テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
す
1,053
アンミン
7,036
#主人公最強
杯雪乃
1,729
す
1,625
「ったくもー。
世話焼かせないでよね」
「旦那様が来たら、何か騒動を起こさないと
気が済まないのかお主らは」
アジアンチックな童顔の妻と、欧米モデルの
ような顔立ちの妻が仁王立ちして、
その前に正座で座る、王家直属の研究機関の
研究者たちを叱責していた。
「水魔法で作成した水やりは禁止していた
はずじゃぞ。
いったいどこまで暴走すれば気が済むのか」
この施設の最高責任者である白髪の老人が、
腰に両手を当てて静かに怒る。
「も、申し訳ございません」
「貴重な研究素材であったので……
ま、まさかあのような事になるとは思いも
よらず」
さすがに今回ばかりは、全員が平謝りで
土下座せんばかりにひれ伏す。
「しかしシン殿。
あの『人面樹』はいかがされますか?」
リオレイ所長から、今後の事を相談され、
「今のところ様子見でしょうね」
そう私はアゴに手を当てて返す。
結局、あの暴走した『人面樹』は―――
私の能力によって無効化され、事なきを得たが、
普段なら一段落した後、元通りにするところ、
枝を触手のように動かし、人を襲う狂暴性は
無視出来ず……
今回は元に戻す事なく、そのままにしていた。
「えっ!?
あのままにしておくんですか!?」
「そんな!
それじゃ研究が―――」
顔を上げて、抗議じみた声を研究者たちは
上げるものの、
「「あ”?」」
と、すごむメルとアルテリーゼの前に沈黙し、
「少なくとも、以前の状態に戻るまでは
うかつに手は出せませんよ。
それまでは自然の水と、あと魔石でしたっけ?
それを与えるのを止めて……
こちらに来た時の状態になるまで
お待ちください。
それが明日になるか明後日になるか―――
1年後になるかはわかりませんけどね」
私の言葉を聞くと、研究者たちはガックリと
うなだれた。
「まーた何かやらかしたのかあそこは。
まあ、災難だったな」
40代前半に見える、グレーの短髪に白髪が
混じった男性……
ギルド本部長は頭をガシガシとかきながら、
私たちの話を聞いていた。
「おとーさん、おかーさんたちもお疲れ様ー」
黒髪ショートに燃えるような瞳を持つ、
娘が飲み物を用意しながら労ってくれる。
あの後、お土産を一通り公都に送ってもらう
手配をして、冒険者ギルド本部に戻って来た
私たちは―――
ライさんのいる本部長室で、事の顛末を
報告していた。
「困ったものですねえ」
「でも病気みたいなものですからね。
治る事は無いでしょう」
童顔で、その金髪を腰まで伸ばした女性と、
ミドルショートの黒髪の眼鏡をかけた女性が、
それぞれ2人の幼児を抱きながら感想を述べる。
ライさんの秘書的存在である、サシャさんと
ジェレミエルさんだ。
「お二人とも、シンイチとリュウイチの面倒を
見て頂いていたようで……
ありがとうございます」
私が感謝を込めてお礼をすると、
「とんでもありません~♪
こんな天使を抱かせてもらえるなんて」
「ドラゴンの赤ちゃんだったラッチちゃんも
可愛かったですけど―――
こっちも反則級ですよぉ♪」
と、息子たちのほっぺをふにふにしながら、
とろけ切った表情になる。
「そうでしょうそうでしょう♪
なんたって自慢の息子ですから♪」
「お主たちもいずれ母親になるのだ。
世話を経験しておいて損はあるまいて♪」
と、息子たちを褒められた妻二人はまんざら
でもなく、
「そして、ボクの自慢の弟でもあるのだ!」
と、ドヤ顔でラッチが胸をはる。
微笑ましい光景に、こっちも口元に笑みが
浮かぶ。
すると秘書風の女性2名が上司の方を向いて、
「だからライオネル様ぁ、さっさと跡継ぎを
ティエラ王女様に仕込んでくださいよ」
「ごぶっ!?」
急に話を振られた本部長が、口に含んでいた
飲み物を吹き出し、
「そうですよ!
それが確定しませんと、私たちだって
仕込めないんですから」
ゲホゲホとせき込む彼を私は介抱する。
ていうか、肉体関係があるのは知っていたつもり
だったけど、要求がドストレート過ぎる。
こちらの世界の女性ってこうなのだろうか。
「そ、そういえば鮎は食べましたか?」
「あ、ああアレか。あの魚か。
うん、すごくうまかった。
こっちで完全養殖するよう頼んできたんだろ?
