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事件の翌日、霧がすっかり晴れた館の前で、相沢蒼は立ち止まった。
夜明けの光が丘の上を照らし、あの不気味だった館も、今はただの古い屋敷に見える。
警察の車が去り、館には静けさが戻っていた。
相沢は懐から霧島翔の日記の一枚を取り出し、しばらくそれを見つめた。
「真理は、光を失っても人の中に残る。
嘘もまた、同じように残る。」
相沢は小さく呟いた。
「――彼は、真理と嘘の境界で生きていたのかもしれないな。」
霧島翔の死は、ただの悲劇ではなかった。
彼が命を懸けて暴こうとした“霧島家の罪”は、やがて社会に波紋を広げていく。
永井沙織は新聞に記事を書き、佐伯蓮はすべてを清算して国外へ去った。
そして香坂真理――彼女は自首の前夜、警察に一通の手紙を残した。
「もし、あの夜に戻れるなら、彼にもう一度微笑みかけたかった。
霧の向こうに、あの人が待っている気がします。」
その文面を読んだ相沢は、しばらく何も言えなかった。
その日の午後、相沢は事務所に戻った。
デスクの上には、未開封の封筒が一つ置かれていた。
宛名は――“相沢蒼探偵事務所”。
差出人の名前は書かれていない。
封を切ると、中には短い手紙と、一枚の古い写真が入っていた。
「あなたが解いた“霧島家の事件”には、まだ続きがある。
真の黒幕は、死んではいない。」
写真には、霧島翔と見知らぬ男が写っていた。
その男の顔には、右頬に特徴的な火傷の痕がある。
相沢の指先が止まる。
「……まだ、終わっていなかったか。」
窓の外では、再び霧が立ちこめ始めていた。
街の向こうから、サイレンの音が遠く響く。
相沢は帽子をかぶり直し、外へと歩き出した。
霧の向こうで、また新しい“真実”が彼を待っている。
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