夜中。
志摩んちのリビングの隅っこに、久住はブランケットをかぶって丸くなってた。
畳んだ布団の上じゃなく、なぜかソファの端。布団は使われてすらいない。
伊吹がリビングにそっと入ってきて、足音を忍ばせながら覗き込む。
「……ちっさ。なんか久住、ちっさくなってね?」
「最初からちっさいよ」
志摩も眠そうな目でキッチンから水を飲みながら返す。
それでも目線は久住に向けられていた。
久住はというと、くるんと身体を丸めて、膝を抱えてブランケットの中にすっぽり。
髪が少しはみ出てるくらいで、あとは全部包まってる。
伊吹が眉をひそめる。
「なんか、あいつ猫みたいに丸くなってんじゃん……こないだまで爆弾ぶん投げてたやつとは思えねぇ」
「……こういうとこだけは、ちゃんと生きてるって感じするな」
志摩がぽつりと言った。
しばらくふたりとも黙って見ていると、ブランケットの奥から小さく「くしゅっ」とくしゃみ。
そのあと「ん……さむ……」と寝言のような声が漏れて、さらに深く丸まった。
伊吹、つい笑ってしまう。
「なにこの現象。めっちゃ警戒心強い野良猫が、急にストーブの前に寝転がったみたいな……」
「少しは気を許したってことだろ。あいつなりに」
志摩はそう言って、久住のすぐそばにあったタオルケットをそっとかけ直した。
「……起きたら絶対文句言うな、これ」
「絶対言う」
「『触んなや』『勝手なことすんなや』『夢に伊吹出てきて最悪やったわ』って三連コンボで来る」
「言うな、フラグ立つ」
ふたりしてぼやきながら、それでも久住にかけた毛布だけは丁寧だった。
「……まあ、文句言うってことは元気ってことか」
「うん。そんときはまた、捕まえてやればいい」
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ブランケットの奥で、久住がひとつ深い息をついた。
それはたぶん、久しぶりの“安心”の音だった。