王家も後押しするから、ぜひ頼むわ」
と、話題をそらす事に成功し……
その後は以前送ったメーロー(メロン)や
コーヒーなどの話に持って行った。
「またやらかしたのかアイツら。
懲りねぇなホント―――」
「ははは……
何ていうか、もう慣れた感じがありますけど」
白髪交じりのアラフィフの筋肉質の男性が、
ガシガシと頭をかく。
ギルド本部には料理人として鬼人族があり、
アユが来たと知った彼の手で、様々なアユ料理が
準備され、
結局その日は本部で一泊。
翌日、アルテリーゼの『乗客箱』で、私たちは
公都『ヤマト』へと帰還した。
「しっかし、毎度毎度飽きないッスねえ」
「研究熱心なのはいい事だと思いますが」
次期ギルド長である、長身の褐色肌の青年と、
その妻の、タヌキ顔の丸眼鏡の女性が呆れながら
軽くため息をつく。
公都に戻って来た後、妻2人と娘は息子たちと
一緒に、児童預り所へ―――
私は報告のために冒険者ギルド支部へと
来たのだった。
「まあでも、お前さんのおかげで被害は
無かったんだろ?」
ジャンさんが気遣うように言ってきたので、
「一応は……
ただ、面白い事もわかりましてね」
「ん?」
「何かあったんですか?」
私の答えにレイド君とミリアさんが聞き返し、
「『人面樹』は確かに、鬼人族の記録にあったん
ですけど―――
いくら手を加えたとはいえ、枝を触手のように
伸ばす、そんな記述は無かったんです。
ですが、そういう魔物の記録も、
鬼人族の記録にありまして」
「ほう?」
と、ギルド長が好奇心に満ちた目で声を上げる。
「特定の名前はありませんが……
吸血する木の怪異の記録がありました。
どうも人間の生き血や気力を吸う植物の
言い伝えがあったらしくて」
「へえ、そんな魔物までいるッスか。
あれ? でも鬼人族の伝承って事は」
「という事はシンさんが元いた世界の?」
そこで次期ギルド長夫妻が鋭い指摘をしてきて、
「そもそも、鬼だって土蜘蛛だって雪女だって、
語られてはいたもののおとぎ話の類でした
からね。
こっちの世界に来て実体化したのか、
それとも人間が見つけられなかっただけで
実在したのか―――」
そこで私は一息ついて、
「まあ、詳しい事は王都の研究機関が
分析してくれるでしょう。
また彼らに一ヶ月の実験禁止を言い渡し
ましたからね。
その間は鬼人族の記録とにらめっこして
いるでしょうし」
そう言って私が苦笑すると、他のメンバー3人も
釣られて笑った。
「光聖勇者隊に動きが?」
銀の短髪の、三十代に見える中肉中背の男は
部下であろう眼鏡をかけた白髪の、四十代
くらいの男性に聞き返す。
「コボルト自治区からは完全撤退したようです。
ですが、今度は単眼族の自治区において、
光聖勇者隊やそれに関わる者たちが、自治区へ
移動し始めているとの事……」
10代後半に見える、青い髪をショートカットに
した少女が、補足するように説明する。
アングア大陸・ルガシオン公国―――
その首都オルレニア。
そこの大宮殿奥にある聖金樹騎士団総司令の
部屋で、主なメンバーが話し合っていた。
「目的は何でしょう?
