らしてる家だよ」


僕をここへ連れて来た理由を尋ねる前に、岸田さんは表札に瀧下たきしたと書かれた家のインターホンを鳴らした。

はーい。と女性の声がマイクから流れる。 それに対し岸田さんが名乗る。 すると岸田さんと親しそうに話す女性の声。その様子に岸田さんとどういう関係だろうと考えながら敷地内を見渡す。

インターホンが埋められている塀の向こう側には玄関へと繋がるレンガで整備された道や、樹木が庭に植えられウッドデッキも備え付けられていた。 ウッドデッキにはハンモックも置かれており、寛げるスペースになっている。


「さ、中へお邪魔しよう」


女性とのやり取りを終えた岸田さんに声を掛けられた。

状況を把握し切れないまま彼の後を追い、敷地内へと足を踏み入れる。


レンガの道を進むと、扉を開け笑顔で僕らを歓迎してくれる女性。 失礼ながら年齢は50歳前後だろうか。 ショートヘアがよく似合う綺麗な大人な女性。


「直樹くん久しぶりー! お連れの方もいらっしゃい」


ハキハキとした明るい声。 なんだかルイの面影があるように感じた。


中へ招かれリビングに置かれているソファへと腰を下ろす。

女性は丁寧に麦茶を出してくれた。 何故か僕にはいちご味の飴玉も渡された。 受け取ったはいいものの高校生の僕からすれば大分気恥しい。


「久しぶりに顔出したと思ったら、まさか直樹くんがお友達を連れて来るとはねー!」

「ルイにも紹介したくなって」


終始笑顔を絶やさず談笑をする女性。

この女性は山舘陽子やまだてようこと名乗り、なんとルイの実の母親だと言う。 まさかの出会いに緊張で胸の鼓動が早まる。 狼狽えながらも何とか会話を交わしているとキッチンの方から香り豊かなフィナンシェが乗っているトレーを持ち、にこやか男性が現れた。


「いらっしゃい二人とも。 直樹くんも運転疲れたろ?自信作のフィナンシェでも食べて、感想を聞かせてよ」

「え、これ作ったんですか?」

「ふふん!直樹くん驚いたろう?直樹くんパパに教わって、遂に合格を勝ち取った自慢のフィナンシェなのだよ!」

「そうなんですか…驚きです」


このエプロン姿の男性は、ルイの父親である、山舘真一しんいちと名乗った。 どうやらルイの両親は岸田さんの家族とも繋がりがあるようだ。前に少し触れていたが、岸田さんの父親は凄腕のパティシエらしい。

食欲をそそる香りに釣られ、沢山積まれている中から一つ手に取りやや大きめの一口。 すると、焦がしバターとアーモンドの豊かな風味が口全体に広がり、しっとりとした食感が完璧にマッチしていた。


「お、美味しいです!!」


感動を感じたままに伝え、フィナンシェを一つペロリと平らげた。 流石はパティシエのお墨付き。 焼き菓子専門店にも劣らぬ美味しさだった。


「嬉しいねぇ!沢山あるからいっぱい食べて!」


その言葉に心躍る。僕の胃袋もそれを更に求めている。


「旬くん、喉詰まらせないでね?」


興奮状態の僕とは裏腹に、隣に座る岸田さんは落ち着いて一つをじっくり味わっていた。


「そういえば、まだルイに会ってないよね?早く話しておいで」


思い出したかのように僕達の本来の目的を話題に出す陽子さん。それを聞き岸田さんがソファを立つ。 それに合わせて僕も立ち上がり彼へ着いて行く。

その様子を見ていた真一さんが一つ提案する。


「じゃあ、ルイにも渡してやってくれ。私の自慢だよ」


岸田さんは頷き、真一さんからフィナンシェを数個乗せた皿を受け取った。


岸田さんの足取りには一切迷いが無く、まるでルイがどこに居るのか分かり切ったよう。

すると、一つの扉の前に立ち一言呟いた。


「ここだよ」


その言葉に今更実感する。

ここ最近、校舎の屋上含めどこを探しても見当たら無かった彼がこの扉の向こうに居る。 彼はここで何をして過ごしていたのだろう。 学校をサボっていた理由を聞き出してやろうと考える。その場で一度深呼吸をし、覚悟を決めたことを視線で合図する。それを受け取ったのか、岸田さんは扉に手を掛け開け放つ。

扉を開けるとそこに広がっていたのは、グレーで統一された家具が置かれているよくある男子高校生の部屋だった。 埃一つ無く、なんだか生活感が感じられぬ程綺麗に掃除されていた。

そんな中、部屋の雰囲気に合わない物が壁側に置かれていることに気が付く。 それは木製の箱のような形をし、段になっていて下段には綺麗な花が活けられており、同じ段にお香とおりんが並べられ、誰かの仏壇というのが見て取れる。 どんな方の仏壇だろうと飾られている写真の人物を確認する。写真を見た途端時が止まった感覚に陥る。

その人物は、つい最近まで目の前で言葉を交わしていたルイ、彼なのだから。

一点を見詰める僕の肩を軽く叩く岸田さん。それを合図に意識を取り戻す。


「……ぁ、」

「無理もない。辛かったら部屋を出るんだよ」


岸田さんはそう言い、ルイの仏壇の前に座り一礼、手に持っていた皿をお供え物として供え線香を立ておりんを鳴らし、手を合わせ合掌した。

部屋にはおりんのチーンと澄んだ金属音が静かに鳴り響く。とても綺麗な音だ。

音が鳴り止むまで僕は何もできず、ただ立ち尽くすだけだった。


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