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「よし、じゃあ、次はコハルだな……。なあ、コハル」
「は、はい! なんですか?」
「最近、何か困ったことはないか?」
「困ったことですか……。うーんと、特にありません」
「そうか……。じゃあ、何か俺にしてほしいことはないか?」
「し、してほしいことですか?」
「おう、俺にできる範囲でなら、なんでもいいぞ」
「そ、そう言われても……急には思いつきませんよ」
「コハル、こういう時は遠慮しなくていいんだよー?」
「……お姉様……。そうですね。そうですよね。こういう時は思い切って言った方がいいですよね。分かりました、では参ります! お兄様!!」
「おう、なんだ?」
「わ、私と……その……あの……えーっと……」
「コハル、もっと肩の力を抜いてごらん。そうすれば、ちゃんと言えるよ」
「……お姉様……。分かりました、そうします。お、お兄様!!」
「ん? なんだ? コハル」
「そ、その……わ、わた……私と一緒に……ケーキ作りをしませんか!!」
「……え? ケーキ作り? うーん、まあ、別にいいけど……」
「本当ですか!」
「あ、ああ、本当だ」
「わーい! わーい! やりましたー!」
「はははは、良かったね、コハル」
「はい! お姉様が励ましてくれたおかげです!」
「そんな大袈裟《おおげさ》な、僕は何もしてないよ」
「もうー、お姉様ったらー。でもそういうところも大好きですー!」
「あっ、こら。いきなり抱きつかないでよー」
「えへへへ、ごめんなさーい」
「まったく、しょうがないなー」
彼はその様子を温かい目で見つめていたそうだ。
*
台所に行って、ピンク色のエプロンを装備したナオトとコハル。(それをビデオカメラで録画するミサキ)
「さて、じゃあ、まずは何を作るか決めないといけないな。ショートケーキ、モンブラン、チョコレートケーキにミルフィーユ……色々あるけど、何を作る?」
コハルは赤面しながら、彼の耳元でこう囁《ささや》いた。
「……そ、その……お、お兄様をケーキにしても……いいですか?」
彼はそれを聞いた時、その場で停止してしまった。それは比喩ではない。
本当に数秒間、動かなくなってしまった。
俺が……ケーキになる?
ど、どういう意味だ? え、えーっと、あれか? 自分の体に赤いリボンを巻きつけて、誕生日プレゼントは私だよーっていうやつか?
それとも、自分の体にチョコレートで『私を食べて』っていう文字を書くっていうやつか?
ケーキ、ケーキ、ケーキは、だあれ?
あー、いかん、いかん。なぜか今『ま○マギ』の劇場版を思い出しちまった。
えーっと、とりあえず一旦、落ち着こう。
うん、きっとそれがいい。そうしよう。いや、そうするべきだ。
彼は心の中で二回、深呼吸するとコハルにこう言った。
「な、なあ、コハル」
「は、はい、何ですか?」
「お、お前今、俺をケーキにしたいって言ったよな?」
「は、はい、言いました」
「そ、それはその……本当にやりたいのか?」
「えーっと、はい、そうです。私はお兄様をケーキにして、そのあと体の|隅々《すみずみ》まで……」
「ストップ! ストップ! 別に最後まで言わなくていいから、とりあえず俺の話を聞け!」
「は、はい、分かりました」
彼女はキョトンとした顔で彼の顔を見つめ始めた。
はぁ……まったくもう……コハルの頭の中はいったいどうなってるんだ?
俺のことを好いてくれるのは嬉しいけど、まさか俺をケーキにしたいと言い出すとはな……。
うーん、まあ、骨まで食べられることはないだろうから、今回は特別に許してやるか。
「……コハル」
「は、はい、何ですか?」
「今回だけは俺をケーキにすることを許す。ただし! くれぐれも俺の体に悪影響をもたらすような食材や調味料は使うなよ?」
彼がそう言うと、コハルは目を輝《かがや》かせた。
「はい! 分かりました! それでは、とりあえず服を全部脱いでください! あと、お兄様は私がいいと言うまでその可愛いフリルが付いたピンクのエプロンで前を隠していてくださいね?」
うーん、色々とツッコミたいところがあるが、今回は大目に見よう。
「分かった。じゃあ、なるべく早めに頼むぞ」
「はい! お任せください! マッハで作ります!」
「はははは、それは楽しみだな。期待してるよ」
お兄様に期待されている!
これはもう、本気で作らないといけませんね!
「ご期待に添えられるように精一杯頑張ります!」
それからコハルは、自分の髪の毛を触手のように動かしながら、目にも留まらぬ速さでケーキの生地やトッピングに使う材料を切る作業をやり始めた。
それからしばらく経《た》って……。
「お兄様! まずはスポンジでできた服を着てください!」
「お、おう、分かった」
彼はコハルが作ったスポンジケーキを瞬時に身に纏《まと》うと、その出来の良さに驚いていた。
「す、すげえな、この生地《きじ》。なんか綿《わた》みたいにフワフワしてる」
彼がはしゃいでいると、コハルはその服に生クリームを塗り始めた。
「えいさっ、ほいさっ、おいしくなーれ」
「うわあ、これはすごいな。コハルにこんな特技があったなんて知らなかったよー」
「い、いえ、私は今、修行中ですから、お姉様の方がうまいですよ」
「へえ、そうなのか。なんか意外だなー」
そんなことを言っているうちに、コハルが最後の仕上げをやり始めた。
「ホイップクリーム、イチゴ、キウイ、バナナ、パイナップル、桃《もも》、マンゴー……最後にチョコレー刀《とう》!」
「な……なにいいいいいいい! なんじゃこりゃああああああああああああああああ!!」
彼が驚くのは当然である。
なぜならば、今の彼はどこからどう見てもケーキでできた剣士だったのだから……。
「こ……これはすごいな……。まさに職人技っていうかなんというか……」
「本当ですか! それは良かったです。作ったかいがありました」
「うんうん、食べるのがもったいないくらいだよなー。あはははははは……」
彼がそんなことを言うと、彼女は一瞬で彼の背後に移動した。
「お兄様。とりあえずこのままの格好でお風呂場に行きましょう。みなさんがお兄様を食べようとしていますから」
「そ、そうだな……。床を汚しちゃマズイもんな」
二人……いや三人は苦笑しながら、ミノリたちの前を通りすぎた。
いつもなら、ここでミノリ(吸血鬼)が呼び止めるのだが、今回は空気を読んでくれたようだ。
そのあと風呂場で何があったのかは、ナオトとコハルとミサキとビデオカメラしか知らない。
なお、その時の映像は夜になり、ナオトが眠ってから鑑賞するようだ。