コボルト自治区における虫を使った計画は、
内容がまだ不明のうちに阻止しましたが」
騎士団総司令であるスクートが疑問を
述べると、
「今回、あの虫や小動物を使った実験施設の
ようなものは、確認出来てないようだ」
「まだ未発見の可能性もありますけど……
一度防がれた手を再度使うというのは、
考えにくいかと」
聖金樹騎士団第『ゼロ』軍団長・ウルフェンと、
副軍団長・シミスが続けて答える。
「まあ、よからぬ事を企んでいるのは、
間違いないでしょうけどね。
一応、シン殿の耳に入れて置いた方が
よいでしょう」
「ただ連中、亜人や人外に嫌がらせするのは
日常ですし―――
今回は単眼族の自治区に多く集まって
いるだけ、とも考えられるので」
「シン殿に話しておくのはいいとして、
ノクティあたりに先に潜入してもらって、
なるべく情報を集めてもらいましょう」
そう聖金樹騎士団の主要メンバーは話し合い、
方針を詰めていった。
「暑さが少し引きましたね、バンディーニ様」
「ええ。
ここは地方だからか、いくぶんか涼しい
ですし……」
赤いミドルショートの髪をした、男とも女とも
つかない人物は―――
ローブのようなもので全身を覆った者の言葉に
答える。
ルガシオン公国・単眼族自治区……
その中の一番大きな街に、2人は滞在していた。
「ところでギムリ。
光聖勇者隊は今のところ、どの程度確保出来て
いますか?」
「あちこちに声をかけておりますが―――
質を考えますと、計画の主軸に使えるような
者の確保は1/3程度かと……
数だけはいるのですが」
それを聞いた主従の主であろう方は、
「仕方ありませんね。
下調べ程度であれば、今の人数でも
十分なのですが―――
長期的かつ、慎重を期す作戦に使える者が、
あなたしかいないというのが何とも……」
従者である者の実力を認めると同時に、
優秀な人手が足りない事を主は嘆く。
「返す返すも―――
飛行虫が使えなくなったのが痛いですね……
あれが成功していれば、他の亜人・人外の
自治区にも同様の手段を適用出来たのですが」
「純粋な人には被害を出さぬよう―――
創世神様の庇護の対象外だけを処分する……
難しいものです」
2人は、どちらからともなく軽く息を吐いて、
「ですが、あの虫は最も効率が良いから
採用しただけであって、その手段に執着する
理由はありません。
単眼族自治区の案は、代用として使えます。
そちらを進めましょう」
「は……っ!」
そうしてバンディーニとギムリは、新たな地で
陰謀に着手、進め始めた。
「はあ、単眼族自治区で」
「ルガシオン公国は、複数の亜人・人外自治区を
所有しているのですが、
今度はそこで、光聖勇者隊が騒いでいる
らしく―――」
公都に戻って一週間ほどした後……
私はシミスさん、そしてグリーンの短髪の
ガッシリとした体格を持つ青年―――
ノクティさんの訪問を自宅兼屋敷で受けていた。
しかし単眼族、つまり一つ目の亜人とは。
ファンタジーの世界ではあるものの、
それが実在すると初めて聞かされるのは、
やはり驚くものだ。
「まーた何か企んでいるの?」
「どうせろくでもない事ではあろうがのう」
メルとアルテリーゼが苦々しく返し、
「でもさー、虫を使った計画?
というのは阻止したわけでしょ?
次は何をしようとしているの?
その単眼族自治区とやらで」
両手に弟2人を抱えるようにして、
ラッチが質問すると、
「それは、直接その自治区へ行って来た
ノクティから……」
そう聖金樹騎士団第『ゼロ』副軍団長が、
彼に手を差し出して促すと、
「はい。
まだ調査は初期段階のため、たいした
情報はありませんが。
ですが、コボルト自治区において計画の
中心になって動いていた、光聖勇者隊の
上層部と思われる人物が現地入りしています」
おー、そこまで調べてあるのか。
同時に、深刻さがうかがえる。
「また、亜人や人外に何かしようというので
しょうか?
それにしても―――
執拗というか、しつこいと言いますか。
親兄弟でも人外に殺されたんですか彼らは」
呆れたように私が話すと、
「実のところ、このように具体的に
動き始めたのは、つい最近なのです。
それまではただの嫌がらせ、ないし
けん制程度に亜人・人外差別を
していたのですが」
「あの虫を使った計画も事前に阻止したので、
実行されていたらどれだけの被害が出たのか
不明ではありますが……
ただこちらの思い過ごしと言うには、
人員や物資が動いていますからね。
現に、コボルト自治区にいた光聖勇者隊の
数名は、その近郊で遺体となって発見されて
います」
副軍団長の後、騎士団の一青年から出た言葉に
私たちは顔を見合わせ、
「それはちょっと穏やかじゃないねー」
「死人まで出ているとなるとのう」
妻2人が眉間にシワを寄せて、
「その、死んだ勇者隊とやらの死因は」
私がさらに情報を要求すると―――
「これといった外傷はありませんでしたが、
小動物か虫に刺されたような跡が。
担当者はそれによる毒だと見ています」
う~ん……
自然死じゃないだろうな、とは思っていたけど。
虫の絡んだ計画、小動物か虫の毒による死因、
出来過ぎている。
「そういえば、それっていつわかったの?」
ラッチの別の角度から質問に、
「私どもが遺体の情報を入手したのは、
10日前かそこらでしょうか。
すぐにお伝えするべきだったのでしょうが、
『ゲート』を使うにしても―――
誰でもいいわけではなく……」
シミスさんが申し訳なさそうに頭を下げる。
そういやスクートさんたちって、騎士団の
上層部なんだよな。
そりゃ多忙なんてものじゃないだろうし。
『ゲート』だって、どこの馬の骨かわからない
使者に、ポンポン使われても困るしなあ。
まあ間に魔界を挟むから、怪しいヤツは
通れないだろうけど。
「そういう事であれば―――
『見えない部隊』のメンバーに、交代で
定期的にルガシオン公国へ行ってもらった方が
良さそうですね」
実際、ルガシオン公国とはまだ正式に国交を
結んでいない。
ウィンベル王国は水面下で同盟諸国と共に、
国交樹立に動いてはいるが、
「現状の関係では、それが一番でしょう。
海の向こうの事なので、時間的制約が
ある事もありますが、
正式に国交を結ぶのはまだまだ先かと」
「?? 何でー?」
娘が彼女の言葉に首を傾げると、
「自分も聞きましたが、その……
歴史清算と言いますか。
特に魔王や亜神について、どのように
上層部を納得させたらいいのか―――」
それを聞いた家族は、何ともいえない
表情になる。
魔王・マギア様は友好的な関係をこちらと
結んでいるし、何より人類の敵とされた
歴史の真実は……
むしろ騙された被害者サイドとなる。
(■188話
はじめての せいじょさまのこえ参照)
亜神・フェルギ様は今は穏やかに暮らしており、
そもそもが『創世神教に敵対するのなら戦いも
やむ無し』、が主張であって―――
別の宗教は認めているし、交渉も出来る。
今や光聖勇者隊の方が過激派だ。
(■333話
はじめての ふししゃとほうもん3参照)
「まあ海の向こうの事でもあるし……
内政干渉はしない、が基本方針だから。
あと、それで―――
その単眼族自治区での光聖勇者隊の動きは、
それで全部ですか?」
私が現状で知り得る情報を聞こうとすると、
「そうですね。
今のところ目立った動きはありません。
コボルト自治区での主要人物の現地入り、
後は……
連中、どうも水源を調べている感じ
でしたね」
ノクティさんの答えに、
「水源?
つまり、川とか湖とか?」
「そんなところを調べてどうするのだ?」
すぐにメルとアルテリーゼが疑問の声を上げる。
地球での感覚なら、すぐに思いつくのが
毒だろう。
毒を水源に入れたり流したりして―――
水を断つのだ。
ただ、妻2人の反応が薄いのには理由がある。
こちらの世界、水源は決して必要ではない。
何せ魔法で水が出せるのだ。
公都で栽培している穀物や野菜も、
その水魔法を使っているし、
水魔法自体珍しいものでも無い。
だから排水路はあっても水道が存在しない。
水源を抑える、断つ、という行為に……
意味はあまり無い世界なのである。
もちろん、毒を使われた場合、そこに生息する
魚や動物が食べられなくなる―――
という被害もあるにはあるが、
食事とてこの世界、子供以外は必須という
わけではないからな……
だから騎士団の2人も困惑した表情で、
「相手の意図が全く読めないんですよ。
前回は、虫やら小動物やら準備して
いましたけど、今回はそれも無い
ようでして」
「これから運び入れる予定なのかも
知れませんが―――
現状で知り得る情報はこれだけです」
シミスさんとノクティさんが、困り果てた
声で語る。
「水源かあ。
ねーねー、おとーさん。
前にラミア族の湖に、ヒュドラを
入れられた事が無かったっけ」
(■59話 はじめての らみあ
■65話 はじめての いちじほご参照)
ラッチの言葉に聖金樹騎士団の2人が反応し、
「ヒュドラが、ですか」
「確かにそれは被害が大きそうですけど」
私はアゴに手をあてて、
「うーん……
でも、そんな事をしたら目立つなんて
ものじゃありませんし。
どんなに危険な魔物でも、水中にしか
いないのなら―――
水場に近付かなければいいだけですからねえ」
「まー、そうだね」
「騒ぎを起こす程度なら、いいのかも
知れぬが」
そうしてああでもない、こうでもないと
議論が続き、
シミスさんとノクティさんは家に一泊して
いく事となった。
コメント
1件
第344話、拝読しました🌷 今回もシンさん一家の賑やかな日常と、じわじわと動き出す光聖勇者隊の影が交錯して、目が離せなかったです。人面樹の暴走処理と研究機関のやり取り、あの妻二人の仁王立ちがもう最高に頼もしくて😂 笑っちゃいました。 そして単眼族自治区での水源調査…これはまた何か仕掛けてくる気配ですね。ノクティさんたち騎士団の情報も含めて、今後の展開がすごく気になります。ラッチが弟たちを抱きながら質問するシーン、成長を感じてじーんとしました。次回も楽しみにしています!